ダルビッシュだって表彰ものだ!|野球史

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大方の予想通り、今年の澤村榮治賞は楽天の田中将大が獲得した。沢村賞の受賞基準とされる15勝、防御率2.50、登板数200回、10完投、 150奪三振、25試合登板、勝率7割をすべてクリアしたうえに、最多勝、最高勝率、最優秀防御率のタイトルも獲得していたからだ。これに異論のあるはずもない。田中将大があげた成績は、近年まれに見る素晴らしいものだ。

しかしながら、今年のパリーグには、もう一人、歴史に残るような成績を上げた投手がいる。

言わずと知れたダルビッシュ有だ。何度も書いているので、このブログをお読みいただいている方は良くご承知だと思うが、彼は今年、空前の記録を上げている。

沢村賞の受賞基準のうち、勝利数、完投数、勝率の3部門は、今や投手の純粋な力量を測る基準として適切とは言えない。勝利数、勝率は、味方の援護射撃や運、不運に左右される。完投数はスタミナを示してはいるが、分業が進む中で必ずしも投手にとって必須ではなくなっている。

投手の実力を示すと思われるERA、WHIP、SO/9、SO/BB、DIPSという新旧の数値で両投手を比較してみると、甲乙つけがたい素晴らしい出来であることがわかるのだ。

1950年の2リーグ分立後、200イニング以上投げた投手は約830人いるが、この投手たちの中で今年の田中将大とダルビッシュ有がどんなランクに位置するか、調べてみた。

ERA=防御率では田中は4位、ダルビッシュは13位。WHIP=1回あたり何人の走者(安打、四球)を出したかという数値ではダル5位、田中 18位。SO/9=9回に換算して何個の三振をとったかではダル3位、田中11位、SO/BB=奪三振数を与四球数で割った数値では田中2位、ダル6位、 DIPS=投手の真の実力を示す与四球、奪三振、被本塁打だけで算出された数値では、ダル1位、田中2位。

このランクに入っているのは歴史に名を残すそうそうたる投手たちばかりだ。しかも、その大投手をして全盛期にのみ出すことができた数値が集積されている。その5つの指標すべてで今年の2人は20位以内にランクインしているのだ。特に投手の実力を示す究極の数値というべきDIPSでこの二人が1、2位を占めている。

ダルビッシュは今年、最終登板を回避した。この時に投げていれば、おそらくは多くの数値で田中を上回っていたことだろう。なぜ、登板回避をしたかは不明だが、ダルはすでに2007年に沢村賞を受賞しており、屋上屋を重ねるようなことはしたくなかったのかもしれない。

しかし、実質的には田中将大をわずかに凌駕しているダルビッシュ有の、空前の投球を表彰するものが、わずかに奪三振王だけしかないことに、私は釈然としないものを感じる。沢村賞の選考会でも、5人いる選考委員の票は田中3、ダル2と割れたようだ。しかし、今年のダルビッシュは、並みの好成績ではない。歴史的な数字を記録しているのだ。

NPBがセイバーメトリクスなど新しい野球の価値基準を認めていないのは知っているが、ダルビッシュのきわめてレベルの高い投球は、特別表彰されてしかるべきだと思う。