漫画家・佐藤秀峰日記「自炊代行について。」

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今回は漫画家・佐藤秀峰さんのブログからご寄稿いただきました。

■漫画家・佐藤秀峰日記「自炊代行について。」
気になるニュースがあったのでご紹介させてください。

作家の浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、東野圭吾氏、弘兼憲史氏、武論尊氏の7名が原告となり、スキャン代行業者2社に対し原告作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求める訴訟を起こしたそうです。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

「東野圭吾さんら作家7名がスキャン代行業者2社を提訴――その意図」 2011年12月20日 『eBook USER』
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1112/20/news100.html

訴状で被告となっているのは、『スキャンボックス』を提供する愛宕と、『スキャン×BANK』を提供するスキャン×BANKの2社だそうで。いわゆる“自炊代行業者”です。

ここでいう“自炊”というのは、紙の本があったとして、それを裁断、スキャンして電子データ化する作業のことを指します。“自炊代行業者”とは、本の所有者の依頼でそれらの作業を代行する業者を指す言葉ですね。

紙の本というのは、量が増えると保管場所に困りますし、かと言って、読み返すことがあるかもしれないので、捨てるのもためらいがちです。であれば、データ化して保存しておこう、という人が増えているようで、その行為を指す隠喩が“自炊”です。そんな言葉が一般的に使われるほど、自炊は日常的な行為になってきているのです。

僕も自炊したことがありますし、今ある電子書籍サイトで流通している漫画のデータはほぼ100%が単行本を裁断しデータ化したもので、原稿からスキャンしてデータを作っているところはほぼありません。この文章をお読みになっている方の周りにも、自炊を行なっている人の1人や2人はいるのではないでしょうか。

でも、多くの人がやり始めているとは言っても、実は自炊も結構大変なんですよ。裁断機とスキャナを購入し、地道に1冊ずつ裁断してはスキャンし、パソコンに保存して、ファイルを管理し……。そこで、自炊を代行してくれる業者が登場、安く大量の自炊を引き受けてくれるぞ、2011年9月には約100社にまで増加、というのが最近までの流れです。
今回訴えられたのはこの“自炊代行業者”ですね。

オレの本を勝手に自炊代行するな」というのが、作家たちの主張と言っていいでしょう。自炊代行が著作権法に違反するという主張です。

著作権法では、著作物の私的使用を目的とする場合は、その「使用する者が複製することができる」と定められています。
自宅で自分の買った本を複製して読んでもOK というワケです。なので、本の所有者が自分で“自炊”を 行うことは違法ではないのですが、代行業者は“使用する者”ではないため、著作権法の複製権侵害に当たると言いたいワケですね。

この訴訟が起こる前、実は漫画家や作家、出版7社は、自炊業者100社以上に対し、連名でこんな質問状を送りつけています。まずはご覧ください。


質問書

前略

別紙記載の差出人(以下「差出人」といいます)は、貴社が、受注による市販書籍のスキャン事業(以下、「スキャン事業」といいます)を行っていることを把握しております。これに関し、貴社に以下のとおり質問します。
(質問1:)
 スキャン事業を行っている多くの業者は、インターネット上で公開されている注意事項において、「著作権者の許可を得た書籍のみ発注を受け付ける」「発注された書籍は著作権者の許可を得たものとみなす」などの定めをおいています。
 差出人作家は、自身の作品につき、貴社の事業及びその利用をいずれも許諾しておらず、権利者への正しい還元の仕組みができるまでは許諾を検討する予定もないことを、本書で通知します。
 かかる通知にもかかわらず、貴社は今後、差出人作家の作品について、依頼があればスキャン事業を行うご予定でしょうか。
(質問2:)
(1)貴社はスキャン事業の発注を受け付けるに際して、依頼者が実際に私的利用を目的としているか否かを、どのような方法で確認しておられるのでしょうか。
(2)貴社は、スキャン事業の、法人からの発注に応じていますか。
ご多忙とは思いますが、以上の各質問に対し、2011年9月16日までに、本質問書に添付の回答書により、下記の宛先までご回答下さい。
出版七社連絡会事務局

