「マンガでメシを食っていく!」漫画家のキャリアフォーラム(1/4)

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本気でプロの漫画家を目指す若者に、都内で低家賃の住宅(シェアハウス)を提供する“トキワ荘プロジェクト”。漫画家の卵がいち早くプロとして自活できるようになるために、アルバイトの時間を減らし、自己投資や本業に専念する時間を作れるようにすることを目的とし、様々な支援を行っています。

その中の活動の一環として、プロの漫画家をはじめとしたオピニオンが集結し、漫画家のキャリアプランを考えるフォーラム「マンガでメシを食っていく!」が開催されました。厳しい出版業界の現状や、電子書籍が売れるターゲット層など他では聞けないお話は必読です。
●登壇者
うめ/小沢高広(おざわ・たかひろ):漫画家 現在、『大東京トイボックス』『南国トムソーヤ』連載中。キンドル初日本語漫画『青空ファインダーロック』を発売した。

一色登希彦(いしき・ときひこ):漫画家(代表作『ダービージョッキー』『日本沈没』)ジャンプSQ19に『水使いのリンドウ』連載中等

中野晴行(なかの・はるゆき):京都精華大学客員教授/デジタルハリウッド大学客員教授/社団法人日本漫画家協会会員

河田洋次郎(かわた・ようじろう):株式会社ビットウェイ取締役・電子書籍本部長

高橋光輝(たかはし・みつてる):デジタルハリウッド大学大学院准教授、国際アニメ研究所所長(司会担当)

菊池健(きくち・たけし):NPO法人NEWVERY(トキワ荘プロジェクト)事務局長
●漫画の出版は、6年連続でマイナス
高橋:はじめまして、高橋と申します。よろしくお願いします。今お話にありました通り、各専門の方々、今日登壇いただいた方々、それぞれ違った専門を持っていますので良い意味でいろんな話が聞ける面があると思います。あと今日、先ほど菊池さんのほうからお話がありましたとおり、いろんな立場の方が来ておられるという事で、疑問や聞きたいことも多々あると思いますので、質疑応答もちょっとボリュームを多く取ったうえ進めたいと思っております。

デジタルハリウッド大学の漫画というとまだまだ研究が足りないということもあります。ですので今回のフォーラムは、『漫画家白書』のイベントに続いて2回目の突破口という形でいきたいと思います。まずは先ほどのプレゼンテーションで菊池さんから国の産業的なものを含めて話がありましたけれども、現場で働いている中野さんから、この漫画産業の現状という形で最新トピックス含めて、さらに詳細なお話をしてもらえればと思いますがいかがでしょうか。

中野:はい、中野です。先ほど出たデータをちょっと補足して去年はどうだったかというのをまずお話しておきたいと思います。去年は、さっき見たデータよりもさらに減って、4091億円に漫画の出版はシュリンクしてまして、6年連続マイナスですね。どうやらそろそろこの4000億を切ってしまうのではないかと言われています。

原因は、雑誌が売れないということに尽きますね。単行本の方は去年プラスなんですね。ただこれは去年集英社さんがかなり熱心に『ワンピース』をプッシュした成果なので……。日本雑誌協会の『マガジンデータ』の最新のものですとジャンプは280万部越えて、時々300万部越える。

ところが『週刊少年サンデー』が、さっき減った減ったと言ってましたけど、さらに減っていまして76万5000部に落ちています。で、『マガジン』が163万3000部ということで、またこれも落ちていますね。だから『ジャンプ』だけが、去年のこの数字を保ちながら、ときどき300万部を越えているという状態で、『マガジン』・『サンデー』は去年よりもまたさらに落ちていると。

で、単行本がいいと言っても、これらは先ほど言った『ワンピース』なんですね。去年、単行本の冊数は、4億6849万冊出ているんですけれども、そのうちなんと8.4%が『ワンピース』です。3960万冊が『ワンピース』です。

