本気でプロの漫画家を目指す若者に、都内で低家賃の住宅(シェアハウス)を提供する『トキワ荘プロジェクト』。漫画家の卵がいち早くプロとして自活できるようになるために、アルバイトの時間を減らし、自己投資や本業に専念する時間を作れるようにすることを目的とし、さまざまな支援を行っています。

その中の活動の一環として、プロの漫画家をはじめとしたオピニオンが集結し、漫画家のキャリアプランを考えるフォーラム『マンガでメシを食っていく!』が開催されました。厳しい出版業界の現状や、電子書籍が売れるターゲット層など他では聞けないお話は必読です。

「マンガでメシを食っていく!」漫画家のキャリアフォーラム(1/4)
「マンガでメシを食っていく!」漫画家のキャリアフォーラム(2/4)

●登壇者
うめ/小沢高広(おざわ・たかひろ):漫画家 現在、『大東京トイボックス』『南国トムソーヤ』連載中。キンドル初日本語漫画『青空ファインダーロック』を発売した。

一色登希彦(いしき・ときひこ):漫画家(代表作『ダービージョッキー』『日本沈没』)ジャンプSQ19に『水使いのリンドウ』連載中等

中野晴行(なかの・はるゆき):京都精華大学客員教授/デジタルハリウッド大学客員教授/社団法人日本漫画家協会会員

河田洋次郎(かわた・ようじろう):株式会社ビットウェイ取締役・電子書籍本部長

高橋光輝(たかはし・みつてる):デジタルハリウッド大学大学院准教授、国際アニメ研究所所長(司会担当)

菊池健(きくち・たけし):NPO法人NEWVERY(トキワ荘プロジェクト)事務局長

●「完成原稿を1000枚描けばおのずとプロになっていますよ」

高橋:パネルディスカッション第2部ということで、今後の漫画家志望者はどのようにプロを目指せばよいのかについて、先ほどの定義づけに入れてみると、“漫画を生業としていく”ということになると思うのですが、それぞれの立場からメッセージおよびアドバイスを頂けたらと思います。では、これはまず漫画家の先生がいるということで、うめ先生からお願いします。

うめ:ともかくまず最初描いてくださいとしか言いようがないですよね。作品があれば、アシスタントの子とかが持ってきて見たこともあるしもちろん持ち込みにも行けるし。それこそ漫画家志望者の定義って一作描いたことがあるっていうとこからかもしれませんね。描いていない人は漫画家志望者ですらない。

一色:僕は机の上の技術をどう考えてというよりは根性論担当というつもりでここにいるつもりなんですけれども。やっぱり、『漫画家白書』にも引用させてもらったのですけれども、プロになりたいのであれば数を描くことというのが大前提で、その基準としては完成原稿を1000枚描けばおのずとプロになっていますよというのが、僕がいつも思っていることだし、多くの方が同じようなことを違う言葉で言っていることなので。

それはなぜかと言えば、1000枚描けば必ず技術は向上するし、あきらめる人は1000枚描く前にあきらめるんですね。そこでちゃんと本当にやろうとして描いてみれば、技術の向上あるいは自分がやりたいのかやりたくないのかを見極められると思っていてます。完成原稿でいえば1000枚だし、ネームでいえば1万枚くらい書けば、おのずとどうにかなるという気がします。

いま、うめ先生がおっしゃったとおり、漫画家志望者と名乗るんだったら1本描いているのが前提というのはなるほどそのとおりだと思います。ここから先こういう基準がはたして、漫画家というものが何なのかとか、例えばメディアの形態が変わってきて、漫画家とアニメーターというのがもっとオーバーラップしてくるのかもしれないとか、漫画家とウェブデザイナーがオーバーラップしてくるかもしれないしとか、漫画家が「私は漫画家ですよ」と名乗り続けられる単独の職業でいられるのか、そういう変化はありうると思うんだけれども。

名が知れているかといえば知れていないような一介のアニメーターさんの絵なんかを見てもびっくりするわけですよ。「うまいなー、アニメーターさんって」て。だとしたら我々漫画家と名乗っているものが持ちえているものはいったい何なのか。

