2010年の"電子書籍元年"を経て、ガジェット好きのツールから、少しずつ私たちの身近なものになりつつある電子書籍。そこで今一度、電子書籍について議論すべく、お三方に集まっていただきました。書店勤務の経験もあり出版産業事情にもあかるい、ライターの永江朗さん、ブックディレクターの幅允孝さん、電子書籍ストア"Reader ™Store"店長の加藤樹忠さんです。題して、「本好きのための電子書籍のススメ」。「紙の本」と「電子書籍」について、自身のかかわり方から最新事情まで、ざっくばらんに話をしていただきました。



永江:いま持っている電子書籍端末は、ソニーReader、iPad、iPod touch、iPhone、kindle2の5台。4年前くらいにiPod touchを使って青空文庫で森鴎外を読んだ時に「これは楽だわ」と思いました。フォントのサイズ、背景の色も変えられるし。私、今年で53歳なんですが、老眼が始まりかけているので(笑)。

今回のジョブズ伝は、ジョブズだからiPadで読もうかと思ったんですけど、apple storeでの配信が遅かったので、私はソニーの"Reader"で買いました。あれくらい分厚い本は持ち歩くのが大変。"Reader"のサイズなら手軽に読めると思いました。

幅:iPadの画面のテカテカする感じと、イーペーパーのインクが染み込んだ感じの違いなどは気になりませんか?

永江:あんまり気にならないですね。

幅:僕、正直言ってiPadで本は読めないんですよ。目がチカチカしちゃって。だから、長い作品は紙で読みます。"Reader"にプリインストールされている『悪人』(吉田修一)さえ断念した派なんで(笑)。長いものを電子書籍で読んでいると「いつ終わるか」の身体的感覚がないですよね。「早く読み終わりたい」と思って読んでいるわけではないのですが、文字の大きさを変えるとページ数が変わったり、その辺の"不確かさ"みたいなものが途方もない気分にさせられるんです。つまり、紙の方が物語との距離を実測しやすいんです。「もう少しで読み終わりそうだな」とか、「あとこれだけの残り頁で何が起こるんだろう?」とか。

加藤:僕は"Reader ™Store"ですごく売れているある長編小説を買って、断念したことがあります。紙の本ってカウントダウン方式なので、厚さが減っていく感じですよね。"Reader"はカウントアップ方式というか、読んでいるページが数値として積み重なっていく感じ。登らなきゃいけない感じがする。減っていく感じのほうが楽なのかなとは思いました。長編を軽く持ち運べるのは"Reader"の良い点なので、このような感覚的なものを改善していくのが大事かなと。

幅:タスク感が出るというのは、確かにあるかもしれませんね。実は僕、電子書籍なるものに本当に興味がなかったんですね。本は読めればいいと思っているので、紙で読もうがイーペーパーで読もうがどちらでもいいと思っていたんですよ。

でも、使ってみると新しいツールとしておもしろいなと。しかも普通に便利だった。自分は同時並行的に併読するタイプなので、カバンのなかに何冊か本が入っていることが多いのですが、そんな時「重さ」っていうのはシリアスで、どんどん腰が悪くなる(笑)。本当に腰を痛めているので、「軽いって素晴らしいな」「自由だな」というのが最初の実感としてありました。

永江:私はいま京都と東京の二重生活をしているんですが、京都の家は本をほとんど置かないことにしたんです。本棚もほんの少ししか作らなかった。ある程度電子化を想定したうえで、必要なものは電子化しておけばいいやと。本当はクラウドに上げておいて、どの端末でも読めるというKindle方式がいちばんいいと思いますけど。

音楽付きの電子書籍として話題になった村上龍の『歌うクジラ』は横書きでしたけど、意外と縦、横の書式は関係ないなと思いましたね。『群像』(講談社)の連載ですから初出は当然縦書き。とくにそれで違和感があるわけじゃなかった。ただ、あれは音楽が入っているのが困りもの。

幅:そうですね、無理に入れなくてもいいのに、と。

永江:新幹線の中で読んでいたら、とつぜん坂本龍一のジャジャーンという音が出て。隣のおじさんが「おーっ」と驚いていた(笑)。

幅:あれは、紙の本ではできない何か、ということで無理につくったギミックのような感じがしますよね。本来小説家はそこに頼るべきではないと僕は思うんですけど。

ところで、"Reader&tradeStore"では、今、何が売れているんですか?