(別紙)
差出人一覧
あいだ夏波 愛本みずほ 青木琴美
青山剛昌 赤川次郎 秋本治
浅田次郎 浅田弘幸 あさのあつこ
阿刀田高 荒木飛呂彦 安藤なつみ
いくえみ綾 池野恋 池山田剛
石川雅之 石田衣良 石塚真一
石持浅海 伊集院静 一条ゆかり
五木寛之 内田康夫 浦沢直樹
江國香織 大暮維人 逢坂剛
大沢在昌 小川洋子 荻原浩
奥浩哉 奥泉光 甲斐谷忍
角田光代 桂正和 神尾葉子
上条明峰 川上弘美 かわぐちかいじ
岸本斉史 北方謙三 北川みゆき
北川タ夏 北見けんいち 樹林伸
京極夏彦 桐野夏生 くらもちふさこ
黒井千次 小池真理子 香月日輪
小山宙哉 さいとう・たかを 坂上弘
桜小路かのこ 里中満智子 猿渡哲也
椎名軽穂 重松清 篠田節子
白石一文 清野静流 宗田理
タアモ 高橋源一郎 ちばてつや
筒井康隆 津山ちなみ 冬目景
永井豪 西炯子 西村京太郎
楡周平 乃木坂太郎 馳星周
畑健二郎 葉月かなえ 林真理子
はやみねかおる 春田なな 東野圭吾
平岩弓枝 弘兼憲史 深見じゅん
福井晴敏 フクシマハルカ 藤子不二雄A
藤島康介 藤田宜永 武論尊
誉田哲也 槇村さとる 真島ヒロ
増田こうすけ 松本ひで吉 松本零士
三田紀房 道尾秀介 皆川亮二
水波風南 南勝久 宮城理子
宮城谷昌光 宮本輝 村山由佳
本宮ひろ志 森絵都 森川ジョージ
森田まさのり 森村誠一 森本梢子
やまさき十三 山原義人 山本一力
山本文緒 唯川恵 弓月光
夢枕獏 米沢りか 六花チヨ
若木民喜 渡辺淳一
角川書店 講談社 光文社
集英社 小学館 新潮社
文藝春秋

回答書

 2011年9月5日付け質問書に対し、以下のとおり回答します。
<質問1(該当する記号を○で囲んでください。)>
ア. 当社は今後、差出人作家の作品について、依頼があればスキャン事業を行う予定です。
イ. 当社は今後、差出人作家の作品について、依頼があっても、スキャン事業を行うことはありません。
<質問2(該当する記号を○で囲んでください。)>
(1)当社はスキャン事業の発注を受け付けるに際して、依頼者が実際に私的使用を目的としているか否かを、
ア. 特に確認していません。
イ. 依頼者に私的使用目的であると申告させています。
ウ. 上記以外の方法で確認しています。(質問者注:下欄にご記入ください。)
(2)
ア. 当社は、スキャン事業の、法人からの発注に応じています。
イ. 当社は、スキャン事業の、法人からの発注に応じていません。

名だたる作家、大手出版社が名を連ねていますね。今回、訴えられたのは、この質問状の「貴社は今後、差出人作家の作品について、依頼があればスキャン事業を行うご予定でしょうか。」という部分に、「はい」と答えた2社です。

弁護団には、この質問状に名前のある出版社の顧問弁護士が入っていますね。出版社は作品の著作権を持っていないので、提訴する資格すらなく、作家を表に立たせて訴訟を起こした格好になります。

原告の東野圭吾さんは、「電子書籍を出さないからこういうことが起こるのだという声に対してはこういいます。売ってないから盗むのか! こんな言い分は通らない。私は電子書籍が普及しても、こうした違法スキャン業者はなくならないと個人的に思っている」とのコメントをされたそうで。

読者にも“本を裁断する”という行為には抵抗感がある方は多いでしょうし、作家ともなれば、著作本を大事に持っていてほしいという気持ちは自然なものだと思います。ですので、この“自炊”という行為は、悪として語られることもよくあります。

僕も目の前で著作本をビリビリに破かれたら悲しい気持ちになるだろうし、自炊を悪としたい気持ちも分からなくはありません。ですが、本は購入した方の所有物ですから、破こうと捨てようと作家は口出しできる立場にはありません。