知名度だけでいえば、もしかしたら稼ぎだけでいってもこちらのほうがあるかもしれないけれども、名も知らぬという言い方をしますけれども、アニメーターさんの描く絵のクオリティーであるとか仕事量であるとかを見てみたときに、それに対して漫画家の力量は何が勝っているんだろう。そうなったときに漫画家というのが独立して成立するのか、あるいは大きなメディア産業、エンタテインメント産業、表現産業の中の1つのパーツ、セグメントになって生きながらえていくのか、それもわからないのでさっきいった1000枚描くべし、または漫画家になりたいのかを見極めるべしというような文言をここから先も通用するのかというのは分からないです。ものすごく状況が変わっていると思っていて、その状況にみんな、敏感なのか、気づいていながらも原稿を描かないでいるのかというのがわからなくて、そのあたりは僕も知りたくてここにいるということもあります。

●今もし新人だったら……

うめ:今もし新人だったらどうしますか?

一色:それ、聞かれると思いました。

高橋:ちょっとそこにプラスしてですね、学生もちょっと来ているので、学校もあるという選択肢の中で。

うめ:“マンガ学科的”なものね。

高橋:それもふくめて。

一色:“マンガ学科的”なものに関してはまた別のところで、『ガジェット通信』とういうニュースサイトで発言したりしたのですが、はたして“マンガ学科”というものが有効なのかどうかっていう議論も多分あって、それも含め、うめさんのお尋ねも含め、ほんとに今漫画家になりたいと思って目指したかどうかは、大変疑わしい。

うめ:分かる。うん、そんな気はしますね。

一色:うん。だから自分のことを思い出すと、好きな漫画、感動した漫画があって、「俺もやってみたい」と単純に思ったんですね。漫画って簡単そうなんですよ。こういっちゃ悪いけれども。

「漫画なんか紙とペンがあったら描けるんじゃないの」って手塚治虫先生が言ってくれていたので、紙とペンを手に入れて、物まねで絵を描いていくと何かやれた気になるし。僕らのころには、漫画好きが周りにいて、ライバルがいて、クラスで誰かが漫画を描けば「お前も描いてたのか!」みたいなこともあったりして。そういうなかで、小規模な世界でも切磋琢磨があるんですね。そういう中で漫画家っていう夢も持てたから。その時、漫画学科なんてなかったわけですよ。

僕らのころにはとにかく漫画を描いて、出版社に持ち込んで、アシスタントを経験して、そういうなかで漫画家になれって道筋がシンプルだった。『まんが道』で出てくる最初のオリジナルのトキワ荘では、作家さんたちが寄り集まって、議論して、切磋琢磨していったみたいなものをなんとなく模倣して自分たちもやっていけば、なれただろうという筋道があった。けれども、これだけ多様化して、大学とか専門学校で漫画を教えますよみたいなところがあって、なんか、行けば何とかなるのかもとか、漫画が好きでいるとなれるのかなっていうよくわからない状況がある中で、果たして俺は漫画だけでやっていくんだって、本当に成立していくのかって、今自分が新人だったり学生さんだったら、言い切れるかってわからないです。

●「自分の漫画をたくさん描かなきゃだめだってことですよ」

中野:漫画家になれなかった私が言うのもちょっと何ですが、私は大学のときに持ち込みをずっと続けていて、青林堂の『ガロ』という漫画雑誌に持ち込んで、そのころ南伸坊さんが編集長の時代だったんですけれど、長井勝一さんが偶然私の原稿を見て、「あなたは手塚治虫さんとかが好きでしょ」と言われて、「大好きです」と言ったら、「うーんそうだよね。もうこれは完全に手塚さん路線だよね。これじゃあプロになれないよ」と言われたんですね。これがあきらめるきっかけになったんです。

つまり自分の漫画をたくさん描かなきゃだめだってことですよ。とにかくね。うまい下手は関係なく。それとあまり人の真似しないほうがいい。模倣から入ったという話がありましたけれども、途中からは模倣をやめたほうがいいですね。僕は手塚先生の作品を完全に写してたから駄目だったと思うんですね。

一方で、「無理に漫画家でなくてもいいや」というところをどこかに持っていたほうがいいのかなって思いますね。実は石ノ森章太郎先生って映画監督をやりたかった。だけど映画監督になるのは大変だし映画を撮るのはお金がかかるけれども、さっきちょっと言われたように漫画は紙とペンだけあればいい。お金がかからない。それで、『ベン・ハー』のようなすごいMOBシーンも作れるし、宇宙も描ければ、時代劇もできちゃう。何でもできちゃうすごいなということで、漫画家になったということですね。

