今、日本映画界で最も注目されている監督の一人、園子温が、超問題作とされた古谷実の人気コミック「ヒミズ」の映画化に取り組んだ。この映画で主役の2人、染谷将太と二階堂ふみがヴェネチア国際映画祭最優秀新人俳優賞を受賞。それがメディアでも話題になったので注目はしていたが、恥ずかしながら日本映画をあまり観ないので、少ない前情報と共に昨年末の試写に駆け込んだ。ところが、想定外にも嗚咽あげまくりの号泣。まさかこんなに泣くとは。

住田祐一(染谷将太)は15歳の中学生。誰にも迷惑をかけず、普通に生きたいと思う彼は、実家の貸しボート屋に集う、震災で家を失くした夜野(渡辺哲)たちと平凡な日々を過ごしていた。住田に恋焦がれるクラスメートの茶沢景子(二階堂ふみ)は、疎まれながらも、住田との距離を序々に縮めていけることに喜びを感じていた。しかし、借金を作り蒸発していた住田の父親(光石研)が頻繁に姿を見せるようになり、金の無心をしつつ、住田を激しく殴る。母親は男と駆け落ちをし、住田は天涯孤独となる。茶沢も両親から愛されず、住田に共鳴して必死に彼を励ます。やがて住田のボートハウスに借金取りが現れ、父親の借金を返せと住田に暴力を振るう。抵抗するも、住田の心は限界に来ていた。

比較的多くの人に観やすい感動作なので、衝撃的な作品が多い園子温監督や原作コミックの根強いファンの方々は、辛口に評価するかも。それでも私は脳天直撃を受けた。若い主役2人がスゴイのはもちろんだが、年齢的にどうしても、ホームレスや親など、自分と同じ大人たちの描写に考えさせられる。子供は大人によって作られる、そう実感せざるを得ない。暴力的で屈折した親もいれば、子供は国の未来だと、体を張って住田に恩を返そうとするホームレスの元社長もいる。泥臭くて、生々しくて、汚くて。社会からはみ出ても、這いつくばって生きようとする人々の声を代弁するようなくさいセリフも、使いどころが正しければこんなにもパワフルなシーンを作るのか。高齢化していく世代の魂の叫びに、涙が止まらず。

染谷将太は予想以上の演技力。無口で甘いルックスだが、暴力的で脆い、相反する要素を上手く使い分け、難しい役柄を体当たりで演じている。若い頃のレオナルド・ディカプリオのよう。二階堂みほも、予測できない言動が面白く、愚直なまでに住田を思いやる姿が切なくて共感できる。華奢だけれど肉感的な様子が危うい思春期の雰囲気と相俟って良かった。2人のおかげで、すっかり忘れてしまった10代の頃の反抗的で繊細な感情が蘇り、それへの郷愁でも泣けた。

ひとつ印象に残ったカメラワークがある。ストーリーの肝となる、父親と住田が争うシーン。静かで美しくて興味深かった。あんな残酷なシーンでああいう演出と撮り方をするとは、さすがのセンスと唸ってしまった。

原作の設定は2001年だが、監督は東日本大震災後の日本を無視できないと設定を変更したという。人生を貪欲に前向きに生きていこうとする少年少女の姿は、復興後、必死に立ち上がろうとする日本の姿とダブる。最後のシーンは本当に涙が止まらず、ヴェネチア映画祭でのスタンディング・オベーションも大納得。ちなみにヒミズとは、モグラ科の哺乳類。和名「日見ず」。(★★★★☆)


2012年1月14日(土)新宿バルト9、シネクイント他全国ロードショー
製作・配給:ギャガ
(c)2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