うめ:みんな『ワンピース』描けってことですね(笑)。

中野:理論的に考えると他が全部落ちているということですね。

●連載の長期化が新人に与える影響
中野:日本の漫画の特徴として単行本の冊数がむちゃくちゃ多いです。一時、『のだめカンタービレ』って作品がヒットした年に、この年は講談社が本当は赤字になると言われていたんだけれども、のだめ効果でプラスに転じました。で、セカチューこと『世界の中心で、愛をさけぶ』が大ヒットして小学館が高収益を上げた年があるんですけれども、この年、実は収益に貢献したのはセカチューよりも『Dr.コトー』だったわけですね。これは巻数が多いものですから、ドラマ化されて各巻が売れて、あっという間に部数を稼いじゃうわけです。

日本の漫画は一作出すと、巻数があるので結構もうかるよ、という話なんです。ところが、これが若い皆さん、これから漫画家になろうという人たちにとって足かせになるわけですね。なぜかと言うと巻数が多いということは今描いている人が動かないということです。誰か席を空かないと座る場所がないわけですから、これから漫画家になろうとする人たちが非常に苦しいのは席がないということなんですね。

80年代半ばまで若い人たちはどうしていたかというと、必ず読み切り短編というページがあったんですよ。30ページとか、多いときは50ページぐらい。あるいは、先生方が突然、風邪と称して休んでしまう。そういう時に穴が空くのは困るので、50ページくらい編集が預かっていたやつを差し替えで入れたりするわけですね。だから、必ず昔はナントカ先生がお休みのときは特別読み切りというのが載ったんですけれども、これがですね80年代半ばに漫画の雑誌が長編を中心にするというふうに舵(かじ)を切ったもんですから、短編の漫画が載る機会が圧倒的に減りました。いま載ってるというと、部数の少ない月刊誌に限られてきますから、『サンデー』・『マガジン』・『ジャンプ』といった部数が多いところで新人がいきなり短編でデビューというとすごく難しくなっていますね。

鳥山明先生にしても原哲夫先生にしても皆さん、短編でまず出てきて、で長編に持っていっているのですが、今はそういうチャンスがなかなかない。しかも、昔は、だいたいこれくらいの期間の連載でそろそろ先生終わってくださいよというのがあったんですね。

今、週刊漫画ゴラクで『激マン!』という永井豪先生のデビルマンの連載当時のことを描いた作品があるのですが「先生そろそろ終わらせてください」と言われ、「ページをくれたらなんとかするよ」と言ってページを増やして描いたという話があるんですね。昔はだいたい“これくらいで終わる”というのが決まってたんですね。その後は新連載を描くか、誰か編集部として出したい若い漫画家をここに入れるよという話ができたんですけれども、今はもうとにかく終わらない。

今は、編集者が何を言うかというと「先生頼むから終わらせないでよ」と。で、なぜ終わったら困るかというと、キャラクター商品が出ている、アニメ出ている、ゲームが出ている。だから終わってしまうといろんな人が困るわけです。『ドラゴンボール』があれだけ続いたのも結局、みんなが困るからです。だから10年がんばってくださいと。で、10年続くと今度は終わった瞬間、読者はホッとするわけですね。あー終わってくれた、これで『ジャンプ』を読まなくていいよということで。で、読まなくなっちゃう。

さっき徐々に減ったみたいな図でしたけど、あれ毎週10万部くらい落ちていたんですね、『ドラゴンボール』が終わった翌週から。『スラムダンク』と『幽遊白書』が載っているにも関わらず、毎週10万ずつドンドンドンっと落っこちていく。だからとにかく終わっちゃ困る。そうすると席が空かない。これが一番の大きな問題だと思います。

だから、さっき漫画家になりたい人が(トキワ荘プロジェクトに)190何人いて、これを何とかプロにしたいというお話でしたけど、したいのはわかるけれども漫画家のイスが今空いていないという状況です。そこでデジタルなんですね。デジタルでオリジナル作品を描くというところは今、人が足りないはずです。だから後ほどお話がでると思いますけれども人が足りないはずです。

ちょっとこれはラノベの話になっちゃうんですけれども、うちの大阪の事務所のときに2年ぐらいいた弟子がいまして、作家になりたいと言ってて。ずっとあっちこっちに投稿しててダメで。最近電子書籍のノベルでデビューして今、電子書籍7冊目を書いていているんですけれども、去年の5月にデビューして今7冊目だからまあまあ良いケースだと思いますね。だから電子書籍だと結構まだ道はあるんではないかと思います。それと京都精華大学でやっているのが、会社の社史とか取り扱いマニュアルとかそういったものを漫画でやる仕事を学校として探してきて、で、学生さんたちにやってもらうということをやっていますね。