一方で、今小説家になっていらっしゃる方に漫画家志望の方がずいぶんいらっしゃる。小説家の方のお家に遊びに行ったときに、石ノ森章太郎先生の『まんが家入門』のハードカバーの秋田書店から最初に出た本が本棚に大事に飾ってあって、本を開くと線を引いたり中身がボロボロになっているんですね。かなり細かく見たであろうと。漫画家になるのは、絵が描けないからあきらめてる。だけど自分はストーリーが作れるから、ストーリーでやっていこうとして小説家になった人もたくさんいる。映画監督にもいらっしゃいますね。

うめ:岩井俊二さんがそうですよね。

中野:実際岩井さんが描いた漫画はうまかったんですよね。『花とアリス』とかね。あれは本当に上手でびっくりしちゃいました。あと、漫画評論家というのは大体漫画家になれなかった人たちの成れの果てなんですね(笑)。四方田犬彦さんも『COM』の投稿家でしたし、亡くなった米澤さんも『アズ』という漫画同人会に参加されていますし、夏目房之介さんに至っては一度はデビューをしたのにもかかわらず根性がないから評論家で学習院の教授をやっているという。東京工芸の伊藤剛先生も浦沢直樹先生のアシスタントをなさっていたとか。

ただ、漫画家になりたいと思うのはいいんだけれども、ずっとそう思って70、80歳になってもじーっとまだ目指していますというようなのだとちょっと困るので、「何か物を作りたい」という気持ちを核として大事にしていけばいいのかなと思います。

そうするとさっきのお話みたいに、世の中が変わって「漫画家っていったい何?」って変わってしまったときにもあたふたしないでやっていけるんだと思うんですね。「俺は物を作っているのである」という風にやっていけばいいのではないかと思いますね。

京都精華大学に一人いるんですよ。マンガ学部を卒業してダンサーになっちゃった奴が。本当にダンサーなんですよ。今、結構日本では名が通ってきている。何かをクリエーションしたいという気持ちは変わらないからなったということであればそれでいいんだと思います。しかも困ったことに京都精華大学からデビューした漫画家というのは何人かいるけれども、みんな漫画学部じゃないんですよ。人文学部とか芸術学部とか。

うめ:うちのアシスタントも一人います。

中野:京都精華大学出身で、一番売れたのが村上龍著『13歳のハローワーク』の挿絵を描いた、はまのゆかさんです。その方課程は絵本のコースの課程なんですね。あまり深く考える必要はないと思います。

●10数年で遣う時間が一番減ったのは、読書

河田:前のお三方は、作品という面からお話をされていましたが、私はビジネスという点からお話をさせていただければと思います。この10数年でインターネットの普及ですとか、テクノロジーの進化で生活のスタイルが急激に変わってきたと実感をしています。

私は今年45歳なんですけれども、若いころはエンターテインメントというものがそんなに多くなかったと思うんですね。だから、漫画でも、毎週雑誌を楽しみにしてですね、「あそこのコンビニでは一日早く出ているぞ」とか早く読みたいから夜中に行ってですね、ヒモで縛ってるのを買ったりですとか。電車の中でも雑誌、漫画、読んでいる人がたくさんいたと思うんですね。

この10数年で、インターネットなどが普及して余暇時間の取り合いになってくると。楽しいものがいっぱい出てきています。ゲームもそうですし。だから、ここ10数年で、1日で遣う時間が減ったのは、読書なんですね。で、それと反比例するように、インターネットを使う時間がどんどん増えていると。まあ、年齢層とか趣味とかあると思うんですけれども、全体的にはそういう傾向にあるという形になってきています。

10数年前の漫画ではだいたい黒電話が出てくるんですね。パソコンとかインターネットとか携帯が存在しないんですよ。当然のことながら。なので、ここ10数年というのはコンテンツがすごい古くなるという時代かなと思います。特に絵に反映されてしまうのが漫画コンテンツです。

『ドラゴンボール』は、未来の話なので全然古くならないのですけれども。あとは時代劇ものや、SFものはあまり古くならないのですが。例えば『シティーハンター』とかね、駅の掲示板に“XYZ”とか書いてたりとかね、存在そのものも変わってきるんですね。なので、そういう影響もあるのかなと思っていたりします。

