GAKU-MCさんにとっての伊坂幸太郎作品は、仙台についての良質なガイドブック。



 GAKU-MCさんの人生の書である『キャプテン翼』と、白地図をめぐる妄想癖が明かされた前編に続き、今回はGAKUさんの最近の読書の話。ライブツアーの時には必ず3冊くらいの本を鞄に入れて出かけるという読書好きのGAKUさんだが、今まさに読んでいるのは伊坂幸太郎さんの『モダンタイムス』。

 「実は夫婦揃って伊坂幸太郎さんファンなんです。で、この間、嫁さんと下北沢で待ち合わせをした時の話。僕の方が時間より早く着いちゃったので、本屋さんで『モダンタイムス』を買ったんです。そうしたら遅れてきた嫁さんが"ちょっと時間があったから買い物してきたわ"って、手に持っていたのが『モダンタイムス』だったんです...。しかも夫婦揃って上下巻セット。これにはちょっとしょぼんとしましたねぇ。というわけですが、『モダンタイムス』、面白いです! 近未来を舞台にしたお話で、ネット上である特定の数単語を同時に検索した人を悲劇が襲うという物語なんですけれども。今の僕らって、困った時にまず検索をするじゃないですか。でもこれっていつ頃から始まったのかなって振り返ってみると、まだ10年も経ってないんですよね。そんな10年も経たないような習慣がもはや当たり前となり、誰も疑いを抱かなくなっている現代において、"検索することによって始まる物語"という設定はすごく面白いなぁと思っております。今、4分の3ほど読み進めていますが、終わってしまうのが悲しい。久しぶりにそんなふうに思える本に出合えたと思います」(GAKU-MC)
 
 ちなみに伊坂さんは、ご自身が仙台在住であることから、その多くの小説が仙台を舞台に描かれていることでも知られている。

 「伊坂さんの作品はほとんど読破しているんですが、仙台にライブで行ったりすると、"お! ここはもしかして?"みたいなところがけっこうあるんですよ。もともと仙台という街は僕にとってそれほど身近な街ではなかったんですが、伊坂さんの本を読んで行くと、街の情景がふっと自分のなかに入ってくる。どこに何があってと説明するだけではなく、そこで生活している人の息吹を感じさせてくれるんですよね。だから伊坂さんの本は、僕にとってはすごく良質なガイドブックでもあるんです」

 ところで、伊坂さんの本以外にも、夫婦で本を貸し借りすることが多いというGAKUさん。結婚生活が長くなるにつれて本の趣味もどんどん似てきているそうだが、奥様に本を薦める際には相当に気を使っているとも言う。

 「やっぱり自分が読んで面白かったからこそ薦めるわけですから、いろいろ言いたくなってしまうんですよね。なんならオチまで言いたい!みたいなね。でもそれだと何にもならないですから、どうやってその本のお薦めポイントを表現するかというせめぎ合いについては、いつも考えさせられます。とにかく面白いから読んでみろ!というだけでは、もはや奥さんクラスになると通じませんから。で、いつもがんばってラップをやっているがごとく、今回はこういう理由で面白いんだ!ということを、いろんなボキャブラリーを駆使して説得力を持った言葉で伝えるようにしておりますが、これがなかなか難しい。本を薦めるというのは、本当に難しいですよねぇ」
 
 本に関するプレゼン能力はかなり磨かれていそう! でも、奥様に薦めているだけではない。本が楽曲制作のヒントになることもあるのだそう。

 「旅のことを書いた本が大好きなんですが、なかでも影響を受けたのは、沢木耕太郎さんの『深夜特急』シリーズ。もうずいぶん前になりますが、これを読んだあとに『スピリチュアルバックパッカーズ』という曲を作りました。僕もアジアを、世界を観てまわりたいって思ったんですよね。でもその頃はコンスタントにリリースしなければいけない時期でもあり、休んでいる暇もなかったので、ならば精神的な旅をしようという思いを込めたんです。それからこの本は、ヒップホップ畑にあって、アメリカ、特にニューヨークやブルックリン、ブロンクスあたりに行きたがりだった僕を、ぐっとアジアに寄せてくれました。今でも、どこか旅行していいよって言われてもニューヨークという発想はないもの。やっぱりアジアとか、中南米とかそのもっと下のあたりとかアフリカとか。先進国よりは未開の地に行きたい! そういう志向になったのは、完全に沢木さんの影響だと思います」
 
 ちなみにGAKUさんが今年行った「ACOUSTIC CANDLE LIVE TOUR 2011」は、キャンピングカーで九州から北海道まで走って行って、行く先々でライブをするというものだった。

 「ツアー中は本当に毎日が珍事件のようなもので、飛行機に乗って出かけて、ホテルに泊まるような旅では絶対に味わえない気持ちになれました。僕はこれからも音楽でもっとがんばりたいと思っているんですけれども、ツアーのやり方もこんなふうに地べたに根付いたような旅のスタイルでやっていきたいと思っています。これも沢木さんの本を読んだおかげかなぁ」
 
 翼スピリットのみならず、沢木スピリットまでも胸に宿らせているGAKUさん。このほかにも、音楽活動に影響を与えた本は数多い。

 「楽曲制作をするうえで、本当にいろんな本から影響を受けています。最近でいうと、作家で自由人の高橋歩くんの本は、いつの時代もシンプルな言葉で僕らの背中を押してくれる。僕の楽曲にもそんなスピリットを反映できたらいいなと思っています。あと、俵万智さんの短歌もわりとこまめに読んでいますね。限られた文字数というルールのなかで産み出される言葉の魅力にはすごく惹かれるものがあります。もっといえば『坊ちゃん』かな。中学校の頃に、毎年読書感想文のテーマにしていたのが『坊ちゃん』だったんです。使い回してたんですけど(笑)。でもね、夏目漱石さんのことをある時調べていたら、中学校の教師として生徒に英語を教えていたということを知りました。で、夏目漱石先生、"I love youを和訳したらなんて言うのかな?"って生徒に聞いた。すると生徒のひとりが"先生、それ簡単。愛してるよだよ"って答えた。そうしたら夏目漱石先生が"それは違うぞ"と。"I love youを愛してるなんて訳す国民性は我々にはないから、その答えは間違いだ"と言った。"じゃあ先生、何が正解なんですか?"って生徒が尋ねると、夏目漱石は"I love youは『月が綺麗です』と訳しなさい"って。う〜わ〜〜、いい話!って思ってね。それで僕は、まさに『月が綺麗です』という曲を作ったんです」
 
 う〜わ〜、GAKUさんの話もいい話! というわけでこれからは、『坊ちゃん』を読む時のBGMには、GAKU-MCさんの『月が綺麗です』がよろしいかと!!



GAKU-MC(がく・えむしー)
1970年、東京都生まれ。90年に「EAST END」を結成し、94年には「EAST END×YURI」名義の『DA.YO.NE』でヒップホップ初の紅白出演を果たす。今年、長年所属した事務所を独立し、自身のレーベル「Rap+Entertainment」を立ち上げ。"ラップで世界をプラスの方向に"をキーワードにライブ活動を展開している。また、11月に発売したアルバム『キュウキョク』は、完全手売りで販売。ライブ会場での販売のほか、HP(http://kyukyoku.raplus.net/)では、GAKUさん本人が購入者宛てにMP3ファイルをメールで直送するという異例の試みを行っている。「農業でいう顔が見える生産者のように、顔が見えるミュージシャンでありたい」という思いから。







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