読書道の始まりは、友達との競争だった。

 「今の若者は本を読まない」。常套句化したそんな言葉を一蹴できる世の中を作るべく、内沼晋太郎さんは"本とアイデア"のレーベル「numabooks」を2006年に設立した。仕事は、いわば"本棚の編集者"。カウンターカルチャーから、親子で楽しめる本棚まで。多種多様な本棚をつくりながら、私たちに本との新たな出合い方を提供してくれている。そんな筋金入りの読書家の、読書遍歴とは如何に!? まずは子供の頃の本の話から!

 小学生の頃は、『コロコロコミック』や宗田理(『ぼくらの七日間戦争』シリーズ)を読みつつ、やがて『週刊少年ジャンプ』に移っていくという、意外にも普通の男の子だった内沼さん。読書的な転機が訪れたのは、中学2年の時だった。

 「例えば親が読書家で家に大きな本棚があったから、とか、本を読むようになるきっかけって、みんなそれぞれあると思います。僕の場合は、友達がきっかけ。こいつカッコいいなって思えた友達が、僕よりも本を読んでいたんですね。で、単純にそいつから勧められるものを読んでいるうちに、自分でもいろんな本を知りたくなっていきました」(内沼さん)

 村上春樹でスタートを切り、ポール・オースターやレイモンド・カーヴァー、ヘミングウェイやサリンジャー、カート・ヴォネガットといったアメリカ文学へ。友達と競うかのように、本にのめりこんでいったという。

 「今でもすごく好きなのは、保坂和志さんや高橋源一郎さん。僕の場合は世代的に後追いになりますが、高橋源一郎さんのデビュー作『さようなら、ギャングたち』を読んだ時には、こういう小説もありなんだ!と、すごく新鮮な気持ちになりました」

 高校時代にはバンド活動と受験勉強の傍ら、スタジオボイスやクイック・ジャパンなどのサブカル雑誌を読み漁り、90年代の写真ブームを牽引したホンマタカシさんやHIROMIXさんらの写真集は買えずとも影響を受けて父親のカメラを抱えて撮影に行くなど、サブカル高校生として毎日を過ごしていた。

 そんな内沼さんが、本を仕事にしようと考え始めたのは、大学生の頃。東浩紀さんをきっかけに現代思想に、野崎歓さんをきっかけにフランス文学に、荒俣宏さんや海野弘さんをきっかけに文化史にに、と興味の赴くまま雑多に拾い読みをしつつ、仲間たちと雑誌をつくろうとサークルを立ち上げた。ちょうど、出版不況が本格化し始めた時期だった。

 「結局そのサークルから雑誌は一冊も出なかったんですが、本屋さんに話を聞きにいったりして、はじめて出版流通の仕組みを知るわけです。ちょうど佐野眞一さんの『誰が本を殺すのか』がベストセラーになったりもして、出版業界っておかしなことになっているんだな、というのが、大学生なりにわかった。そしてちょうど僕らの世代が"活字離れ"の非難の矢面に立たされているような状況だったんですね。でもぼくは、それって若者が悪いんじゃなく、大人が悪いんじゃないか? と思ったんです。本を作ること、売ることに日々追われて、本そのものの面白さを伝えるというプロセスがないから、こうなってしまっているんじゃないかって。だって、僕らはゲームがあって携帯電話があってインターネットがあって、それが自分の成長とともに進化していくような時代、本のほかにも面白いものがたくさんある時代に育ってきたんです。誰もが同じ本を読んでいてその話題が共有できるような時代はとっくに過ぎていたわけだから、本そのものの面白さを伝えるような仕事がなければ、そりゃあ人は離れていくだろうと、そんなことを考えていました」

 出版業界を変えたい! そんな思いを抱くようになった内沼さんは、大学卒業後に「東京国際ブックフェア」と呼ばれる出版業界のフェアを行っている会社に就職した。理由は、本作りのど真ん中からでは業界は変えられないので、ひとまず少し遠目から出版業界を眺めたかったから。しかしその会社の働き方に向かない自分に早々に気付き、どうせ辞めるなら早いほうがいいだろうと、2ヶ月ちょっとで退職。そんなに早く会社を辞めたたきっかけのひとつは、本屋さんたちの本を読んだことだった。

 「その当時、すでにインターネットの古本屋さんがたくさんあって、北尾トロさんの『ぼくはオンライン古本屋のおやじさん』をはじめとしたネット古書店にかんする本も何冊か出ていたんです。松浦弥太郎さんの『最低で最高の本屋』にも勇気づけられた。もしかしたら僕もやっていけるのかもしれないなって思ったんです。結果的には普通のネット古書店ではなく、"ブックピックオーケストラ"というちょっと変わった古書店をネット上で営みながら、新刊書店の"往来堂書店"でアルバイトという生活になりました。でもそれだけでは食べていけないので、他にも高額のアルバイトをいろいろやったりして」

 そんな渦中にあった頃、熱心に読んでいたのはブコウスキーや金子光晴。

 「会社を辞めて一人暮らしをはじめた頃、すごくよく読んでいましたね。なんとなくそこにある現実から離れていきたい人の本、いってみればダメな人の話というのか。普通の道からは外れた人の本が多かった気がします。ぼく自身がそうなってしまったわけですから(笑)。金子光晴はいま唯一全集を持っているぐらい好きなんですが、言葉遣いが僕にとっては最も理想的なんですよね。外国をふらふらして死にかけたり、詩を書いているというよりはただ逃げ回っているような生活。人間が生きていくということの限界を体現しながら、そこから端的に美しい言葉が紡ぎ出されていることに、力をもらっていた。僕にとってはそういう本なんです」

 自身の古書店と往来堂書店という新刊書店。そして日々の読書。毎日のように本に触れるなかで、どんどん興味の幅が広がっていった。そうするうちにいつの間にか、ブック・コーディネーターという本をセレクトする仕事を生業とするようになっていった。

 後編は内沼晋太郎さんが"今、気になる本"のお話! お楽しみに!


(プロフィール)
内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)
numabooks代表、ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。1980年生まれ。一橋大学商学部商学科卒業。国際見本市の主催会社、フリーターを経て、2003年に本と人との出会いを提供するブックユニット「book pick orchestra」を設立。2006年末まで代表を務めた後、自身の「本とアイデア」のレーベル「numabooks」を設立。著書に『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)がある。ショップで販売する書籍のコーディネートを中心に、本にまつわるプロジェクトを多数手掛けており、最近ではディスクユニオンの読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」のプロデューサーも務めている。







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