マーケティングという言葉は皆さんご存じだと思うんですけども、デジタルの場合は男女、年齢別など、プロフィールを取れます。今まで出版の場合は紙媒体しかなかったので、出版社が考えたもので、描きたいものを出してれば、読者がそれを買うしかなかったということがあるんですけれども、今はニーズにどれだけこたえられるかっていうのが売れる作品になってくるという側面があると思います。

ここですごく葛藤が起きると思うんですよね。これは音楽業界にも言えることですが、自分の描きたいものと商業的に成功するってものがマッチングしなくなったり。

でも、実際はマーケティングを反映して作っていくという手法もこれから重要になっていくかなと思います。一部の出版社さんでは今オリジナルのコミックを作っています。1か月販売で数千ダウンロードないものは基本的にやめていこうと。

今まで漫画は部数に縛られている部分がありました。大手はいっぱい刷れるのですけれども小さなところは刷れないということもあるので、全国には行き渡らないと。それに対して、デジタルのいいところは1個作っておけば、1から1億まですべてに対応できるところなんですね。ですから、インターネットの普及がマイナスばかりではなくてですね、そういうチャンス、販売機会を逃さないですとか、多くの人が目にできると。そういうところを活用していけば、その後も広げられるのではないかと思っております。

後はさっき言ったマンガ喫茶や、古書店のような作家さんにお金が戻らないような層ですよね。彼らは紙を買って置いておくというよりは、読めればいいという形なので、そういうお客さんにデジタルという手段を使って、手軽に読んでいただけるような世界を作れば。今4000億程度というマンガ喫茶や古書店の市場もそういうパイをとれれば、利益が戻せて、多くの作家さんが食べられる世界が実現できればと思っているところです。

あともう1個ですね、国内のマーケットを取っていったとしても今後人口はどんどん減っていく。それに対して弊社のほうも海外に配信していますけれども、海外のほうに需要が、特にアジア、中国とかが高いということがありますので国内に加えて、海外のそういう市場を切り開くというのは我々もやっていくのですけれどもそれとは別にですね、作家さん自体が海外に飛び出すと。

やっぱり韓国ですとか、すごく絵はうまいんですけれども、コマ割りですとかストーリーとかは日本のほうが全然進んでいますので、そういう力をもった作家さんがどんどん海外に出るというのも1つの道筋なのかなと考えております。

●漫画家志望者と電子書籍

一色:電子書籍の専門家ということで、河田さんにちょっと伺いたいことがあります。既に力のある作家さんであったりコンテンツをお持ちのいわゆるきちんと独立してプロでやっていらっしゃる作家さんであれば、電子書籍 門戸を開いて頂いたりビジネスチャンスを頂けたりというのは想像がつくんですけれども。

逆に今日いらっしゃっている新人さんであったり志望者さんであったりという方に、電子書籍のお立場で何かしら門戸が開かれていたり、チャンスが与えられたり、機会というのはあるんでしょうか。

河田:出版社さんのほうで新人を募集してデジタルで出すという試みというのは結構やっているところがあります。今『ビットウェイ』では、基本的に作家さん直で配信というのはやっていなくて、出版社さんとアライアンスを組んでいるという形ではあるんですが、新人作家さんのデビューのお手伝いができるように検討していきたいとは思っています。

一色:現状だと『ビットウェイ』に限らず電子書籍全体で見たとき、新人の道筋がきちんと確立されているふうには言い難いという認識でよろしいんでしょうか。

河田:今のところはそうですね。これからだと思います。私、10年くらい前にデジタルで自費出版をちょっとやってみようかなと思ったんですね。

今でも検討課題かなぁと思っているんですけれども、無料だったらいいと思うんですよ別に。ただ有料にしたときに我々編集部がないので、盗作や盗作のつもりがなくてもしてしまった問題ですとか、権利の問題ですとか、そういうところをどういうふうにクリアすれば良いのかという問題もあって。投稿された漫画をただアップしてっていうのもちょっと厳しいのかなと考えています。

あと、そういった仕組みを作るのにも配信するのにも費用がすごく掛かるので。取り次ぎシステムの話にしたって数億円掛けてつくっていますし、アップファイルをつくるのに何万円か掛けて作っているので、それをうちが負担してやっていくとなると、ちゃんとしたビジネスとして立ち上げないといけないので、ちょっと準備期間が必要かなとは思っています。

