ライターの永江朗さん、ブックディレクターの幅允孝さん、電子書籍ストア"Reader ™Store"店長の加藤樹忠さんの電子書籍鼎談。話は本屋さんと電子書籍の関係に広がり盛り上がります。それでは、後半をどうぞ!


永江:4年くらい前に、大学の授業の関係で岩波文庫とiPod touchを読み比べるということをやりました。そこでわかったのは、3日あれば身体的には慣れるということでしたね。
いま私のiPod touch、iPhoneは"青空文庫専用端末"と化しています。

幅:それは本を読む機会が増えるという点でいえば、とてもポジティブなことだと思います。たとえば、いま20代の人が志賀直哉を読むかといったら、読まないでしょう? 岩波文庫は装丁からして人を威圧するような崇高さがあって(笑)。今まで怖そうだし、という感じで、本屋さんで手にしなかった本を携帯とか、"Reader"とかで触れる機会が増えるというのはすごくおもしろいと思う。

永江:ある雑誌の仕事で、毎号テーマを決めて10冊の本を選ぶ連載をしています。自転車をテーマにしたとき、夏目漱石の『自転車日記』を入れたかったんです。けれど、収録されている文庫が見つけられなくて、古本屋に漱石全集を買いに行きました。『自転車日記』なんてほんの10ページくらいで終わりだから、その時は全集の厚さを見て「こんな塊買うんかい」と思った(笑)。でも、青空文庫に入っているんですよね。ピッとやれば読める。読みたいものがいつでも読めるっていうのは、本が好きな人にとっては、夢のような時代だと思います。

逆に言うと、読みたいものが読めないのが紙の本の現実。日本の出版マーケットって圧倒的に新刊で成り立っているから。

幅:電子書籍で近代文学を読むと、時代の感覚みたいなものがちょっと自分の中でおかしくなることがありません? 鴎外があって、漱石があって、井伏があって、太宰があってという階層、時代の流れで見ていたものが、電子で見ると、谷崎であろうが鴎外であろうがフラットに見えちゃう。ちょっと古いもの、みたいな。そういう意味での"つかみやすさ"みたいなものはあるんだと思います。

永江:この状況は書き手にとっては不利だよね。だってさ、漱石さんと同じ土俵で戦わなくちゃいけない。しかも、漱石さんは(版権が切れているから)タダだもん(笑)。

幅:電子書籍で読む場合、文字の表記の仕方でたしかに"読みやすい読みにくい"はあると思っています。単純に、漢字は向いていませんよね、再生するインターフェイスとしては。長いメールを読む気にならないのと同じで。

電子で読むのが主流になると、書くほうの文体も変わると思いますね。表意文字の使い方とか。漢字よりひらがなのほうが情報量は少ないから、そのほうが読みやすい。メールで書くときの「様」が、いま「さま」とひらがなになっているのと同じで、そういうムードでものを伝えますよ、と。こういうインターフェイスで伝える時は、こうしますよ、と変化すると思うんです。


加藤:電子書籍端末でどんなジャンルのものを読むかによって、読むスピードも変わりそうですよね。一回ちゃんと調べてみればおもしろいかもしれませんね。

幅:脳みそ的にどういう差があるか、ということも含めてね。そうすれば、興味深い結果が得られそう。

あと、Kindleなどの読み上げ機能もおもしろいですよね。アメリカでは、昔からオーディオブックがあって、誰が読むというキャスティングの妙で売ったりしていますね。

加藤:日本でもライトノベルで、そういうものがはやりそうな気はしますね。アイドルを売るためのツールだとか。

永江:端末に音声機能をつけるのはどうですか。たとえば私だったら、「小泉今日子1989年バージョン」とか(笑)。あらゆる本が小泉今日子の声で朗読されるという。そういうのだったら、もっとお金を払うのに。

幅:(笑)。技術的にはどうなんですか?

