『千日の瑠璃』42日目--私は紋章だ。(丸山健二小説連載)

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私は紋章だ。

死んでもともとだという覚悟のほどをまほろ町の全員に知らしめるために、三階建ての黒いビルを飾る紋章だ。私は正面切って世間に逆らい、真っ向から法律に盾つく証しであり、無難な日常を拒否し、常識や良識から掛け離れた姿勢を殊更見せつける者である。そして、私のもとへ集まる男たちに、何よりもまずあこぎな策動家であることを促し、人間の所為とは到底思えないようなことの実行を命じ、仕損じることを絶対に許さず、敵対する一派の狡獪な相手の顔を常に熟視していなくてはならないと警告する。

私は、私のもとに集まる、ほかに行き場のない男たちの利便を一家総掛かりで図るしかないと説き、知何なる手段を用いても門外漢を手荒くあしらえと繰り返し、逐次現状を報告せよと厳しく求め、月々の上納金を忘れるなと言い、結束を固めることを怠るなと言い立てる。私はかれらのひとりひとりに、いざというときには取るものも取りあえず馳せ参じ、どんな目に遭わされても緘口して語らないことを誓わせる。私は荒っぽいもめ事の解決に明断を下し、迷っている極道者には、必要悪の上に成り立つ、堂々たる現実であることを強調する。つまり、光に対する影、上水に対する下水であるという確然とした見解を示す。私が跳ね返す陽光を更に跳ね返すことができるのは、今のところ、難病に取り愚かれた者の真骨頂を発揮する少年ただひとりだ。
(11・11・金)

丸山健二×ガジェット通信