日本がTPPに参加することによって、農業と並び崩壊が危惧されているのが国民健康保険制度だ。アメリカの圧力によって解体されるという話もある。だが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの経済・社会政策部で主任研究員を務める片岡剛士氏は、これを否定する。

「TPPではサービス分野でも自由化の議論がされています。しかし、社会保険が浸食されることはありません。TPPよりも進んだ経済連携のEUでも、そうした議論はありませんでした。通商関係のルールは国内法が優先されます。国民皆保険制度の崩壊はあり得ません」

 これに対しTPP反対派の京都大学准教授の中野剛志氏は、医療保険を引き合いにこう話す。

「アメリカでは、世界最大の保険会社AIGがリーマン・ショックの影響で破綻し、血税を投入し実質的に国有化しました。今は、なんとしても日本の大きい保険市場を取りたいと思っている。民間保険の拡大に対する障壁として日本の公的医療保険制度を名指しし、解体の圧力をかける可能性があります」

 なぜ推進派と反対派の議論がこうも正反対になるのか。

「TPPの会議自体が非公開で、政府に入ってくる情報は会議に参加している人から得た伝聞情報でしかないからです。つまり、各国に都合のいい“ポジショントーク”なので正しい情報とはいえないのです」(アナリスト・青木文鷹氏)

 まだまだ交渉中のTPPは、現段階ではその中身がはっきりとはわからない。そのあやふやな情報の上に立った議論なので、かみ合わないのも仕方がないのである。

 しかし、こんな中身の見えない交渉に日本が今、急いで飛び込んで大丈夫なのだろうか。前出の片岡氏は「日本にとって不利益な協定内容であれば、交渉から抜ければいい」と、いくつかのタイミングを提示する。

「抜けるタイミングはいくつかあります。議論の内容がダメとわかった時点で抜ける。協定が決まって、その内容に反対だとして抜ける。さらに、条約を日本の国会で批准する段階で反対して抜ける。賛成・反対を議論する機会はいくらでもあります」

 だが一方で前出の青木氏は、離脱について大きな見落としがあると指摘する。

「今年の初め、日本とカナダはオブザーバーとして交渉に参加しようとしましたが、市場開放が十分でないという理由で断られた。参加条件の前に、交渉条件を満たしていないと交渉に入れないんですね。つまり、交渉の場に行くということは、事実上、市場開放のお膳立ては出来上がっているということ。参加が認められた時点で市場の開放を世界中に約束したのと同じ。問題は参加するしないとか、交渉に参加してから断るとかではなく、交渉に参加する時点でアウトなんですよ」

 TPP論争は、まだまだ続きそうだ。

(取材/興山英雄)

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