第146回直木賞にノミネートされたことで、一躍注目を浴びている桜木紫乃の『ラブレス』。北海道・標茶の貧しい開拓地で育った杉山百合江の波乱万丈の「女の一生」が描かれています。

 昭和25年。中学生だった百合江の将来の夢は、バスガイド。そのため高校に進学しようと、狭く粗末な小屋で酒浸りの父と、その父に虐待を受けている母、3人の弟と暮らしながら、受験勉強にいそしんでいました。ある日、夕張の叔母の家に養女に出されていた妹をとつぜん呼び寄せる父。じつは今まで百合江がやってきた弟たちの面倒を妹に見させるためで、自分は町の薬屋へ奉公に出されることに。

 ほどなく、その理由が父の借金、しかも酒代の返済であったことがわかります。さらに、薬屋の主人に体を汚される百合江。が、直後に、町に興行に来ていた旅の一座に志願し、歌手を目指すことで、初めて自分の人生を自分の手で切り開いていこうとするのです。

 幸せと、つらさ、悲しさが交互にくるような波乱に満ちた人生。読者は、彼女を待ち受ける運命のいたずらに同情しながらも、「他人の不幸は蜜の味」とばかりに、どんどん先が読みたくなるような構成になっています。

 主人公は裏切られ、利用され、損ばかりしているように見えます。一方、彼女に対比させる形で登場する妹の里実は、何事も段取りよく計画的にすすめ、自分の思うとおりに生きているように見えます。けれど作者は、本当にそうなのか? と読者に問いかけます。たとえば、百合江が自分の来し方を振り返り、幸せだったと静かに言う場面で。または、ラストの泣かせる再会のシーンで。

 この物語には彼女たちの娘も登場し、"四人四様"の生きざまが表現されています。DNAは受け継がれ、歴史が繰り返されようとしているところも興味深いものです。さらに、もう一人の女性の数奇な人生にも触れられていますが、詳しくは本書にて。

 結局、人はたった一つの人生しか歩むことができません。読後、そんな言葉が頭に思い浮かびます。そして、人生には愛情を抱ける対象さえあればいいのだと前向きな気持ちになれる一冊といえるでしょう。



『女性の幸せと不幸せを測るものさしとは? 直木賞候補『ラブレス』を読む』
 著者:
 出版社:新潮社
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