“篠山紀信、デビュー” 篠山紀信が語った“3・11以後の表現のあり方”<後編>

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 写真家・篠山紀信氏が3月11日に発生した東日本大震災の被災地を、新たな視点、そして感性で撮影した写真集『ATOKATA』(日経BP社/刊)。それは、報道写真とは一線を画した仕上がりになっている。

 3回に分けてお送りしている篠山氏の単独インタビュー、これまでは被災地と初めて対峙したときの混乱、そして「3・11」以前と以後の、表現の在り方の変化について語っていただいた。最終回となる後編はこの作品の位置づけからスタートする。
 そこで、なんと篠山氏は『ATOKATA』を自分のデビュー作と位置づけるのだ。その真意とは一体?
(新刊JP編集部/金井元貴)


■後編:『ATOKATA』は“篠山紀信のデビュー作”

―この『ATOKATA』は、篠山さんにとってどのような位置づけとなる作品だと思いますか?

「僕の風景だけの写真集で、こんな感じで撮っている写真集ってないんですよ。だから、どんな位置づけかと問われると…篠山紀信のデビューですね」

―デビュー作ですか!

「まさしくデビューでしょう。こんな写真を撮る篠山紀信、見たことないですよね? 私も初めて会いましたよ。まさしく新しい自分ですよね」

―今まで様々な方々を撮影されてきたと思いますが、今回の『ATOKATA』の撮影を通して、人の撮影の仕方も変わったのではないでしょうか?

「変わるでしょうね。この姉妹編で、『before-after』という展覧会をやったんですよ(*10月22日までhiromiyoshii roppongiで開催)。“前”と“後”という意味なんですが、展覧会では1つの額の中に2枚写真が入っていて、1枚はとても幸せそうな表情をしていて、2枚目、つまりアフターになると泣き喚いたり悲しみのどん底にいる、分かりやすく言うとそんな感じなのですが、つまりは人間の変化があるんですよね。それは1分後か、1ヶ月後か、1年後かは分からないけれど、その中にヌード作品も結構あって、生き生きと飛び跳ねている女の子がアフターでは突然血だらけになって倒れている、生と死というか、人間のある種の理不尽な差異をテーマにしました(*この『before-after』は12月20日発売の『アサヒカメラ』にて掲載予定)。
そういう風にして女の子を撮影するという発想は、『3・11』がなければ考えつかなかったことですよね。また、この写真集の終わりの方に被災者を写した18枚の写真を載せているのですが、この写真の撮り方もそれまでの風景を撮っている写真とは全く違うんですよ。これは大型のエイトバイテンという、原版が8×4インチつまり週刊誌の大きさのフィルムで、そのフィルムを入れて撮影しています。だから、カメラ自身が持っている力がすごい。原版がすごく大きいから細密描写なんです」

―つまり、カメラは固定してそこからは動かないということですよね。

「そう、動けない! だから、僕が撮るんじゃなくて、カメラが撮るんですよ。でも、そうしたほうがこの人たちの本当の表情を撮れると思っていました。僕は三脚を立ててカメラのピントを合わせて、こちらを見てくださいと言って2、3枚撮ったのですが、この人たちは大きなカメラに対峙しただけなのに、とても力強い表情をしたんです」

―この力強い表情は誰がつくったものでもなく、自分たちが自然に作ったものですよね。

「そうなんですよ。僕はそのカメラに自然な表情を撮ることを託したんです。そういうことも初めてだから、表現の仕方が少しずつ変わっていますよね」

―今後、写真を撮る上で、自分の表現の仕方が変わっていくというところで何かしら感じる部分はあるのではないでしょうか。

「うーん、でもとてもつらいんですよ。写真を撮るというのは楽なことじゃない。肉体的にもつらい部分がありますしね。あとは、今回のように自然と対峙にするには、自分が強く、ピュアな気持ちで対峙できる自分をつくっておかなければいけません。それが大変ですね。ただ、明らかに『3・11』以降の変わった自分がいて、撮れた写真ですからね。そういう点ではとても意味があります」

―ピュアな自分でいることが、表現する上では理想的なのかなと思います。

「でも、こういう光景に対峙したときには、自ずとピュアになりますよ。どうしようもないもの。手に負えないじゃないですか。そのときに、自分は撮らせて“いただく”しかない。そういう気持ちで撮影すればいいと思いますね」

―それでは、インタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。

「是非この『ATOKATA』をたくさんの人に見て欲しいですね。すでに津波が襲ってくる瞬間やその後の写真や映像はたくさん見たと思います。その中には、感情を刺激する写真もあったし、祈りや神といったある種の宗教的、哲学的な意味合いを持って写真を解釈していた人もいらっしゃると思います。この写真集は50日という月日が経って、僕自身の中で起こったことを発酵させ、ろ過し、たどり着いたのがこのピュアな視点でした。そうした写真を見て欲しい、それがメッセージですね」

(了)

■篠山紀信氏の写真展「KISHIN SHINOYAMA PHOTO EXHIBITION “ATOKATA”」開催
日時:2011年11月22日(火)〜12月15日(木) 10:00〜19:00
会場:Audi Forum Tokyo(東京都渋谷区神宮前6-12-18ジ・アイスバーグ)
特別協賛:アウディ ジャパン
協力:PLAZA CREATE、PHOTO NET
制作:SUNプロデュース
企画:STEP
入場料:無料
詳細は下記のURLにて
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/const/news/20111116/555499/


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