座右の書は『人生を"半分"降りる』。

 ファンタジー好きから社会派へ。"早め早めの本"にばかり手を付けていたという小中学生時代のChikirinさんの生態と、「Chikirinの日記」の原点が明らかになった前編。続く後編は、小5から高校時代までずーっとハマッていた本の話から!

 「星新一さんの本はたぶん全部読んでいるんじゃないかな? 星さんのショートショートは、今私が書いている『Chikirinの日記』が、ある意味でお手本にしている文章なんです。私たちは社会にいろんな不満を持っていますが、それに対してデモを起こす人もいれば、政治家になろうとしたり、もしくは日本ではなくアメリカへと居住場所を変える人もいる。そういういろんな問題解決の方法や、もしくは諦めるという方法もあるなかで、星さんは言葉を使って人を笑わせながら、鋭い社会風刺で問題提起をされていた。自分もいつかはこんな文章を書いてみたいと憧れていたし、今でもお手本にしたい文章です」

 その生涯で1000編を超えるショートショートを残した星新一さん。なかでもChikirinさんが好きなのは、『ボッコちゃん』(新潮文庫)に収録されている『おーい でてこーい』。ある日突然、地球に空いた穴。「おーい でてこーい」と呼びかけても返事はなく、小石を放り込んでも底に着いた気配はない。水を入れても棒切れを入れても一向に埋まってこない深い底なしの穴に、やがて人間はゴミを入れ、遂には使用済み核燃料を入れ始める。そんなある日、空から落ちてきたのは小さな小石。

 「この石がなにかというと、もちろん、最初に入れた小石が落ちてきたということですよね。ものすごく風刺が効いてるでしょ。自分達の理解できないもの、ここでは何を入れても埋まらない穴がそれを象徴しているのですが、そういうものを目にして、人間がいかに自分の都合のいいように考え、どんどん思考停止していくかという様子を描いているわけです。物語は小石が落ちてくるところで終わりますが、そのあとに何が落ちてくるのかを、読者はまざまざと想像することになります。書くスキルも素晴らしいですし、発想も素晴らしい。燃料の処理方法が決っていない原発を推進するという無謀にたいしての社会風刺という意味でも傑出していると思います」

 一方で、中学・高校時代頃からはノンフィクションも好んで読んだ。特に興味があったのは"新左翼"の人々の活動を取り上げた本。
 
 「永田洋子さんなどご本人が書かれた本やジャーナリストの方の本など、"左"関係の本はかなり読みました。なかでも感心したのは、立花隆さんの『中核vs革マル』や『日本共産党の研究』。小説家の方の力も素晴らしいと思いますが、立花隆さんのようなジャーナリストの方というのは"現実"を書かれるんですから、すごく勇気がいりますよね。中核と革マルの抗争について書くなんて、そのあと自分に何が起こるのかを考えるとちょっと怖いでしょう? そんな、普通ではあまり手を出したくないトピックを果敢に選ばれて、覚悟を持ちながらお仕事をされているという点に、すごく感銘を受けました」


 とはいえ、新左翼運動ど真ん中世代ではないChikirinさん。なぜそもそも興味を?

 「運命に弄ばれる人や、大きな時代の流れのなかで人生が変わっちゃうという話が好きなんです。計画通り生きた人ではなく、いつの間にか変なことになってました!という人生。それって誰にでも起こり得ることですよね。そういうのを本で読むのが大好きなんです」

 1970年代、ものすごく大きなムーブメントだった新左翼運動。だからこそ、そのなかには普通の人生を送るはずだった、普通の人たちまでもが巻き込まれていた。

 「例えばごく普通の学生だったのに、先輩に誘われて飲みに行ったのをきっかけに、2年後には運動家になっちゃった人。その時その飲み会に行ったか行かなかったかという、ほんの少しのことで人生が変わっちゃうというのが、新左翼関係の本を読んでいると随所に出てくるんです。よど号事件なんかも、当時は貧乏学生が飛行機なんて乗れない時代でしたから、"飛行機のハイジャックなんて格好いいっすね!"くらいのノリで付いていったら、40年経った今でも北朝鮮から帰って来れないとかね。なんて大変な人生なんだと(笑)。他人ごとだから笑っていられるのかも知れないですが、人生の不思議、生きるということの偶然性や面白さを堪能できるのが新左翼関連のノンフィクションのおもしろさだと思います」