東野さんの発言は、自分の所有する本をお金を払ってデータ化することを“泥棒”といいたいのでしょうか? 業者はスキャン代行手数料を依頼者からもらうだけで、データを違法に販売しているワケでもないですし、誰から何を盗むのか判然としません。

大沢在昌さんは、自炊代行が海賊版横行の温床になると考えているようですが、これは客観性に欠ける意見です。海賊版業者は自分たちで紙の本を購入して、代行業者などを使わずともどんどん海賊版をつくれますので。事実、海賊版は自炊という行為が一般化するはるか以前から存在します。アジアを中心とする海外では特に深刻です。

ならば、紙の本こそが海賊版の温床と言うべきです。紙の本にはDRM(著作権保護機能)がついていません。

さて、ここからは私見ですが、僕はこのような訴訟、主張には、非常に強い違和感を覚えます。なぜ読者は、購入した本の使い道までを、作家に指示されなくてはならないのでしょうか。

購入した本は購入者の物で、楽しみ方は自由なはずです。お年寄りの場合、電子書籍のほうが文字を拡大して表示できるので便利ですし、若者にしても、何冊も紙の本を持ち歩くのは重いので、データを端末に入れておいたほうが、どこでも読書ができて便利ということもあるでしょう。

自炊は本をデータに置き換えて、個人の範囲内で使用するものですから、作家活動には何ら影響を与えません。自炊によって、本の売り上げが下がるというようなこともなく、むしろ、自炊をするためには読者は本を買わなくてはいけません。

自炊代行業者の影響で紙の本の売り上げが下がったということを示すデータは、今のところ、ひとつもありません。裁断された本がネットで販売されている例もあり、今回の訴訟でも裁断された本を積んで、「こんなことが行なわれているんですよ」と記者会見を行なったようですが、中古品の販売は合法ですし、それを言い出すと、ブックオフの株主には出版社もいます。中古販売を行なっている者が、他の中古販売を行なっている個人を断罪するなど、いじめに過ぎません。

複製権に抵触するかどうかは、判例がないのでグレーですが、この件の弁護団とは逆に、違法性はないとする弁護士も多数いらっしゃいます。

仮に代行業者の業務に違法性がなく、作家の権利を脅かされるものでもないのだとしたら、彼らはなぜこのような訴訟を行なうのでしょうか。

僕は、本を買った後の使い方まで指示されるなら、その作家の本はあまり買いたくありません。他にも楽しい物はいっぱいありますし、中古で買うな、売るな、漫画喫茶で読むな、自炊するな、と言われたら、本は新刊で買って、読まなくなったら捨てるしかないです。わざわざ自炊をしてまで、自分の著作を読もうとしている人たちを、なぜ閉め出そうとするのでしょうか。

作家は自分たちの権利のことばかりを考えて、読者(お客さん)のことを考えていないように思います。そんな不経済で資源をムダにするものを、誰も必要としなくなってしまうのではないかと思うのです。

本が売れない時代にあって、作家や出版社が自分の権利ばかりを主張しだしたら、誰が本を買うのでしょうか。「じゃあ、いらないよ」と言われるだけではないでしょうか。

僕たち漫画家は客商売をしています。サービス業です。読者にお金をいただいて生活をしています。漫画家様、作家先生ではないのです。僕の著作は自由に自炊も代行もしてもらって構いません。

このままでは誰も漫画を読まなくなってしまいます。出版社や作家がスキャン代行に反対するのは、実害があるからではなく、自分たちの利権が奪われるのが怖いからだと思います。スキャンされない唯一の方法は、本を販売しないことです。


ちなみにこちらの僕の著書は、自炊するまでもなくすべて無料でお読みいただけます。

「 佐藤秀峰オンラインブック」『漫画 on web』
http://mangaonweb.com/creatorOCFreePage.do?action=list&no=&offset=1&cn=1

『漫画 on web』
http://mangaonweb.com/welcome.do

執筆: この記事は漫画家・佐藤秀峰さんのブログからご寄稿いただきました。