中野:携帯電話市場ではないんですけれども『eBookJapan』というところが新人賞を募集しています。『KATANA』というネット雑誌でも新人賞をやっている。そんな何百万の賞金も出ないんですけれども。一部ではきちんと新人を育成する試みをしている。

うめ:その辺はあれですよね、セルシスさんがやっているし。僕この間『パブー』で審査員をやったんですけれども、だんだん出てきている。

中野:うちも弟子が一人デビューできましたから。

●「漫画業界は良くも悪くもたこつぼ」

菊池:今後、新人漫画家、漫画家志望者がプロをどのように目指すのかということで。もちろんプロの定義から聞かれるんですけれども。たくさん原稿を描こう、1000枚描こうと。一色さんから頂いて私たちもやって今、入居している人には『原稿王』というイベントをやっていましてたくさん原稿を描いた人は原稿王だと。

うめ:それは量だけ?

菊池:そうです。

うめ:かっこいいなぁ、ある意味。

菊池:これはいろんな意見があるんですけれども、どこにフォーカスするかといったときに、6割くらいはまだアシスタントにもなってないんですね。そういう人たちがいま何をすべきかと言ったら原稿を描くことであると。そうじゃないという意見を持つ人も結構いるんですが、これは気付いて欲しいなというところでもありますね。プロの方はこの意見にうなずいていくれるんですが、漫画家志望者はなかなかこれが分からない。非常にジレンマです。

その上でどうするかということは、実はまだあまり決まっていないというのも事実で、リサーチなんかを、これからしていこうと思っています。ただ、ちょっとこれから先は私見になりますが3点ほどお話したいことがあります。

個人的な話ですが、私は割と大手の経営コンサルティング会社でコンサルタントをしていたんですね。その後、ITベンチャーの経営をしてたりしてですね、およそNPOとは違うんですけれども。この『トキワ荘プロジェクト』の漫画家を育てる取り組みと、今後、漫画業界がどうなるかということに関心があって1年ボランティアで関わった後に事務局長になって。

まず、コンサルタントをしているといろいろな業界の人と会うんですね。皆さん最初に「うちは変わっているからね」と言います。「だから、おたくが言うような話は関係ないよね」って言うんですよね。「では、どんなことが変わっていますか?」と言うと、いっぱいあるよと指を折りながら数えて5つ出たら良いほうですね。10個も出ないです。だいたい普通に仕事をされている方に関して言うと、そんなに特殊っていうことはないんですね。でも漫画業界に関していうと、本当に変わっていました(笑)。僕、いろんな業界いろんな会社を見てきましたけれども漫画業界は本当に変わっています。

誤解を恐れずに言うとですね、漫画業界は良くも悪くも“たこつぼ”なんですね。客観的に見たときに漫画業界の出版社の売上トップ3を寡占している会社を見ると全部上場していないですね。ちょっとこれは異常事態です。上場している会社が上3つにないと何が起きるかというと、株主の監視や市場の監視を受けない状態で企業は経営されていくわけなんですけれども、良いことと悪いことがありまして。

良いことは、編集さんと漫画家さんというおよそ漫画のことしか考えていない人種が大量に生まれたおかげで、日本の漫画はこんなに面白くなっちゃったんじゃないかなと。今の大手出版の経営者はやられている方は元編集者がほとんどで、いわゆる一般的な経営者の方がいないですね。いかに漫画の表現が守られるかということに注力しておるので、そのことが未だに面白い漫画がたくさんつくられるという功の部分になっていると思います。

逆に悪い部分の1つめは柔軟性がないということで、新しいビジネスモデルを開発するのに大手がなかなか動けない部分があるかなと。

2つ目は今、電子書籍を中心に働いている新人さんたちが、これからどういうふうにしていくかっていうことです。

さっきも言ったとおり、漫画家として確立するには絵が上手いとか、面白い作品がつくれるとか、なにがしか一つの才能を開花させないと市場に投入していくのは難しいと思います。なるべく短い時間で成長プロセスを一回やりきってほしいということです。兼業の人は別ですが、専業で、特にうちに入居している漫画家になろうとしている人や似たような層の人たちは、なるべく早くやりきってほしい。全員が漫画家になれないというのは事実なので。