 そんな具合に、斜め視点で新左翼運動を楽しんだChikirinさんだが、大学生になる頃には読書量がずいぶん減ってしまったという。

 「圧倒的に現実社会が面白い!ということに気付いてしまったんです。大学に入学した頃にバブルが始まり、どんどんクレイジーな世の中になっていきました。だから現実の方が圧倒的に楽しくて、作り物の世界の中に戻れなくなってしまったんです」

 とはいえ、本屋さんに行くのは相変わらず大好き。行けば必ず、児童書から雑誌(子育てから高齢者向けまで!)、文庫、新書、参考書まで、フロアすべてを見て回るんだそう。

 「自分が読む読まないにかかわらず、今世の中にどんな本があり、どんな人が書いてどんな人が読んでいるのかを知るのは、やっぱり楽しいですね。私の本の選び方は、まず1〜2ページ読んでみること。前書きや後書き、著者紹介も最初に読みます。私は読むことに忍耐力がないので、面白くないものは10ページも読めません。だから選ぶのは、読み始めてすぐにもっと読みたいという気にさせてくれる本。で、この本だ!と出合った本は、だいたい当たるんです」

 そんな感じで出合いを遂げ、ここ数年「座右の書」と常に挙げているのが、中島義道さんの『人生を"半分"降りる』。

 「中島先生は大学で思想や哲学を教えていらっしゃる方。生き方論的な本をたくさん出されていますが、どれも読んでいて目茶苦茶面白い! この本も目次を読んでいるだけで大笑いしてしまうほどです。おおまかにいうと、人間の命なんて限られているし人生は短いのだから、あまり人に気を遣ったり細かいことに悩んだりせずに、好き勝手やって自分のやりたいように生きていきましょう、ということを書かれているんですね。つまらないことにエネルギーを使うな、他人のためにエネルギーを使うな、プライドや自分が気持ちよくなりたいという感情なんて実はけっこうくだらないよね?って。さらに、世の中でよく言われる、"がんばって努力しなさい"とか、"こうやってネットワークを築きなさい"とか、そういうのも全く馬鹿馬鹿しいと否定されています。学校の先生がこんなことを書いちゃって、しかも売れている。すごい世の中になったなと思います。もともと私自身がそういう考えなので、こういうことを考えているのは自分だけじゃないんだと励みにもなります」

 昨年、10年以上勤めた外資系企業を辞め、基本的には貯金で生活しているというChikirinさん。考え方のみならず、その暮らしのスタイルまで、いい感じに"半分"降りているようです。


(プロフィール)
Chikirin(ちきりん)
2005年に開設したブログ「Chikirinの日記」を書いている、正体不明のおちゃらけ社会派ブロガー。関西出身、東京在住。バブル最盛期に証券会社で働き、米国へのMBA留学を経て外資系企業に勤務。昨年秋に早期退職し、現在は"働かない人生を謳歌中"。著書に『ゆるく考えよう』(イースト・プレス)、『自分のアタマで考えよう』(ダイヤモンド社)。







■ 関連記事
『ジュンク堂書店 ロフト名古屋店で電子書籍の読書会−角田光代さん『八日目の蝉』語る』(2011年11月27日14:13)
『女子の7割が「ギャル」だった?』(2011年11月26日13:00)
『「世のため消費」や「ソーシャルメディア利用者の拡大」、3.11が消費者にもたらしたもの』(2011年11月25日09:00)


■配信元
WEB本の雑誌