【宙にあこがれて】第16回 世界初就航・ボーイング787
こんにちは、咲村珠樹です。今月から日本の空に新型機、ボーイング787が定期便として飛び始めました。「宙にあこがれて」では、このボーイング787(B787)について、3回にわたってご紹介していきます。まず今回は、話題を呼んだB787の概略と、今までの関連イベントについて。

航空雑誌はもちろんのこと、一般のニュースでも何度となく話題として取り上げられたB787。興味のない人にとっては、何がそこまで話題になるのか……とお思いでしょうね。なぜこれだけB787が注目されるのか。大きな理由は、日本の航空会社によって世界で初めて就航することになった、ということ。新型機を世界に先駆けて日本の航空会社(全日空)が最初に使い始める……というのは、これが初めてのことなのです。

これは、全日空がB787の「最初の発注者(ローンチカスタマー)」となったことで実現しました。

新規に旅客機を開発するというのは、非常に多額の予算が必要になり、もし失敗したら会社が傾くほどの影響が出ます。実際、過去には旅客機の開発失敗や販売不振で、数多くの航空機会社が経営状態を悪化させ、倒産したり同業他社に吸収合併されたり……ということが繰り返されてきました。戦前から1950年代頃まで、旅客機の分野でトップクラスのシェアを誇っていたダグラス社も、ベトナム戦争の特需で潤った軍用機メーカー、マクダネル社に吸収されてマクダネルダグラスとなり、さらに今ではボーイングに吸収されて社名がなくなってしまいました。ヨーロッパではさらにその傾向が強く、アメリカの会社にシェアを取られてフォッカーやデハビランドなど、多くの名門メーカーの名前が消えています。

こうしたリスクを軽減する為、新型機を作る際はいきなり製品を作って「こんな飛行機ができたので買ってください」とやるのではなく、開発計画を発表して「こんな飛行機を作ろうと思うんですが、注文してくれますか?」という仕組みで発注者を募り、市場の反応を見て開発計画を具体化させるという手法をとるのが一般的です。この際、一番最初に「そんな飛行機ができたら買います」と手を上げた顧客をローンチカスタマー(launch customer)と呼んでいます。launchというのは船の進水(ここでも飛行機と船舶の関係性が出てきますね)を表す言葉ですが、計画を「始める」という意味で使われていると考えた方がいいでしょう。かつては同じように「始める」という意味で「キックオフカスタマー(kick-off customer)」という表現を使っていました。

ローンチカスタマーは、最初に注文を出した特権として、世界で最初にその飛行機を使用することができます。もちろん、最初に使うことで様々な初期トラブルというリスクも背負うことにもなるのですが、航空会社にとっては「この飛行機に乗れるのはウチだけ!」というアピールをして顧客を獲得できるのが大きな魅力。たとえば、ジャンボジェットの呼び名で知られるB747の場合は、パンアメリカン航空(パンナム)がローンチカスタマーとなり、世界で初めて就航させました。今回の全日空はそれを前面に押し出し、羽田空港など各所で「We Fly 1st.」……私達が最初に飛びます(飛ばします)というキャンペーンを行っていました。

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日本の、というか欧米以外の航空会社が新型機のローンチカスタマーになるのは初めて。かつてB767-300で日本航空がローンチカスタマーになりましたが、既存のB767のバリエーションモデルなので、完全な新型機ではありませんでした。このB787の場合、全日空は約10年前、当時別のタイプの新型機計画(ソニッククルーザー)を発表していたボーイング社に「B767の改良型となるような、同クラス(国内線だと300席)の中型機を作って欲しい」と働きかけていた……という経緯があるので、発注者というよりも企画者に近い存在です。

さて、11月の就航に先立つ7月上旬。日本に初めてB787がやってきました。これはSROV(Service Ready Operational Validation)という検証プログラムの為。初飛行以来の試験飛行は、主に「飛行機としての性能が計画時の要件を満たしているか」という検証を行う為のものでした。それに対してこのSROVは、航空会社が運航するにあたって、空港の旅客設備などのサービス面において不具合はないか、という検証が目的です。

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旅客機はただ飛ぶだけでなく、空港などで乗客が快適に利用でき、さらに航空会社が使い勝手よく運航できるかというのが重要ですから、ユーザー側からの検証はとても重要です。使い勝手に問題があれば、メーカー側に改良を求めることになる訳で、これもローンチカスタマーの特権であり、同時に「ユーザー代表」としての責任もあります。また、SROVが行えるということは、機体の性能に問題がなくなり、具体的に旅客機として運航することを考えられるようになったということであり、開発が最終段階に入って航空会社への引き渡しが近い……と言えます。