加藤:日本語は英語と違って、抑揚とかの処理が本当に難しいので、小泉今日子さんの1989年当時の声で自動的に再現できるかというと、わかりません(笑)。

永江:井上ひさし作品の会話部分が全部東北弁とか、いいなと思うんですけどね。

幅:あとは電子書籍を売るということが、既存の書店ビジネスのプラスになっていくということがとっても重要なことだと思います。単純に本好きの観点からみれば、本を読む人が一人より二人、二人より三人いたほうがうれしいという気持ちがある。紙であれ、電子であれ、誰かにこの本を届けたら、利益がそこに落ちるような仕組みを考えなくちゃいけない。そういう時期にきていると思います。

永江:愛知県の豊橋に、豊川堂(ほうせんどう)っていう老舗の本屋があるんですね。そこでは、通販番組で扱っている家電製品を店頭に展示してるんですよ。なぜそういうことをするかというと、昼間から通販番組を見ているおじいちゃん、おばあちゃんはカードで買うのが不安なわけです。あと、現物を見ないと買えない。店頭で見て「やっぱりこれいいわ」となって注文する。そうすると、豊川堂には通販会社からロイヤリティが入る。ユーザーは現物を見て買えるし、書店は在庫を抱えなくていいし、それぞれがトクをする。

日書連(日本書店商業組合連合会)が始めようとしている、独自の電子書籍端末の販売もこれに近いですよね。店頭でこの端末を買ったら、パソコンやiPadで電子書籍を購入しても「書店にロイヤリティが半永久的に入りますよ」という。

幅:それだと電子書籍で書店が儲かりますよね。

永江:紀伊國屋書店が全国4店舗で「電子書籍コーナー」を作ってiPad、Android™タブレット、"Reader"を展示しているじゃないですか。あれがいいのは、本に関心のある人がいちばん行く場所は書店、図書館、古本屋だから、そこに電子書籍をもっていったこと。紙の本はこうですけど、電子書籍はこうですよ、と比較できる場を作ったことですね。

幅:将来、本屋さんで本を選んでレジにもっていくと、「電子になさいますか、紙になさいますか」みたいな感じになるんじゃないかと想像していたりします。

加藤:そういう意味では、リアル書店で"Reader"を使った読書会などをやれたら面白いのかもしれません。本が好きな方に「電子書籍と紙の本、どちらで読みたいですか?」と本屋さんから提案する。いずれにしても、本屋さんにも利益がきちんと落ちるという仕組みを構築することは、電子書籍業界の課題ですね。

永江:どんどんやったほうがいいですよ。大きい書店だけじゃなくて、駅前商店街の小さい店であえてやってみるとか。なんだか、そのギャップがおもしろい気がするし。

幅:30人集まって読むと、30通りの読み方がある。他人は自分とはぜんぜん違うんだということに、いちいちびっくりする機会になればおもしろいかも。それから、作家本人に来てもらって一緒に読めたりすれば、書店もファンもそして作家さんも喜ぶんじゃないでしょうか。そういうところで楽しむことができれば、書店にとっても楽しいし、"Reader"にとっても楽しいと思います。


【プロフィール】
幅允孝(はば・よしたか)                             
愛知県出身 BACH(バッハ)代表。慶応大学卒業後、青山ブックセンター勤務などを経て、編集者に。その後、書店の棚をテーマに沿ってアレンジする、ブックディレクターになる。手がけた書店は、「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」や「BOOK246」など。現在は、ソニーの電子書籍ストア「Reader™Store」のアドバイザーも務める

永江朗(ながえ・あきら)                             
北海道出身 書評家、ライター。洋書輸入販売会社に勤務したのち、フリーランスのライ
ター兼編集者に。1993年よりライターに専念。主な著書に、『菊地君の本屋』(アルメディ
ア)、『不良のための読書術』(ちくま文庫)、『インタビュー術!』(講談社現代新書)など。
2008年より早稲田大学教授(任期付)。現在は東京と京都に居を構え、"二都生活"を満喫
している

加藤樹忠(かとう・しげのり)                           
ソニーの電子書籍ストア"Reader ™Store"店長。2001年ソニーマーケティング株式会社
入社。2010年から電子書籍のビジネスを担当し、同年12月、ソニーの電子書籍リーダー
"Reader"の日本発売に合わせ"Reader ™Store"を立ち上げる。現在、店長として当サ
イトを運営する







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