「24、5歳の時に見えた「道」があまりにお粗末だった。」 吉田修一さんインタビュー(3)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第35回の今回は、著書『平成猿蟹合戦図』(朝日新聞出版/刊)を上梓した吉田修一さんです。
 最終回の今回は、吉田さんが小説を書き始めた理由について。
 作家の方々というと、みなそれぞれに強烈な動機があって小説執筆を始めたと思われがちですが、吉田さんの場合はどうだったのでしょうか。

■24、5歳の時に見えた「道」があまりにお粗末だった。

―文章を書くということをお仕事とされている吉田さんですが、そのなかでも特に好きな仕事はありますか?

吉田「ゲラになった原稿に自分で赤を入れるのが一番楽しいですね。削ったりするのが好きなんですよ」

―吉田さんは高校まではずっと水泳をされていたそうですが、そのようにスポーツをずっと続けられていた方が文章に興味を持ち、小説を書いてみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

吉田「大学に入るタイミングで東京に出てきて、24、5歳の時に特にきっかけなく書き始めたんですよね…。書く作業としては短いものなんですけど日記をつける習慣があって、その延長で小説になったのかな…。単純に小説っていうものを書いてみたいと思ったのがきっかけといえばきっかけかもしれません」

―特にきっかけがないというのは珍しいですよね。

吉田「以前、対談させてもらった高橋源一郎さんにもそこを深く突っ込まれたんですけど、考えても出てこないんですよね。「ありえない」って言われました。
でも24、5歳の時って何となく先が見えてしまう感じがありませんか?この道を行くのか、っていう。僕の場合はその時に見えた道があまりにお粗末だったんですよね(笑) 卒業してからずっとフリーターをやっていたりしたので。それで小説っていうわけじゃないんですけど」

―24、5歳で将来に思い悩んだ末に書き始めたというわけでもないんですね。

吉田「思い悩んではいたんでしょうけどね。でも、その打開策として小説を選ぶっていう時点でもう間違っているでしょう(笑)」

―最近読んだ本がありましたら教えてください。

吉田「一番最近読み終わったのはイアン・マキューアンの『ソーラー』ですね。それとマリオ・バルガス・リョサの『チボの狂宴』とか、楊逸さんの『獅子頭』も面白かったです。あとは新潮クレスト・ブックスなどでベトナム系アメリカ人とか、タイ系フランス人とか、移民の若い人が書いた小説が出ているのですが、『ボート』(ナム・リー)とか『観光』(ラッタウット・ラープチャルーンサップ)とか、ああいうのは本当に面白いですね」

―書店で本を選ぶ時はどのように選んでいますか?

吉田「小説に関しては、“この人新しい本を出したんだ”ということで手に取ったり、さっきの『観光』のような気になり方をすることもありますね。読んで面白かった作家の過去の作品を遡ってみたりもします。ノンフィクションは装丁とか帯のコピーで買うことが多いです。読む量でいうと、今は小説よりノンフィクションの方が多いかもしれません」

―吉田さんが、人生において影響を受けた本がありましたらご紹介いただけますか?

吉田「難しいなあ…。こういう質問でいつも上げるのは、ヨシフ・ブロツキーの『ヴェネツィア』っていう本ですね。紀行文のような小説のような本なんですけど」

―最後に読者の方々にメッセージをお願いします。

吉田「平成猿蟹合戦図はこれまでの作品とは多少毛色が違いますが、現代のお伽話としてぜひ読んでみて下さい」

■取材後記
 言葉を選びながら、ものすごく真剣に取材に応じてくださった吉田さん。
 ご本人がリアリティの境界がわかった、と語っていたように、今回刊行した『平成猿蟹合戦図』で、吉田さんは次回以降の作品の大きな手がかりをつかんだようでした。
 多彩な作品群にさらなるバリエーションが加わることに期待です。
(取材・記事/山田洋介)


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