豪華客船のホスピタリティの源泉とは―幡野保裕さんインタビュー(2)

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 豪華客船として名高い「飛鳥」「飛鳥II」、そして最高級のおもてなしで高いリピーター率を誇る「飛鳥クルーズ」。100日の世界一周の船旅を行う「世界一周クルーズ」はなんと最低価格425万円という超豪華なクルーズですが、そんな「飛鳥クルーズ」の5代目船長である幡野保裕さんが上梓された『リピート率7割の「飛鳥クルーズ」最高級のおもてなし』(かんき出版/刊)には、「飛鳥クルーズ」のホスピタリティについて詳細につづられています。
 どうしてここまでリピーター率が高いのか? 実際に船の中はどのようになっているのか? 著者の幡野さんのお話を3回に分けてお送りします。
 中編では「飛鳥クルーズ」のホスピタリティの源泉についてお話を聞いています。

■中編「飛鳥のホスピタリティの源泉とは?」

―本書の中で執筆されている「人間力」について教えていただきたいのですが、これはどのようなものでしょうか。

「この『人間力』は一言で言えないのですが、サービス業の中で最も大事なものは人に対する優しさだと思います。これは簡単に身に付くものではありませんし、子どもの頃にどのような教育を受けたかも大事です。
多分、いろいろな仕事をする中で必要なものは、優しさだけではなくて、判断力や決断力も必要になりますが、船の中のサービスと考えると、基本的には相手を思いはかれるという人間的な幅が大事ですね」

―優しさというと、「これをしてあげよう」という気づきが大切だと思います。つまり、自主的に人のために動けるかということなんですが、クルーの皆さんは自主的に動いていらっしゃるのでしょうか?

「自分で考えて動いていますし、そういう雰囲気がありますね。もちろん、自分なりに考えてやって失敗してしまうこともありますが、その場合は上の人たちがカバーをしてあげるという文化が浸透しています。だから、クルーたちも自分なりに動けるのだと思います」

―具体的に失敗したクルーのフォローの方法を教えていただけますか?

「具体的には、やはり励ましてあげるということが一番大事だと思います。あなたが良いと思ってしたことがたまたま合わなかっただけで、沈まなくてもいいよ、と。サービス業は基本的に人を相手にします。だから、最初は戸惑うことが多いですが、その中でだんだんとお客さまそれぞれに合った対応ができるようになっていきます」

―これは若者だけに限ったことではないのかも知れませんが、失敗を恐れて何もしないという傾向もあると思います。一度の失敗を大きく捉えてしまう、と。だから、フォローというのはその失敗から救うという意味では大切だと思います。

「そうですよね。あとは、この本にも書きましたが、軍人の山本五十六さんが言った『やって見せ 言って聞かせて させてみせ 褒めてやらねば 人は動かじ』という言葉通りだと思いますね。現場は特にそうですよ。もちろん同じ失敗を3回してはいけないと思いますが、最初の1回や2回は仕方ないと思うんですね。
飛鳥の中にはサッカーと似たようなルールがありまして、注意としてイエローカードが2枚出て、3枚目にレッドカードが出るのですが、外国人のクルーはレッドカードが出たらその場で解雇となります。クルーは様々な国から集まっていますから、その上でこちらも公平に扱うことはすごく意識していますね。また、クルーとお客さまの距離も近くなりすぎてはいけませんし、その距離感を保つということは、船員にとって大切なことだと思います」

―本書の中に“飛鳥スタンダード”というものが出てきます。これは、お客さまに約束する「世界最高水準の安全と設備」、そして「心温まるおもてなし」と書かれていらっしゃいます。その“飛鳥スタンダード”のもととなる「ゴールデンルール」について聞かせていただきたいのですが、「ゴールデンルール」とはどのようなものなのでしょうか。

「これは本書にも書かせてもらいましたが、乗組員たちが常に意識すべき最低限のルールですね。サービスの基本と言い換えることもできます。それがゴールデンルールとして7つ書かれていて、このルールを意識することによって、サービスのレベルをキープできるんです」

―この7つ、例えば「お客様にもスタッフにも明るく笑顔で挨拶します」「常にエレガントなサービスに努めます」といった内容は、サービス業の基本ですね。

「サービス業のおもてなしの心で有名なところですと、旅館の加賀屋さんですとか、リッツ・カールトンの『クレド』などがありますが、基本はみんな同じだと思います。それをどう活かすか、それは各企業に沿ったやり方があるでしょうし、環境も違いますから、自分たちなりに作り変えていくというのがサービスだと思います」

―この「ゴールデンルール」をクルーに定着させるためにどのようなことをしていますか?

「船の中でミーティングを行っているときに、『ゴールデンルール』を読んだり、このルールについて話し合いをします。また、陸上(本部)社員も同じですね。携帯用の小さなサイズのブックレットのようなものがあって、船員は常にそれを携帯しています。
また、日本語だけではなく英語でも書かれていて、外国人のクルーにも徹底させています。だから、『ゴールデンルール』って何ですか?と聞くスタッフはいないですね」

―すごく徹底されていますね。皆さん、この7つのルールを暗唱できるのでしょうか?

「できますよ。新入社員時の研修で暗記しますから(笑)」

―「ゴールデンルール」7番目の「安全で快適な船の旅を提供します」というのも、根本的な部分ですよね。

「そうですね。やはり乗り物ですし、自然を相手にしていますから安全運航はすごく大きなことです。船を安全に動かす、揺らさないというのは目に見えませんが、サービスとしてはものすごく大きな要素なんですよね。操船というのはお客さまの信頼を得るためには重要で、あまり上手でないと信頼を得られないところもあります。だから、同じ岸壁に船をつけるにしても、スムーズにいくか、そうではないかで大きく変わってきますし、それがお客さまにとって一つの楽しみにもなっているように思います」

―そう考えると、船の旅ってワクワクするような、冒険心をくすぐられるような要素がたくさんありますよね。

「すごくありますよ。船旅の中で何が一番大きいかといったら感動なんですよ。世界一周クルーズなんかはものすごいお金を払って、100日間旅をするわけです。その中で得られるのは思い出と感動なんですよね。それも、本物の感動なんです。自然と人間の触れ合いですね。景色や海洋動物、着岸した港町に住む人たちとの交流、そこに大きな感動があって、また乗りたいと思っていただいているというところだと思いますね」

■後編「幡野船長が一番好きな港はどこ?」へ続く



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