解決できない感情が赦されていくカタルシス『つなぐと星座になるように』

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【まんが難民に捧ぐ、「女子まんが学入門」】

――幼いころに夢中になって読んでいた少女まんが。一時期離れてしまったがゆえに、今さら読むべき作品すら分からないまんが難民たちに、女子まんが研究家・小田真琴が"正しき女子まんが道"を指南します!

<今回紹介する女子まんが>
雁須磨子
『つなぐと星座になるように』1〜2巻
講談社 各620円

 喜怒哀楽で言い表すことのできる感情はまだ良いのです。これは怒りなのか? はたまた哀しみなのか? 生きているとそうした「名づけようのない感情」に直面することが多々あります。感じているのはほかならぬ自分なのに、その自分ですら捕捉しきれず、もちろん他者に分かってもらうこともできないモヤモヤとした思い。雁須磨子先生はそうした言語化し得ないモヤモヤを確かに描き出すことのできる稀有なタレントであるのです。

 本作『つなぐと星座になるように』は、『幾百星霜』に続く雁先生の本格長編作品です。借金を踏み倒して東京へと去っていた彼氏を追い、なりゆきと勢いで上京した主人公・瑠加。とりあえず制作会社に勤める姉の部屋へと転がり込むのですが、姉は彼氏と同棲しており、なにかと気を遣う日々......。

 タイトルからイメージされるように、本作に登場する人物はみな星座のようにつながっていきます。上京した直後に瑠加を怒鳴りつけた男・大場始は、姉の彼氏の黒田修を異常なまでに尊敬する見習いスーツアクター(戦隊ヒーローもの等で被り物を着る俳優)で、瑠加のバイト先のクールビューティ・安城譲はかつて大場始となにかあった様子。そしてやっと見つけた瑠加の彼氏は、見知らぬ女性の手引きによって、なんとこれからスーツアクターになろうとしているではありませんか。

 入り乱れる人間関係の中で、登場人物同士のコミュニケーションも混乱を極めます。それはもちろん一方的に好意と敵意を押し売りし続ける超ド級の天然キャラ・大場始の存在によるところも大きいのですが、相手の気持ちを先回りして決め付けようとする、もしくは推し測ろうとするがゆえのディスコミュニケーションが、そこかしこで発生いたします。

 たとえば瑠加のバイト先の同僚で、社長の愛人である野乃は、留守電で一方的に別れを告げて、それですべてが済んだものだと決めつけるのでした。瑠加もさすがに疑問に思い、「てか......話くらいちゃんと......してみても......」と切り出すのですが、「何で? 今さら話したってもうどうにもなんないのに」「変じゃんそんなの 必要ないよ〜」「あたしはもうムリだって答え出しちゃったんだもん」とバッサリ言い切る野乃。案の定、社長は「俺は絶対別れないからな」と宣言し、ストーカー化してしまいます。逆にお互い気を遣いすぎるがゆえに、ギクシャクする瑠加と黒田のような関係もありつつ、長編作品だからでしょうか、いつもの短〜中編と比べると、各キャラクターをじっくりと描こうとする雁先生の姿勢が垣間見えます。

 本作において、活字で、そして手書き文字で書き込まれる大量のモノローグ。電波のように不可視のままコミュニケーションの空間を行き交うそれらは、誰かに読み取ってもらえることを期待されているものではありますが、往々にしてそうはなりません。そんなモヤモヤを曖昧なままに表現できるのはやはりマンガなればこそ。「ああ、そうそう、これなのこれ!」というカタルシスの中で、何ら解決してはいないのに私たちは、大いなる赦しをそこに見出すのでありました。

※画像は『つなぐと星座になるように』(講談社)

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