【AppWomanからの贈り物】Androidアプリで読み切り小説:Google Sky Map×A

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あの人はTだったのかな。

そんな事を考えながら湯船につかっていたら一時間が経ってしまっていた。必要以上に身体が温まってしまったので少し冷まそうと、パジャマの上にカーディガンを羽織りベランダに出る。私はこのベランダからの眺めを見て部屋を決めた。東京の空と東京タワー。「いかにもだよね」友達はこの部屋に来るたびにAを笑う。「いかにも」「田舎から」「上京してきたっぽい」という意味を込めて。

早く次の仕事を決めなくちゃ。

派遣と派遣の間の短期アルバイトは、少し刺激的だけれどやっぱり退屈―一日中同じ事を繰り返し―だ。もちろん派遣も似たようなものだけど。今日はクリスマスに合わせて新発売するチョコレートのサンプルを配っていた。

…その時に見た『Tっぽい人』が何度も頭をよぎる。思い出すだけで心拍数が上がる気がする。けれどあの人は実家に帰ったって噂を聞いたし、それも先週の話だから、こんな早く帰ってくるはずはない。私は思考を振り切ろうとするのだけれど、どうしても思い出してしまう。

缶に入ってる発泡酒を飲み干すと大きなため息が出た。最初はただのすれ違いだった。仕事の忙しい時期がちょっとずれただけだったのに、Tは私の知らないうちに色んな事を決めてしまっていた。もしも今ここにあの人がいたら。Tは今、何をして、何を考えているんだろう。

私はスマートフォンを取り出す。仕事で使うかもしれないと思って買い換えたのに、今はその仕事も辞めてただのアルバイト。フリーターだ。それでもTが一緒に選んでくれた、白くて薄いお気に入りの機種は見るだけでなんとなく嬉しい。

TがダウンロードしてくれたGoogle Sky Mapを開く。日付をあの日に設定する。Tは、何て言っていたっけ?

「北海道の半分も見えないね」

そうだ。そう言っていた。やさしく微笑んで、それでも一生懸命星を探そうとしていた。私は何の疑いもなくあの幸せな時間がずっと続くのだと思っていたのだ。

冷たい夜は私の上に降り注ぐ。スマートフォンを操る指がうまく動かなくなってきた。

「いつか一緒に、星を見に行こう」

二度とそんな事はないのに、何度も何度も繰り返し再生してしまう。私はたまらなくなり、急いで部屋に戻る。あの時のTの顔が、空が、風景が。見えなかった星すら網膜に焼きついたみたいだ。

早く元気になればいい。私は自分の事ながら、他人の様にそう思う。そしてあの人、Tも。…ううん。きっと元気だろうけれど。今年の冬は、月食も、流星群もあるって目を輝かせていたあの人。澄んだ空の下、元気で居るんだろう。そう、そしてどうかTが幸せでありますように。

ふと振り返るとただの紺色の空があった。私にはきっと、この空が似合っているんだ。

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(ライター:Cheeky)

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