仕事ができる人は、怒りっぽくて攻撃的――。そんな感想を持っている人も多いのでは? 自分の意見や価値観を持たず、すべて他人まかせで、妥協しても気にならない人には、大きな成果は上げられないという面もあるのだろう。

ある会社の経営者は、高い業績を上げていた部下が、目の届かないところでスタッフたちを罵倒しながら指導していたことがわかり、頭を抱えている。

店が閉まると笑顔「まるでジキルとハイド」

携帯電話の販売代理店を経営するものです。店舗数の拡大を目指しており、スタッフ育成のために現場への権限委譲を進めているところです。

店長候補のAに運営を任せた店が業績好調で喜んでいたのですが、店を訪問したところ、女性スタッフから「相談がある」と呼ばれました。

Aのスパルタ指導に、スタッフたちが相当弱っているとのこと。店内の様子をこと細かくチェックし、パーテーションの裏に呼んで注意するそうですが、興奮してくると、

「この前注意したばかりなのに、何回言えば分かるんだ!能無しが、もう帰れっ」
「だからお前は、いつまで経っても一人前になれないんだよ。この役立たずが!」
「ホント使えねえな。お前みたいなヤツを給料泥棒っていうんだよ!」

などと罵倒することもあるそうです。表からは直接その様子は見えませんが、声は店内に筒抜け。お客の中にはビックリした顔で出て行ってしまう人もいるとのこと。

営業時間が終わると、何ごともなかったかのように笑顔でスタッフと接するので、「まるでジキルとハイドだ」と、かえって不気味に見られているそうです。私の下で働いていたときには、そんな様子も見せなかったのですが。

面と向かって注意できるのは私だけですので、当然きちんとするつもりですが、会社がこれからというときに彼に辞められたり、やる気を損なわれたりしては困ります。彼も悪意があってやっているわけではないし…。どうやって指導したらうまくいくものでしょうか――

臨床心理士・尾崎健一の視点
怒りのコントロールは「マネジメントスキル」のひとつ

Aさんのように仕事で業績を上げる人の中には、攻撃的な性格の人がいるものです。ホルモンなど生理的な要素も関係しており、個性のひとつともいえますが、自分で適度にコントロールするスキルも必要です。怒りによって起きている問題をきちんと指摘しつつ、自制するノウハウを助言してあげてはどうでしょうか。

認知行動療法を用いた「アンガーマネジメント」の考え方によると、怒りの感情は、(1)出来事との遭遇→(2)出来事への意味づけ→(3)意味づけに基づく判断、というプロセスで発生するとされています。このうち変えやすいのは、2番目の「意味づけ」です。自分の考え方の枠組みを絶対視していると、そこから外れた出来事への怒りに振り回されます。「人は失敗することもある」「2度失敗する事情もあるかもしれない」という柔軟な考え方を持てれば、怒りの感情は収まり、具体的に何をどうすればベストなのか建設的に考える方向に意識が向きやすいのです。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「部下のパワハラ」は経営者として放置すべきでない

Aさんの言動は明らかにパワハラであり、人格を侵害する行為として民法上の不法行為となります。具体的には「役立たず」「能無し」「給料泥棒」が該当します。仕事上の問題で注意をするときには、事実行為の問題点や改善策の指摘にとどめるべきです。その上で相手が不快に感じたとしても、業務上の必要性があることなので仕方がありません。しかし、上司には部下の人格に言及し侮辱する権利はありません。やった人は厳罰に処すべきと考えを改めましょう。

業績に目を奪われてパワハラ社員を放置していると、優秀な他のスタッフが居つきません。メンタルヘルス不全になった従業員から損害賠償を請求され、会社の管理責任を問われることも。その様子を聞いたお客さんが不快感を抱くだけでなく、スタッフに対する信用も墜ちますし、うわさが口コミで広がって客が寄り付かなくなることもあります。Aさんにはきちんと指導し、改善が見られなければ残念ながら辞めてもらうべきです。



(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。