『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』 (C) 2010 MVLFFLLC. TM & (C) 2010 Marvel Entertainment, LLC and its subsidiaries. All rights reserved.
 日本と比べて、アメリカのヒーローはダークな部分を持つものが多い。「バットマン」や「スパイダーマン」は大切な人を失ったことがきっかけでヒーローになり、「スポーン」は殺された上に妻のために悪魔と契約を交わすことになる。現在劇場公開中のこの作品の主人公は“戦争”によって生まれ、翻弄される悲しきヒーローである。

キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』

 第二次世界大戦下の1941年、ナチスとの戦いに志願することを決意した青年スティーブは、その強い愛国心に突き動かされて軍の極秘計画たる“超人兵士計画“に参加する。普通の人間だったスティーブは“キャプテン・アメリカ“となり、最強の男に変身するが――。(特集へ

戦争という時代背景が生んだヒーロー

 第二次世界大戦にアメリカが参戦する8ヶ月前の1941年3月、アメリカ国旗を胸につけた若いヒーローがアドルフ・ヒトラーのあごにパンチを命中させるという強烈な表紙のコミックが登場する。キャプテン・アメリカの誕生である。人気のアイアンマンやX-MENよりも数十年前に登場したマーベル・コミック初代のヒーローは、架空の悪を倒すのではなく、現実にいる敵・枢軸国と戦う“戦争”という時代背景が生んだヒーローである。貧弱な青年スティーブ・ロジャースが、戦争を終わらせるために、軍の極秘実験に志願。キャプテン・アメリカに生まれ変わった彼の戦う姿は、アメリカ国民の心に「戦争に参加せずに傍観しているだけで良いのか?」という疑問を投げかけた。日本の『ゴジラ』も水爆実験で誕生した“反核”映画だったが、「悲しき戦争を早く終わらせたい」「兵器で人が死ぬのはもう嫌」と平和を願う人々の心が、芸術作品へと昇華している。偉大なエンタテイメントはいつの時代も人々の願いの中から生まれるものなのだと実感できる。

戦わずにお金を集めることが仕事

 映画『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』で、生まれ変わったスティーブの最初の戦地は“舞台”だった。通常、超人的な力を持ったヒーローは、強大な悪と戦うものだが、彼は政府お抱えのマスコットキャラクターとなり、戦場には出してもらえなかった。軍の極秘実験スーパソルジャー計画では、複数の超人的兵士で軍隊をつくることが目的だった。だが、ステーィブの実験後に博士が死亡したことで、目論みは水泡に帰した。戦争は組織戦なので、一人だけ強くても仕方がない。政府は、超人となった彼に星条旗をモチーフにしたコスチュームを着せて「キャプテン・アメリカ」と名付け、全米でイベント興行。「国債を買おう!みんなの買った国債が弾丸にかわるぞ!」と笑顔で語るスティーブ。お金を集めるだけで、自分は戦場で命をかけることがない。こんなヒーローが未だかつていただろうか。病弱で誰かれも相手にされなかった人間が、初めて拍手喝采を浴びたことで、舞い上がり目的を忘れてしまう。人間とは何と弱い生き物なのだろうか。お金や名声を手に入れたことで気持ち良くなり周囲や自己の目的が見えなくなる。映画の中だけではなく、我々の日常世界でもよくあることなので、他人事だと笑えない。

強いことが悲しみを大きくする

 一度は目的を忘れてしまったスティーブであったが、あることをきっかけに本当のヒーローへと目覚める。戦場で活躍する彼に、皆は“キャプテン”と心から称えて呼ぶようになる。マスコットから真の英雄へと成長した。だが、彼の悲しみは終わらない。戦争なのだから相手を倒すだけではなく、当然、味方を失うこともある。スティーブも大切な人を失うことになる。どこにぶつけて良いかわからない怒りとどうしようもない空虚感。やりきれない思いの時にあなたはどうするだろうか。 ヤケ酒を飲んで気を紛らすという方もいるだろう。彼はそれができない。酒を飲んでも飲んでも“常人の4倍の代謝”である彼は、酔うことができない。スーパーパワーを身につけたせいで、悲しみを紛らす方法まで失ってしまったのだ。人は、大きな力を持つ程、何かを背負い、大きな苦痛を伴い、それに耐えなければいけない。ヒーロー映画は、アクションの迫力や3Dの技術ばかり注目されるが、意外と人間の心理や世のことわりの切なさなども表現している。

 戦争によって生まれて、戦争によって深い心の傷を負うキャプテン・アメリカ。ラストには、スーパーパワーであったがために体験する、最も悲しい出来事が待っている。世の中の人間にとって喜ばしい結果ではあるが、本人が、“その結果であったがため”に払った代償はあまりにも大きいのではないだろうが。

 少し、重いテーマになってしまい、ちょっと「息苦しい」と思った方は、「スペシャルコミック劇場」で安らいで欲しい。キャプテン・アメリカ、マイティ・ソー、アイアンマンの“アメコミ界のBIG3”が「キュージョン」シリーズ仕様になって、ユルいテンションで語りあうコンテンツだ。こちらでり気分転換した後は、劇場で『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』の深い人間模様に感じ入ろう。

ヒーロー妄想のカンタの所見評価

ヒーローの悲しき宿命度:★★★★★

人間ドラマ度:★★★

ヒーローアクション度:★★★

一覧を見る

『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』特集 - MOVIE ENTER
編集部的映画批評
【MOVIE ENTER おすすめニュース】
ウィキ・ペディアにも負けない!? キャプテン・アメリカの戦力を徹底解剖!
歴代アメコミ・ヒーローを徹底比較! 原点ヒーロー“キャプテン・アメリカ”の実力を測る
“FBI行動分析課”に学べ! 『クリミナル・マインド』流トラブルを生き抜くビジネス術
“FAITH”が繋ぐ二人の心 - イーライ・ストーンとジョージ・マイケル -