加藤:累計冊数だと、先ほど話に出た『悪人』と『プリンセストヨトミ』(万城目学)が競っています。ユーザーからの要望でいちばん多いのは、まだ電子化されていない作家さんの本が読みたいという声と、新刊が読みたいというリクエストですね。

永江:私は書評の仕事上、新刊を読まなきゃいけないことが多いのだけど、その部分では紙の本に頼っています。

幅:僕は、いま自分が興味のある本や礎にしたいものを読みたいように読んでいるので、新刊をしゃかりきに追っかけていないんですよ。本が古いか、新しいかの時間の感覚はあまりないですね。

永江:私も仕事じゃなきゃ新刊は追いかけない。仕事以外では、年間テーマを決めて本を読んでいます。今年のテーマは「歴史」。そうやって本を探すと、8割がた古い本なんですよね。だから、そういう意味では電子書籍だけでもいいかもしれない。

それから、フィクションは電子書籍に向いていると思います。寝床で読むのが好きなんですけど、重みからの解放感がある。昨日も、講談社から仕事用に井上ひさしの単行本『一分ノ一』が送られてきたんだけど、こう持って寝床で1時間読むのは、そうとうつらい。「これ、PDFで送ってくれないかな」と思いました(笑)。

幅:僕は、"Reader"で新書を読むのが好きですね。本当に楽です。全体をさっと網羅するタイプの本は、速くサクサク読めますね。


永江さんと幅さん、それぞれ電子書籍を使用するシーンや読んでいる本、読みたい本が個々に違うのは興味深いところ。
後編は、「これからの電子書籍とリアル書店の関係」について。お楽しみに!


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作家さんと電子書籍にチャレンジ!「本好きのための電子書籍のススメ」

11月下旬、東京と名古屋で電子書籍読書会を開きます!
今回、電子書籍読書会にチャレンジいただくのは、作家 角田光代さん!!一緒に読書会にご参加いただける方を募集します。
東京会場:11/18(金)、名古屋会場:11/26(土)

【応募フォーム】http://blue.tricorn.net/webhon/f.x?f=a205ab96
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【プロフィール】
幅允孝(はば・よしたか)                             
愛知県出身 BACH(バッハ)代表。慶応大学卒業後、青山ブックセンター勤務などを経て、編集者に。その後、書店の棚をテーマに沿ってアレンジする、ブックディレクターになる。手がけた書店は、「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」や「BOOK246」など。現在は、ソニーの電子書籍ストア「Reader™Store」のアドバイザーも務める

永江朗(ながえ・あきら)                             
北海道出身 書評家、ライター。洋書輸入販売会社に勤務したのち、フリーランスのライ
ター兼編集者に。1993年よりライターに専念。主な著書に、『菊地君の本屋』(アルメディ
ア)、『不良のための読書術』(ちくま文庫)、『インタビュー術!』(講談社現代新書)など。
2008年より早稲田大学教授(任期付)。現在は東京と京都に居を構え、"二都生活"を満喫
している

加藤樹忠(かとう・しげのり)                           
ソニーの電子書籍ストア"Reader ™Store"店長。2001年ソニーマーケティング株式会社
入社。2010年から電子書籍のビジネスを担当し、同年12月、ソニーの電子書籍リーダー
"Reader"の日本発売に合わせ"Reader ™Store"を立ち上げる。現在、店長として当サ
イトを運営する







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