「登場人物たちを最終的に居心地のいい場所に立たせるという一点は決まっていた」 吉田修一さんインタビュー(2)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第35回の今回は、著書『平成猿蟹合戦図』(朝日新聞出版/刊)を上梓した吉田修一さんです。
 前回は『平成猿蟹合戦図』における作風の変化について語ってもらいましたが、今回は執筆そのものについてお話を伺いました。
 吉田さんはどのように本作を書き進めていったのでしょうか。

■「登場人物たちを最終的に居心地のいい場所に立たせるという一点は決まっていた」

―本作は『週刊朝日』で連載されていましたが、連載ならではの難しさというのはありますか?

吉田「締め切りですかね、やっぱり(笑) 毎週ですからね。
連載って必然的に毎回読者がいるということなので、書き下ろしであればできること、つまり途中で場面を入れ替えたり、設定を書き直すことができません。そういう意味では、この作品も連載ならではの縛りはありましたね」

―執筆を始める段階ではどの程度構想が固まっていたのでしょうか?

吉田「まず、あとは主人公の一人である美月が歌舞伎町で赤ん坊を抱いてしゃがみこんでいるという場面が頭の中にありました。一番のとっかかりとしてはそこですね。
そこから毎回書くたびに話が広がっていった感じです。登場人物にしても、最終的に8人が語り手になりますが、書き始めた段階ではそこまで増えるとは思っていなかったですし」

―書き始めた当初は、後に出てくるひき逃げ事件や選挙のことは頭になかったんですね。

吉田「ひき逃げはぼんやりあったんですけど、選挙は全然なかったですね。連載の第2回で純平が初めて出てくるんですけど、その登場シーンを書いている時は、まさかこの人が将来的に選挙に出るなんてまったく思っていなかったです」

―連載小説でプロットを決めていないというのは不安ではなかったですか?

吉田「もう不安だらけですよ(笑) ただ、今回は最終的に登場人物たちに居場所をみつけてやろうというか、幸せになってほしいという一点は決まっていて、この人たちをどうすればそれぞれの場所に立たせてあげられるのか、ということを考えて書きました。細かい設定は決まっていないにしろ、登場人物たちが最終的にどうなるかは決まっていたというのは小説を書くうえでかなり大きかったです。それがなければ今回みたいな書き方はできなかったと思いますね」

―今おっしゃっていたことに関連しますが、この作品からは「再起」というテーマを読み取ることができますね。

吉田「僕も含めて、どんな人でも立つ場所が少し変わっただけで、まったく違う道が広がったりするじゃないですか。人間にとって、立っている場所というのはすごく大切で、単純に場所さえ変われば人生うまく転がる人もいるんだろうし、そういう意味で、今回は立ち位置を変えることで再起が可能なんだなと思いながら書きましたね」

―吉田さんの作品に一貫するテーマというのはありますか?

吉田「それをサラッと答えられればいいんですけどね…。色々なタイプの小説をこれまで書いてきましたが、なぜ色々なタイプのものを書きたいのかというと、あるジャンルの作家として特定されたくないんですよね。たとえば恋愛小説家と呼ばれると、自分を狭められる感じがあって。
 とにかくいろんなものに挑戦して、属性をあいまいにしたいんだと思うんです。僕が小説の中で何を書いているかというと、まさにそのことを書いているんじゃないかと。世の中にあるいろんな仕切りを取っ払いたいわけではなくて、どうせ取っ払えないものなら逆にもっと仕切りを増やして、仕切りなんて一つだと大きな壁だけど、あれもこれもと増えていくうちにそれは低くなって、仕切り自体を無効にするというか、結局そこでも自分の属性があいまいになるというか、説明するのが難しいのですが、そういうことを小説の中で手を替え品を替えやっているような気がします」

―確かに、本作も含め、作品のタイプというか幅はどんどん広がってきていますよね。

吉田「デビューしたのが文學界新人賞からだったので、デビューして芥川賞をとるまでは“純文学の新人作家”というのが冠としてついていて、そうなるとそういう風にしか読まれなくなるじゃないですか。だから『パレード』みたいなものを書いてみたり『東京湾景』を書いてみたり。そうしたら恋愛小説家として見られるようになって、今度はそこから抜け出そうと『悪人』を書いてみました…というような(笑) 今は“『悪人』の吉田修一”なので、またそこから抜け出さないといけませんね。
だから、書きたいことって“捕まるな”ってことなのかな。何かに“捕まって”しまうと身動きとれなくなるじゃないですか」

第三回 24、5歳の時に見えた「道」があまりにお粗末だった。 につづく


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