平成の大横綱、貴乃花が今、若い世代へ伝えたいメッセージ。相撲とは、人生とは何か、静かに語る

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 空前絶後の相撲ブームを巻き起こし、残した伝説は数知れず。現在は日本相撲協会の理事にして、審判部長の要職にある貴乃花親方。今、平成の大横綱が語る、相撲のこと、自分こと。

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 大相撲九州場所に向けて、今年10月、福岡県田川市に宿舎を構えた貴乃花親方。完成したての九州宿舎で朝稽古を見学した後に、インタビューが始まった。

――初めて朝稽古を見学したんですが、本気でびっくりしました。思った以上に激しかったので。

【貴乃花】相撲って、基本的に頭から全力でぶつかり合うんですね。しかも、デカい体同士が裸でぶつかり合うんです。こんな競技なんて、相撲以外にないんですよ。

――確かに。稽古の時は、どのあたりを見られているんですか?

【貴乃花】基本姿勢ですね。心と体の軸がブレていないかどうか。今日見ていただいたとおり稽古はかなり激しいので、半分、脳振とう状態で戦うわけです。

――頭と頭がぶつかるたびに、ガン!という壮絶な音がしました。

【貴乃花】そんな意識が飛んだ状態でも自然と体が動くように、基本を繰り返して体に覚えさせるのが稽古です。

――稽古中は親方から何度か厳しいゲキが飛びました。

【貴乃花】ああ、いつものことですけどね(笑)。やっぱり性格的に弱い子がいるので、目に余った場合は叱ります。でも、それは、「おまえのこと、目にかけてるぞ」っていう意味もあるんですよ。

――ちなみに、親方が現役時代の朝稽古はどんな感じだったんですか?

【貴乃花】時間は朝5時半から9時、10時までで、内容もほとんど同じなんですよ。ただ、土俵の外にいるときも、てっぽう、四股(しこ)、すり足……最初から最後まで動きまくってましたね。そうしてクタクタになったところで土俵に上がって本当の稽古が始まります。そこまでしないと「相撲力(ぢから)」というのが身につかないんですよ。

――現在、部屋にお弟子さんは何人いるんですか?

【貴乃花】今は13人です。そのうちの4人が幕下にいます。

――幕下が4人もいるなら、部屋で初の十両力士も目前ですね!

【貴乃花】いや、ここからが大変なんですよ。上に行けば行くほど番付は上がらなくなるんですが、一番大変なのが幕下から十両です。

――その十両に上がって初めて“関取”になれるんですよね。

【貴乃花】そうです、そうです。給料がもらえるのも十両からだし、化粧まわしが作れるのもそう。人生が大逆転しますからね。昔、貧乏人が大富豪になる『大逆転』っていう映画がありましたが、まさにあんな感じ(笑)。とにかくメジャーに上がれるか、マイナーのままかという攻防戦ですから、みんな死に物狂いですよ。

――ところで、親方は食べ物にも気をつけられているとか。

【貴乃花】もちろんです。けっこう見落としがちなんですが、実は食べる順番も大事なんですね。まずは、ちゃんこの温かい汁を飲んで五臓六腑(ごぞうろっぷ)に染み渡らせるんです。そうしないと、なかなか食べ物が効率よく吸収されないんですね。私は食べることも稽古だと思っていますから食育も大切なんです。

――徹底してますね。

【貴乃花】食事はもとより、相撲には日本の伝統的な文化がたくさん入り込んでるんです。例えば、家族のあり方。今の日本は核家族化が進んでいますが、相撲部屋には昔ながらの大家族が根づいています。後援会の方々が祖父母、師匠と女将(おかみ)が両親、兄弟子と弟弟子が兄弟です。よくできてますよ。

――言われてみれば、そうですね。

【貴乃花】また、いわゆる長屋文化でいう近所付き合いが地域の方々との交流です。特に、地方場所では地域の方々が自由に朝稽古を見学に来ますし、地元のイベントにも積極的に参加しています。そういう今の日本に失われているものが相撲にはたくさんあるんです。