一番難しいのは“創作をしていて雑誌にデビューする、そのなかでも特に売れっ子になりたいと思っている人”たちですね。とある漫画家さんが私に、漫画家の仕事として新人漫画家に対して重要なのは引導を渡すことだとおっしゃってました。自分のところのアシスタントを何年もやっていて、投稿や持ち込みをやってプロになれない人を、だいたい3年目処で俺は引導を渡しているんだということを言ってました。それだけ話すと、すごく悲惨な話ですけれども、私が思っているのは、これから電子書籍を含めて漫画の業界が多様化していくと、一回やりきった方は、その後も色々な形で漫画に携われるのではないかということです。

例えば漫画関係のベンダーの営業マンになったりとかプロデューサーになったりとか。システムにくわしい人であればエンジニアになってクリエイティブ系に関わるとか、漫画家の経験を利したいろんなパターンが道としてできてきました。

途中で「俺ってそんなに漫画家になりたいなんじゃないじゃないか」と気づいちゃうひともいます。そういう人たちも、周辺産業に就職する手があるわけです。とにかくやってほしくないのは、俺にはこういうこだわりがあるからということで、プロの世界のことなど何もわかっていない状態で、漫画家になるということを誤解して、好きなようにやっちゃうことです。

最後に、今は漫画家にとってチャンスなのかピンチなのかという話ですね。有名な靴の営業マンの逸話で、アフリカのある国に行ったら全員、靴を履いてなかった。それは靴屋にとてチャンスなのかピンチなのか。ある人はみんな靴を履いていないから買ってくれませんといったんですけれども、違う人はこれからみんなに靴を履かせることができるのでチャンスです、と言ったわけですね。それと同じような状況が今あるかなと思っていて。さっき、うめ先生と一色先生、それぞれ数十円という電子書籍の売り上げの話をしてくださいましたけど……。

うめ:それは出版社さんを通した場合ですね。

菊池:タブレットやスマートフォンが普及すれば、読む媒体が増えるわけですから、マーケットで言えば広がるので、生計がたっていく可能性はありますよね。

ただ、今のままやってはダメだろうと。特に漫画だけの売上だけで生計を立てるという発想のままいくと、ちょっと難しそうだなというのが一つありますね。売れっ子の方は違うんですけれども。いかにキャラクターを売っていくかとか、自分自身が有名になるか、あとアニメのこととか。そういうところを柔軟に考えて、自分の作戦を考えられる人にとってチャンスなんですけど、どうしても『まんが道』がいいとなると、大ピンチです。難しいですね。その辺をどう捉えるかというのは、あると思います。

高橋:今、こういう形で皆さんにお話いただいて、最後に私述べさせてもらうとすれば、一つですね。教育機関での漫画家の育成に対しては非常に懐疑的に思っています。中野さんからもありましたけれども、まずたぶん“漫画学部”や“漫画学科”というところで、真っ白の状態からスタートして、そしてプロになるためのちゃんとレベルまで身につけてデビューしたっていう例をほとんど聞いたことがないので。そういった点で教育ということに懐疑的だし、むしろ教育することができるかのかできないのかと思っています。

ただ、一方では先ほど河田さんのほうでやっていた、教育機関にも当然ながらマーケットというのがありまして。そのマーケットでいうと、このエンターテイメントという分野に漫画というものは欠かせないものなんですね。そういったエンターテイメント産業の育成という点からいうと漫画ということの育成に、このデジタルハリウッド大学も近々取り組んでいくことになるだろうなと、個人的には思っています。

たぶん業界の方々、それから現漫画家の方が言われたことは今までの方法だと思うんですね。今までの方法論をやっていればじゃあ漫画家になれるかどうかというのは、答えはないと思うんですね。そして、学校に行けばなれるというのも違うと思うんですね。

ただ私は、それぞれが持っている資質を判断する場や機会を提供してあげてほしいなと。それがあるとすれば、実は学校であるところなんじゃないかなと。おまえはこの分野はダメなんだから、違うこの分野に行きなさいと。そういうジャッジをしてくれるのが、もし教育機関だとすれば、それはそれで彼のため彼女のためになるんじゃないかなと前向きな意味で思っています。

そういう意味で、私は今回のフォーラムの意味や重要性を感じていますし、それに賛同して集まった登壇する方々、参加された方々の答えやある程度の考えのベクトルをたぶん提示できたんじゃないかなとは思っています。

漫画家のキャリアフォーラム(4/4)に続く。