だから僕は企業に入るのってあまり魅力を感じないんです。それだったら自分の好きなことをやったほうがいいなって」

――古市さんは現在、東京大学大学院の博士課程の学生であり、慶應義塾大学SFC研究所の研究員であり、それとは別に、友人とITコンサルタント会社をされているんですね。

「ITコンサルといっても、1歳年上の社長の話し相手程度ですけど(笑)。でも、仕事と趣味は分けないようにしていて、いろいろとやってます。興味があることを調べるのも文章を書くのもいわば趣味の範囲で、それでおカネを稼げるのはありがたい。そういう意味で研究者は面白い仕事だと思います。どんな問題や困ったことが起こっても俯瞰して眺めていると、そこにはすごく面白いメカニズムがあったりするので、世の中を2倍3倍生きられる」

――そうした古市さんのように必ずしも企業に寄りかからない生き方を模索している若者が最近増えているように感じます。

「僕みたいに好き勝手やっているのはあまり一般的ではないと思いますが(苦笑)。最近、シェアハウスに暮らし始めた友人がいます。彼は月に5万円もあれば生活できるとわかると、すぐに仕事を辞めちゃって、月5日ぐらい日雇い仕事をすればいいやって。で、あとは好きな絵を描いて暮らしているんです。そういう意味で“降りる”じゃないですけど、好きなことをやって暮らしていく人は少しずつですが増えているような気がします」

――今は「幸福」でも、先行きを不安に感じている若者は多いと思います。仕事や生きていく上で、同世代の若者たちに伝えたいことはありますか?

「僕が言えることは、みんなもっと自分が好きなことをしたほうがいいということです。嫌な仕事や自分にプラスにならない仕事を我慢してやってもいいことはないんじゃないかって。もちろん、好きなことだけでは食べていけないから、好きな仕事のほかに、稼ぐ仕事、友人とやる仕事みたいな感じで、分散して複数の場所からおカネをもらえるようなモデルが僕は理想だと思います」

(取材・文/石塚 隆 撮影/山形健司)

■古市憲法(ふるいち・のりとし)
社会学者。1985年、東京都出身。慶応義塾大学SFCに、AO入試で詩をアピールして合格。東京大学大学院時代にピースボートに乗船、その経験が面白く、修士論文のテーマにした後、出版化。近著に、現代の若者たちの幸せを明らかにした『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)

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