また去年・今年あたりの大きな話題として、“まんがで読破”というものがあります。過去の著作権の切れた名作を漫画にして読ませるということがヒットしました。これも沖縄の漫画のプロダクションでつくっているものなんですけれども、特に雑誌でデビューしなくてもそういうところで漫画の仕事って実は意外と広がりがあるんではないかと。悪い話・良い話ふたつさせていただきました。

●「読者は紙とデジタルで違いますね」
高橋:今の話を聞いていますと漫画出版業界が厳しくなったのを補完する形で電子書籍が伸びたというふうに理解しようと思ったら必ずしもそうではないというところですかね。

中野:調べると、電子書籍の読者の方って、あまり漫画のコアな読者と被ってこないんです。どっちかというと携帯コミックなんかでも携帯で何か面白いものないかなということで探ってたら出てきて初めてそこでBL(ボーイズラブ。男性の同性愛を描いた作品)に出会ったっていう主婦の方だとかいるわけですよね。

高橋:BLに?

中野:コミケなんかの熱心なBLのファンの人達が携帯でBLを読んでいるかと思いきやそうでなくて、実は普通の主婦の方がBLを読んでて。これ買いに行かなくていいんですよ。本屋にBLを買いに行くのはちょっと恥ずかしいんだけれども、携帯コミックで読んでいる分には非常にパーソナルに読めるので。あるいは中学・高校生がTL(ティーンズラブ。少女漫画テイストの成年漫画)に出会ってしまったりとか、そういうものがあるんです。本当を言えば、過去の名作に携帯コミックとか『iPad』で出会ってもらいんだけども。実際のところを見ていくと、とにかく、読者は紙とデジタルで違いますね。

高橋:そうですね。漫画・アニメ=子供というものでなくて、一世代越えてアニメも漫画も大人の楽しめるものであると。今の中野さんの話を聞いてわかったのが、新規の顧客が広がっているということですね。普通に漫画を見ていない人が、携帯だと簡単に見られるというので見ていると。それで中野さんと菊池さんの話を受けてなんですが、電子書籍を取り扱っている河田さんに今の状況をお聞きしたいです。

●紙媒体では売上の倍以上の読者がいる
河田:ビットウェイの河田です。今、電子書籍のコミックということでお話がありましたけれども、去年の市場が電子書籍全体でだいたい650億だと言われています。その中の600億近くが携帯のコミックの市場であると推測されています。それ以外に何があるかと言うと携帯向けの小説関係の文字モノですね。あとはグラビア系。コミック・グラビア・文字モノ、この3種が主なジャンルで、媒体としては携帯とパソコンという形になっています。今の650億という市場のほぼ9割以上が携帯です。いわゆるガラパラゴス携帯、ガラケーと言われている市場になっています。

我々のほうでちょっと調査会社を使って、いろいろと調査をしたのがあるのですが、紙の市場が4000億程度というのがありましたけれども、コミック好き1000人のサンプルをとって、どういうふうに読んでいるのかを調べました。紙に関していうと本屋さんで新品を買う、ネットの書店で新品を買うというお客さんが50.1%。残りは漫画喫茶ですとか古書店ですとか出版社あるいは著者にお金が入らないルート、あと図書館とかで読まれているというところで、売上は4000億円ちょっとなんですが、実際に読んでいるのは倍くらいかそれ以上というように思っています。

そんな中で携帯コミックは600億という事で、実売と比べると、この4、5年で12%以上の市場を急激に創ったというような形になっています。もともと電子書籍自体はビットウェイという会社は凸版印刷グループの一事業で2003年にスタートして2005年に独立した会社なんです。

一番最初に出た3G携帯はKDDIの『WIN』と言われるもので、それと同時にパケット定額制がスタートしたんですね。電子コンテンツを出せるということで我々の方でいろいろと考えて、携帯用にコマにして通信で見せていこうという形でスタートしました。

最初は出版社の方も携帯なんかで読まないとか、作品をコマで切るとは何事だとか、いろいろと苦難があったんですが、講談社、小学館、秋田書店、新潮社の方に協力していただけることになりました。当時はまったく認知度も低く売れなかった状態がずっと続きました。

