思わず目を引かれる“大人向けの寓話”

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 書店を訪れると、実に様々なタイトルが目に飛び込んでくる。
 それだけに数多ある本の中からタイトルだけで読者の目を引くというのは、なかなか難しいことだろう。

 しかし、そんな中、どうにも手に取りたくなる一冊を発見した。それが『頭のうちどころが悪かった熊の話』(安東みきえ/著、下和田サチヨ/イラスト、新潮社/刊)である。元々は2007年に理論社より出版された単行本がこのたび文庫化されたのだが、なんとも気になるタイトルではないか。

 大人向けの寓話7篇で構成されており、ファンシーでシュールな世界観に、普遍的な問いを含ませてあり、シニカルなスパイスが効いている。
 表題作に出てくる熊以外にも、トラ、カラス、ヘビ、おたまじゃくし、鹿など登場し、それぞれがそれぞれの生活の中で悩みを抱えている。その悩みは、人間も生活の中で当たり前に内包されているものだが、見過ごしがちな疑問や問いばかりだ。また、それぞれのストーリーが単純なハッピーエンドだけでなく、いい意味での肩透かしや期待を裏切る展開があるので、飽きがこない。

 この本はまさしく「寓話」と呼ぶに相応しいだろう。ほっこりとした世界観に愛嬌のある登場人物やイラストなので、子供に読ませたいと思う方もいるかもしれないが、むしろ大人が読んでこそ楽しめるのではないか。
 年齢を重ねるごとに価値観は変わっていくものだが、それぞれの年代で受け取り方が大きく変わるだろうし、本棚に置いておいて数年に一回読んでみると、また違った楽しみ方が出来そうだ。

 シンプルなタイトル通り、シンプルに読めるが、どこか奇妙な温かさや優しさがあるこの作品。目に飛び込んできたら、手に取って欲しい一冊である。
(ライター/石橋遊)



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