第18回日本ホラー小説大賞の長編賞を受賞した堀井拓馬『なまづま』が角川ホラー文庫から刊行された。ヌメリヒトモドキ"なる奇怪な生物がそこらじゅうを徘徊する東京を舞台にした、すばらしくユニークな純愛小説だ。

 主人公はヌメリヒトモドキの研究所に勤める"私"。最愛の妻を2年前に亡くし、失意のどん底にあったが、職場での研究を通じて、ヌメリヒトモドキが人間そっくりに?進化?しうることを知り、妻を甦らせようという夢を抱く。
 "私"は1体のヌメリヒトモドキをこっそり捕獲し、自宅の浴室に閉じこめて飼育し、毎日少しずつ妻の遺髪を与えながら、妻の思い出を語って聞かせる。

 個々のヌメリヒトモドキは不定期に女王(ビルほどもある巨大な不動の個体)と融合し、情報を統合・整理する。
 融合をくりかえすたび、少しずつ本物の妻へと近づくヌメリヒトモドキ。悪臭に耐え、粘液にまみれて献身的に尽くすうち、"私"の中に愛が芽生えてゆく......。

 同じ日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した飴村行『粘膜人間』にならって言えば、さしずめこちらは"粘液女房"か。強烈な個性では、『粘膜人間』にも引けをとらない。
 とはいえ、あっと驚くどんでん返しも用意され、隅々まで意外によく考えられている。シリーズ化の構想もあるようなので、次作が楽しみだ。
 ホラーといってもぜんぜん怖くないので、ホラーが苦手の人も安心です。

 日本ホラー小説大賞は次回19回から短編賞・長編賞の区別がなくなり、中編〜長編(400字詰め原稿用紙150枚〜650枚)に一本化されるが、短編賞最後の受賞作となったのが、国広正人「穴らしきものに入る」。

 主人公が日曜日に洗車をしていると、ふとした拍子にホースから指が抜けなくなる。いくらひっぱっても抜けないので、試しに押し込んでみると、手首までホースに潜り込む。腕が入り肩が入り頭が入り、気がつくとホースの反対側に抜けていた......。この突拍子もない発端から、次々にいろんな穴をくぐる奇天烈な挑戦が始まる。

 この受賞作を表題作にした短編集、『穴らしきものに入る』も、『なまづま』と同時に角川ホラー文庫から刊行された。
 骨が黄金だったことから骨拾いの現場で骨肉の争いが勃発する話とか、抽籤に当たると赤ん坊の缶が出てくるジュース自販機の話とか、表題作と同じくらい奇天烈な書き下ろしの新作短編4編を併録する。

 こちらも、いわゆるホラーの枠からはずれた短編集。へんてこな短編が好きな人はお見逃しなく。

(大森望)







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