「中国は一番近いファンタジー世界」仁木英之さんインタビュー(2)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第34回の今回は、著書『海遊記―義浄西征伝』(文藝春秋/刊)を刊行した、仁木英之さんです。
 本作の他にも中国を舞台とした作品を数多く残している仁木さんですが、中国のどのような点に魅力を感じているのでしょうか。第二回の今回は仁木さんの仏教観についてお聞きしました。

■「中国は一番近いファンタジー世界」
―内容についてですが、義浄とその弟子の善行のやりとりがとてもユーモラスで面白かったです。ドン・キホーテ的といいますか。

仁木「風車に向かって槍で突っ込んでいく、みたいなね。でも突っ込んだ先に何かあるかもしれないですよね。それをやったのが昔の冒険者たちだと思うし。義浄に関して言えば、風車の向こうに本当の仏の教えがあるかもしれないということです。
義浄みたいな人間がいたら普通の人は引きますよね。でも、確かにすぐ喧嘩するし困った奴なんだけどたまに一緒に飲むと楽しい人っているじゃないですか、義浄はそんな感じですね。
反対に弟子の善行については一般の人の代表という位置づけです」

―書いていて一番楽しかった場面はどこですか?

仁木「楽しい場面しかなかったです。でも一番盛り上がったのはやっぱり最後の城砦船のところでしたね」

―個人的には大乗燈とミンピのエピソードが物悲しくて好きです。

仁木「あそこもいいですね。誰かを好きになったことがある人だったらミンピの無念がわかると思うし、大乗燈の迷いもわかると思います。この時代は一回離れたら連絡を取るのも困難だったでしょうから特にですね。今はツイッターやら何やらですぐ連絡が取れてしまって、逆に逃げられない環境ですけども」

―すばらしい冒険小説である本作ですが、同時に義浄というキャラクターを通して「宗教の戒律と世俗的な生活との折り合い」の悩ましさも読み取れました。特に大乗燈とミンピの物語にそれが表れていたように思うのですが、一般の仏教徒はどのように現実生活と折り合いをつけていけばいいとお考えですか?

仁木「出家していない人は普通に暮らしていたらいいと思います。本来の釈迦の仏教っていうのはあくまでも生き方の哲学で、いかによく生きて、いかによく死ぬかっていう、ある意味自己啓発なんです。
人って死ぬのはやっぱり怖いじゃないですか。僕も今年の春にちょっと胃を悪くしたんですけど、それだけで死ぬのが怖いって泣きそうになってましたから…というか泣いてましたから(笑) そういう、人が普遍的に持っている生病老死という苦しみの元を和らげようとしたのが本来の釈迦の教えです」

―仁木さんの作品には、本作の他にも中国が舞台として出てくる作品が多くありますし、仁木さんご自身も中国に留学されていました。この国にどのような魅力を感じたのでしょうか。

仁木「中国って一番近いファンタジー世界なんですよね。日本にないような歴史がありますし。たとえば、日本なら戦争で何百人何千人と亡くなったら大戦争ですけど、向こうは何十万人という規模ですから。それがいいとか悪いじゃなくて、自分の想像から桁が外れた何かがあると思ったんです。今の中国はともかく、古代の中国っていうのは想像力の受け皿として楽しい場所ですね」

―中国への留学は語学留学だったんですか?

仁木「いえいえ、単に就職したくなかったんです(笑) 就職したくなかったので勉強するという体で…。だから留学中は『鉄拳2』ばかりやってました(笑)」

第三回 ギャルゲーの二次創作からオリジナル小説へ に続く


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