2013年春に大学を卒業する学生たちの採用エントリーが解禁され、大手就活ナビサイトが続々とオープンするほか、企業による採用説明会などが始まりました。例年以上の慌ただしさを感じる今回の就職活動。今後、「就活」を控えている学生にとっても、他人事ではない話題ではないでしょうか。

 京都大学では、就職活動に直結する内容で、教室から生徒があふれ出すほど人気の講座があります。それは、瀧本哲史氏の「起業論」。成功したベンチャー企業のケーススタディを中心とした、実践的な起業方法やその根底にある考え方を学ぶ講座です。

 そんな起業論の講座ですが、ある特徴があります。なんと受講生を学部別に調査すると、医学部の学生がもっとも多く、40%を占めるのです。京大医学部といえば、東大と並ぶ超エリート学部。医療の世界で高い地位や報酬を得るであろう彼らが、なぜ起業論を学ぶのか。気になった瀧本氏が学生にヒアリングしたところ、こんな答えが返ってきたそうです。

「この国では、医者になったって幸せにはなれない」
「もう昔のように、医者=お金持ち、という時代でもない」
「やりがいだけではやっていけない。新しい方法を見つけないと」

 このように彼らは、自分たちの将来について少なからず不安を抱いているのでした。今の日本は周知のとおり、医者余りの状況が続いています。そして、研修医の労働環境は厳しく、魔女狩りに近い医療訴訟だってあります。大学病院の給料は一般企業より低いことも。また、運よく開業ができても、厳しい市場競争に勝たなければなりません。

 「医療の勉強をキャリアに生かすための別の道があるのではないかと考えはじめ、『ビジネス』についても勉強しようと決断した」と、瀧本氏は彼らを分析します。学生たちは、最先端の医療研究を企業と連携して事業化する方法や、親の病院を継いだ場合、他の病院と差別化をはかるためにはどうすればいいのかなど、起業論を学びながら探っているのではないでしょうか。

 瀧本氏は、「変化が厳しい今の時代、これまでの価値観や方法、人生のルールというものは、意味をなさなくなってきている」といいます。さらには、「これからの日本はもっと厳しい状況になる」ともいいます。

 京大医学部生は、「国家試験に合格しただけでは、今後生き残れないし、幸せをつかむこともできない。むしろ奴隷として、上の世代が作ったシステムにからめとられる可能性が高い」と悟ったのかもしれません。


 「学問というのは、ただ難しい字を知って、わかりにくい昔の文章を読み、また和歌を楽しみ、誌を作る、といったような世の中の実用性のない学問を言っているのではない。(中略)いま、こうした実用性のない学問はとりあえず後回しにして、一生懸命にやるべきは、普通の生活に役に立つ実学である」(引用『現代語訳 学問のすすめ』ちくま新書)

 福沢諭吉の『学問のすすめ』のなかにある一説は、瀧本氏が言いたいことを代弁しているといいます。まさに今、この実学が必要だといえるのではないでしょうか。「医学部生が学ぶように、自分にとって必要な学問は何かと考え、探し、選び取る──そういった行為が、ベーシックなものとならなければなりません」と、瀧本氏は警鐘を鳴らしています。



『京都大学の講座「起業論」に医学部生が殺到する理由』
 著者:
 出版社:講談社
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