今でこそ何百という携帯コミックサイトが立ち上がっていますけれど、始まった当時は弊社の『Handyコミック』というサイトが1つだけポツンとあって、まったく売れないと。もう止めないといけないかなと思っていたんですが、3G携帯をdocomoもsoftbankも続いて出して、そのうち2000万台くらいが普及した時点でだんだん売れるようになり、市場が急激に伸びました。

急に伸びるに従っていろんなところが参加したいということがありまして、出版社のデジタルコミック協議会から依頼をされて取り次ぎというのをスタートしたのが2006年ぐらいからです。そして雛形がだんだんできたねっていう段階で皆さんご存じのとおり、スマートフォンが出てきて最初iPhoneが売れて、今はAndroidが非常に大きく売上を伸ばしています。今度はガラケーとは異なる世界のことになってくるんですね。インターネットと融合していくということが一つ。それともう一つ、先ほど『Kindle』の話もありましたけれども『SONY Reader』みたいなものも出てくると。媒体が変わってくると、その後ルールも変わってくるのでビットウェイのほうでも新しい市場に向けて、『SONY Reader』やKDDIの『LISMO』、あと弊社の子会社である『BookLive!』というクラウド書庫を共有化するような書店とか、紀伊国屋さんの書店とか、既に新しい販路としての流通をスタートしているというような状況です。

先ほどの、紙の方で中々デビューできないというのは実際そのとおりだと思うんですけれども、デジタルのほうは部数もページ数も雑誌みたいな形じゃなく枠も関係ないですし、デビューの場としては注目されていく素地が非常にあると思います。あとは紙の方でなかなか芽が出なかった年収1000万円いかないような作家さんが、携帯のほうで非常に売れて年収4億ですとか2億ですとか。部数が本当に限られていないので、どんな作品でもフラットに、作品の力自体で売れると。ある意味で厳しいんですけど、紙よりももっと自由に出せるというような形になってくるかなと。

さきほど震災の影響で、紙にも影響があるという話がありました。凸版印刷が親会社なのでいろいろ情報が入ってくるんですけれども、材料のインク・紙の方が震災で非常に影響を受けました。今だいぶ、その辺のところは、なんとかなるような形になっています。ただ夏の電力問題があって、どうなるかというのが一つ。それからどこの出版社も雑誌自体は東北の方の発行部数というのをだいたい10%落としています。そういう状況で実売にもかなり影響があると。あと流通網で行くとインフラですね。道路状況、書店が壊滅的な影響を受けているところがあると。

今回、『ジャンプ』や『マガジン』のインターネット配信をビットウェイの方で手伝わせてもらったんですが、そういうふうに震災を受けた方たちにコンテンツを届けるというところで、紙ではないデジタルならではの支援ができるかなという考えです。

●電子書籍の印税
高橋:あまり生々しい話をするとあれかもしれないですけれど、電子書籍の場合、作者がもらえる印税等について、紙の媒体の時と同じなのか、それよりも上なのか下のか、話せる範囲で伺えればと思うのですが。生活に関わる漫画家さんは、どうなるか知りたいと思うのですが。

河田:これは、我々のほうは基本的に出版社さんとやらせていただいているんで、くわしい条件はわからないんですけれど、出版社さんは基本的には紙のほうは10%とだいたい言われてますね。それよりも少し良いかなというくらいかという感じはします。まあ、悪いところもあると思うんですけれども。

高橋:先ほど、産業のデータに関するお話がありましたけれども、実際に漫画家を描いているうめ先生としてはいかがなものでしょうか。

うめ:ざっくりとした振りですね(笑)。どこから話をしようかな。印税の話にしましょうか、せっかく出たし。だいたい紙の媒体は10%。うちは紙は10%以外で仕事をしたことはないです。出版社からくる電子書籍に関する契約書では印税は、だいたい15%ですね。ただ紙の場合には、初版部数という事で何万部もの印税というまとまったお金が入るわけですね。それに対して電子っていうのは実売掛ける15%で、先月、某出版社から来た印税が68円でした。1年間で。そんなもんです。

一色:僕は90いくらでした。

うめ:負けた!

一色:勝った(笑)。

「マンガでメシを食っていく!」漫画家のキャリアフォーラム(1/4)に続く。