作家の暮らしを覗き見する愉しみ。

 内沼晋太郎さんがブック・コーディネーターの仕事に就くまでを、読書歴を通してたどった前編。続いてお届けするのは、内沼さんが「今、気になる本」の話! 

 「一番最近読んだもので面白いなぁと思ったのは、フランスの前衛文学集団"ウリポ"のメンバーである、ジャック・ルーボーが書いた『ジャック・ルーボーの極私的東京案内』。ウリポというのは、1960年代にいわば言葉遊び的な技法を通して文学の可能性を追求した集団ですが、ジャック・ルーボーという人はそのメンバーで、まだ存命の作家で数学者。で、そんなおじいさんが日本にやって来て、山手線に乗って東京をまわった様子を綴ったのがこの本です。街でみかけた面白い看板を書き写してみたり、突然「富士山問題」を提起して「富士山は存在しない」と言ってみたり、山手線の一駅ごとに詩を作ろうとしたけど、途中でうやむやになるほど長い挿入が入ったり。でもそれを読んでいるうちに、東京に暮らしている自分も、ひとりのひねくれた観光客の視点で東京を見られるようになってくるんです。街のおもしろがり方の幅に気づかせてくれるんですよね。すごくいい本ですよ!」(内沼さん)

 早速、本を片手に山手線に乗りたくなってしまうところだけれど、内沼さんの本話はさらに読書欲を刺激する。

 「ロバート・ヘンライというアメリカの画家が書いた『アート・スピリット』。デビッド・リンチやキース・へリングなどのアーティストが駆け出しの頃に読んで影響を受けたといわれる本で、発刊から90年近く読み継がれてきているんです。長年邦訳が待たれていたんですが、ようやく今年日本語版が出たんですよ。内容は簡単にいえば芸術指南書なのですが、例えば"君たちは生まれながらにして巨匠なのだ!"と書かれていたり、読んでいるととにかくやる気が出るんです。画家になろうという人だけでなく、どんなジャンルであれ物作りをしている人が読む本としては、本当に面白いと思います。何度も言いますが、やる気が出る!」

 なんだか岡本太郎を彷彿させるけれど、内沼さん、実は太郎スピリットの持ち主でもある。

 「高校生から大学生の頃にかけて、岡本太郎さんの本を何冊か読んだ記憶はあるんですよ。でも僕、物覚えが悪いタイプなのでそのことをすっかり忘れていて(苦笑)。で、ある仕事で岡本太郎さんの本をまとめて20冊くらい読む機会があって、読んでいるうちに実は自分が岡本太郎さんからけっこう影響を受けていたんだ!ってことに気がついてびっくりしたんです。自分の頭できちんと考えて、本当にそれが正しいのか、自分の美意識に合っているのかという基準で仕事をすること。そういった仕事観から、人生観、恋愛観も含めて。自分の記憶のなくなり具合にもびっくりしましたが」

 そんな内沼さんの座右の書は、それでも岡本太郎ではなく、

 「やっぱり金子光晴ですね。あと、アンディ・ウォーホルの『ウォーホル日記』と『ぼくの哲学』。この辺りはそばにあると安心します。あとは日記本でしょうか。会社を辞めて今の仕事を始める頃ぐらいのタイミングに、いろいろ集めて読んでいました。『太陽の讃歌』と『反抗の論理』という2冊で出ている『カミュの手帖』や、『ミシェル・レリス日記』、エリック・ホッファーの『波止場日記』とか。作家や思想家が普段こんなことを考え、こんな毎日を送っている。だからこういう作品が生まれたんだ!っていうのが垣間見られたり、それにある種、覗き見のような部分もあって面白いんですよね。1年前ぐらいに出たスーザン・ソンタグの日記『私は生まれなおしている』の続編が早く出ないかな。とても待ち遠しいです」

 多種多様な本棚を作るべく、日々たくさんの本に触れている内沼さん。仕事で様々な本を扱うため普段はあまり語らないという、プライベートな読書の楽しみは、作家たちの豊かで時に残酷な日常を、こっそりと覗き見することなのだ。

 ところで内沼さんが、今まさに読んでいる本は何でしょう?

 「速水健朗さんの『ラーメンと愛国』。カップラーメン誕生の話から、ラーメン屋がいかにして赤暖簾からジャズがかかる店へと変わっていったのかなど。そういったラーメンの歴史を、日本の文化史と照らし合わせながら読んでいく、ラーメンから見る日本文化史。まだ途中なんですが、面白そうですよ!」

 請ける仕事のジャンルを限定しないため、本棚を作れば作るほど、興味の触れ幅が大きくなっていく。内沼さんのストライクゾーンは、いつしか宇宙の果てまで到達しちゃうのかも。


(プロフィール)
内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)
numabooks代表、ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。1980年生まれ。一橋大学商学部商学科卒業。国際見本市の主催会社、フリーターを経て、2003年に本と人との出会いを提供するブックユニット「book pick orchestra」を設立。2006年末まで代表を務めた後、自身の「本とアイデア」のレーベル「numabooks」を設立。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)がある。ショップで販売する書籍のコーディネートを中心に、本にまつわるプロジェクトを多数手掛けており、最近ではディスクユニオンの読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」のプロデューサーも務めている。







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