この試験飛行の期間中も、空港の見学デッキには連日多くのファンがやってきていました。

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SROVでやってきたのは、B787の2号機(ZA002・登録記号N787EX)。ローンチカスタマーに敬意を表して、全日空カラーで完成した機体です。当初の予定では、この2号機が最初の機体として全日空に納入されることになっていたのですが、途中の試験などで様々な不具合が見つかり、その改修を重ねた為に当初計画よりも重量が大きく超過してしまい(重量超過は燃費の悪化につながるので)、全日空は受け取りを拒否。製造段階で改修を受けて重量超過が少なくなった別の機体が納入第1号ということになりました。……ということで、この機体が全日空の機材として運航されることはありません。

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運航試験として全日空のパイロットが操縦し、全日空カラーでありながら全日空の機体ではない……というややこしい(しかし航空ファンにとってはレアな)機体でしたが、ほぼ一週間にわたってみっちりと就航予定の国内空港を飛び回り、細かい使い勝手や整備の仕方などをテストしていきました。

さて、続いては9月28日。待ちに待った、全日空への納入1号機が羽田空港へ到着しました。

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納入1号機はラインナンバー(製造ラインで製造を始めた順番)8のZA101、日本での登録記号JA801Aというもの。全日空では新機種であるB787導入を記念して、B787の1号機と2号機(JA802A)に特別塗装を施しました。ご覧の通り、機体の前半分に大きく「787」の文字、後ろ半分はまるでサッカー日本代表のサムライブルーのような濃いブルーによる繊細なグラデーションラインを描いています。このデザインは26日の引き渡し式典で、海外のメディアなどにも好評だったそうです。

やはり羽田空港の見学デッキには、航空ファンや職員、報道陣などが多く詰めかけました。久しぶりの新型機、そして世界で初めて日本の航空会社が運行を始めるという点が、注目を集める原因でしょう。

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そして、理由はもうひとつ。「待ちに待った」という言葉にふさわしく、B787は難産の子だったのです。21世紀、新世代の旅客機として、いろいろ先進的な要素を盛り込んだことによる開発の難航、そしてその間発生したボーイング社の労使問題……次々に現れる問題を克服していくのに時間がかかりました。

当初の計画では、全日空へは2008年に納入され、同年開催の北京オリンピックにあわせて華々しくデビュー……ということだったんですが、開発スケジュールは遅れに遅れてデビューは今年、ということに。全日空や新型機のデビューを心待ちにしていたファン達からすれば、『機動戦士ガンダム0083』に登場する「ソロモンの悪夢」こと、アナベル・ガトーの名台詞ではありませんが「我々は3年待ったのだ!」というのが偽らざる心境ではないでしょうか。

この頃から、空港売店などで販売されているB787グッズの販売量がグッと伸びていきました。特に全日空1号機の特別塗装を再現したダイキャストモデル(模型)はものすごい売れ行きで、あっという間に店頭から消えてしまう有様。人気の高まりを実感しました。

さて、約1ヶ月の運航習熟過程を経た10月26日、いよいよB787による初めての商業運航が実施されました。成田〜香港往復のチャーター便です。参加者は招待者や報道陣の他、ツアーが抽選販売され、さらにチャリティーオークションも実施されました。オークションの落札額は200万円以上。額を聞いて驚きました。

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チャーター便では結構自由な形で便名を設定することができます。成田から香港へ飛び立つチャーター便は、B787最初の商業フライト(B787につけられる最初の便名)ということで、写真の赤い下線部にあるように「NH7871(NHは全日空を表すコード)」。全日空のB787第1便であることを強くアピールするものでした。

また、成田空港では、世界で初めて乗客を乗せたB787が飛び立つ……ということで、お見送りのイベントを行いました。

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横断幕を用意し、成田市のマスコットキャラ「うなりくん(右写真左)」、成田空港のマスコットキャラ「クウタン(右写真中)」、千葉県のマスコットキャラ「チーバくん(右写真右)」が勢揃い。イベントに参加した方には、お揃いの青い手袋が配られて「手を振ってお見送りしてください」という趣向。

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成田空港ホームページなど、限られた告知であったにもかかわらず多くの人が詰めかけ、盛大に見送られながらB787は香港へ向けて飛び立っていきました。

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よく見ると、滑走路際にも機内の乗客から見えるように、空港職員によって横断幕が用意されているのが判りますね。後ろに見えるバスは、飛び立つ瞬間を撮影する報道陣(滑走路際の人々)を乗せてきたものです。

最後に、イベント参加者達による記念撮影で終了。こうして、B787は「旅客機」としての第一歩をここ日本で踏み出したのでした。

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この後、就航記念として成田空港周辺の遊覧フライト、被災地支援の復興応援フライトとして、宮城県と福島県の子供達を招待した仙台空港周辺の遊覧フライトなどを全日空は実施。そして11月1日、羽田発7時30分の岡山行き651便で、世界最初の定期運航を開始したのでした。

次回は、B787の機体についてご紹介します。

(文・写真:咲村 珠樹)

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