SMBC日興証券株式調査部チーフストラテジスト、阪上亮太氏は2012年の日本株式市場の見通しを「年前半はもみ合って緩慢な値動きに終始するが、年後半には大きく値上がりする」と見通している。欧州債務問題が落ち着く2012年3月頃までは「リスクオフ」の地合いが継続するものの、春先以降はアメリカや中国などの景気復調への手応えが高まり徐々に「リスクオン」に転じるだろうとする。

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 SMBC日興証券株式調査部チーフストラテジスト、阪上亮太氏は2012年の日本株式市場の見通しを「年前半はもみ合って緩慢な値動きに終始するが、年後半には大きく値上がりする」と見通している。欧州債務問題が落ち着く2012年3月頃までは「リスクオフ」の地合いが継続するものの、春先以降はアメリカや中国などの景気復調への手応えが高まり徐々に「リスクオン」に転じるだろうとする。

――2012年の投資環境を考える上でのポイントは?

 欧州債務問題に決着が付けられるかということが、当面の最大の関心事。これは国の信用力に関わる問題なので完全解決には相当の時間がかかると覚悟しなければならないが、一旦の収束を見るというのがマーケットには重要なことで、来年の4−6月期くらいが転機になると見ている。

 解決までの時間については、日本の不良債権問題を振り返ると分かりやすい。1997年から1999年にかけて問題が深刻化し、最終決着は2003年までかかった。しかし、99年に大手銀行に公的資金の注入が行われると、解決の方向が見えたとマーケットは判断して株価は反発に向かった。

 欧州問題の最終解決のためには、高債務国を支援する、もしくは、高債務国の金融機関を支援する枠組みが十分な資金を伴って出来る必要がある。具体的には、ドイツが欧州安定メカニズム(ESM)や欧州金融安定ファシリティー(EFSF)への拠出金を引き上げて債務国支援のセイフティネットの金額を増額させる。また、ECBが高債務国の国債を大規模に購入するということが市場の安心を得るために必要だ。しかし、ドイツ国内世論の動向や、ECBの役割問題などで簡単に結論が出る問題ではないので最終的な解決までには時間がかかるだろう。

 ただ、問題の所在は明確なので、リーマンショックのようにパニックが起こるようなことは避けられるだろう。高債務国を支援しなければ、世界経済が大変なことになるということが分かっているので、最後は高債務国を救うということになると思う。ただ、救うための条件として、ドイツもECBも各国に財政規律の強化を求めている。この財政規律強化のための協定は、2012年1月末前後に首脳会談が開催され、一部の国はその内容を自国の議会で議論する必要がある。問題を収束するためには、各国の批准が順調に進んだとしても3月ごろまでは時間がかかる見通しだ。この欧州問題の収束が見極められない限りは、投資家は積極的に動かないと考えている。

 もうひとつは、世界の景気の方向性が大事になる。特に中国とアメリカが注目される。欧州問題によって欧州が景気後退に陥るということは既に見えている。その影響が中国にどのくらい及ぶのかという点が注目されるが、この点では、中国が早めに預金準備率の引き下げに動いたことをポジティブに評価できる。中国をはじめ新興国は、基本的に政策サイクルで動いている。インフレ率が上がってきて金融引き締めを行うと株価が下がる。反対に、インフレ率が下がって金融を緩和すると株価は上がる。中国の景気に減速感が出てきたところで、金融緩和の方向へと舵が切られた。実際に景気が再加速するのは、2012年の春先まで待たなければならないが、春先以降には新興国に投資するリスクを取る資金が動き出すだろう。

 一方、アメリカは予想以上に早く循環回復に入ってきた。その兆候は現れて始めていて、在庫率が低下してきている。在庫循環の改善は短期で途切れるものではなく、一旦動き出すと少なくとも1年は続く傾向にある。このため、2012年は循環的に改善の方向にあるといえる。当面は、アメリカ景気が上向いていくのかを確認する期間といえるだろう。

 したがって、2012年1−3月は依然として「リスクオフ」の環境が継続すると考えられ、世界の株価は緩慢な動きに終始するとみている。一般的に金融危機が起こったときは、マーケットの反応は遅くなる。金融危機は、リスクが顕在化したときの損失があまりにも大きくなってしまうので、投資資金は問題解決に確証が得られるまでは動かない。通常であれば、マーケットは景気や政策を先読みして動くが、金融危機はそのパターンに当てはまらない。欧州問題に収束の方向性が確認できるまでは、株価の上昇は期待しにくいとみたほうが良いだろう。

――そのような環境の中で日本株は?

 日本株は、1−3月期は日経平均株価で8000円から8900円程度のレンジ相場。4−6月に緩慢に上昇し、年の後半に大きく上昇すると見ている。

 日本株は、割安に放置されている。これは、よくいわれるPBRで安く見えるというのとは違う。PBRでは万年安いので、海外の投資家は既に評価対象にしていない。一方で、大型の優良株、国際競争力があるような企業の株価が、PERの点でもグローバルベースのバリュエーションでみても割安になっている。これは、あまりなかった現象で、この見直しが進むと考えている。

 その意味で、来年を通してテーマとして注目しているのは、「日本の輸出企業の競争力の見直し」だ。日本企業は2000年以降、かなりのリストラをやってきて収益性の改善を進め、収益性の改善を実現できてきている。2011年に10円以上の円高が進んだにもかかわらず、日本の輸出企業の収益がそれほど崩れなかった。そうとうの抵抗力を発揮したと評価できる。為替の方向が変われば、日本企業の利益は大きく出るようになる。そうなった時に輸出型企業の見直しが議論になるだろう。

 為替は年後半に円安に動くとみている。今の円高は、リスクオフが要因。逃避先としての円があった。欧州問題の収束によって、この巻き直しが起こるだけでも80円台前半は戻るだろう。85円が実現した場合の日本企業へのインパクトは大きい。

 これまで、日本企業の競争力はアジアの企業と比較して落ちてきていると思われている。たとえば、韓国企業と比べると日本企業の利益の伸びは緩慢である、株価もアンダーパフォームしている。しかし、この動きのかなりの部分は、円ウォンレートで説明ができる。ところが、これからを展望すると、韓国ではインフレ率が高止まりしているため、これまでのウォン安誘導を修正し始めている。今後は、円ウォンレートでみて、円安に動きそうだ。これまでは、日本と韓国のどっちに投資するかという判断で韓国が選好されてきたために、日本の良い会社にも投資されないということが起きてきた。これが、日本株が割安に放置されてきた理由だと思う。

 大きな流れとして日本への悲観論は、既に行き着くところに来てしまっているのではないか。今は、「思ったより良い」という方向に変わるのを待っている状況だろう。為替をきっかけに、日本株への見直しが進むだろうと考えている。特にROEが高い国際優良企業にはチャンスが大きいと考える。(編集担当:徳永浩)