看板建築は洋風なのに「戸袋」がおもしろい

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看板建築のファサードをじっくり見る基礎講座。3回目は「戸袋」に着目してみる。洋風なのに戸袋があるのもユニークだが、装飾も凝っており目を楽しませる。

■看板建築は「戸袋」も要チェックだ!


看板建築のファサード(前面部分)に注目してみる4回シリーズの3段目は「戸袋」です(予告では「装飾」でしたが、準備が間に合わなかったので、4番目の「戸袋」を先に書かせていただきます)。

ここまで、ファサードの「形状」「屋号」を楽しんできましたが、今回はなんと「戸袋」に着目してみます。「戸袋」というのは、雨戸を引き入れるための収納部分のことです。看板建築は擬洋風ということで、洋風の外装を整えているものの、実態は和風の建築であり、畳のある和風の生活でした。そうなると、複数枚の雨戸を夜は閉めるのが当然であり、昼は雨戸を収納する戸袋が必要ということになります。おかしなようですが、こんなところに和洋折衷のおもしろさがあります。
(戸袋を上手に隠してファサードを立ち上げている物件もたくさんあり、大工の腕がさりげなく披露されている物件もあります)

しかし、看板建築は「見栄と粋」の追究でもあるので、戸袋をただ単にべったりモルタルで塗るとは限りません。むしろ、戸袋のようなワンポイントに、紋様をちょっとちりばめてみたり、アクセントとして使っている例が見受けられます。看板建築鑑賞の楽しみのひとつです。

それでは「戸袋」を鑑賞してみましょう。

photoB
江戸小紋が銅板葺きの看板建築の戸袋に細工されている。こだわりは細部に宿る。

■江戸小紋は看板建築の見せ所!


最初に紹介するのは、江戸小紋をモチーフにした紋様です。小紋というのは着物などに型染めでパターン模様を散らしたものですが、たくさんの模様が知られています。
動植物や波風などの自然をモチーフにしたものが多く、当時の日本人にはなじみのあるものでした。

看板建築のオーナーである個人商店主は、江戸っ子が多いですから、おそらく江戸小紋に親しんでおり、洒落たアクセントとして、江戸小紋を採用したものと思われます。職人も自分の腕の見せ所と存分に技術を披露したようです。

江戸小紋の例は、銅版葺きの看板建築に多く見られます。美しい物件は全体を江戸小紋に仕上げていることもありますが、戸袋にワンポイント、というのも洒落ていると思います。

写真に紹介している例では、檜垣、亀甲、菱形、麻の葉などの小紋が描かれています。1枚の戸袋で2つの柄を入れる例も見事な細工です。いずれも現場で見つけたとき「おお」と感嘆の声があがります。皆さんもぜひ探してみてください。

しかし、「江戸小紋をつけたら、洋風じゃなくて和風じゃない?」いと思うのですが、それもまたおもしろさです。

photoC
モルタル仕上げの看板建築も戸袋の細工で興味深い物件は多い。いずれも洒落ている。

■モルタル仕上げに洋風の紋も楽しい


今度はモルタルの看板建築の戸袋を見てみます。
モルタル仕上げ(擬石も含む)の戸袋については、どちらかといえば洋風の模様を入れることが多いように思います。

戸袋は長方形ですから、どこかトランプっぽくあります。洋風のパターンを入れてみようと思うオーナーもあったのでしょう。もちろん、洋風を装っているのだから、戸袋の処理も洋風だ、と思ったのかもしれません。

紹介している物件は、菱というよりダイヤ、Xに塗り分けているもの、三つ持合亀甲の家紋?、洋風の飾り枠風、擬木風、などのパターンです。
全般にモルタル仕上げの看板建築は、銅板葺きの看板建築と比べると地味で細工が劣る印象がありますが、なかなか楽しいと思いませんか。
もちろん、あっさりと無地の戸袋も多いのですが、紹介した例ではいずれも洒落た雰囲気が出ていると思います。

戸袋を絵画のキャンバスに見立てて、鏝絵を描くような例もあるようですが、手元のライブラリにいい写真がありませんので、また続報で紹介できればと思います。

photoD
江戸小紋の細工が凝らされた看板建築の「看板」という不思議な物件。

■おまけ


最後に、看板そのものが江戸小紋の複合体となっている物件をご紹介します。店名がまったく見当たらないのですが、廃業の際に屋号の文字を外したのかもしれません。あるいは、看板がその店の業種とテクニックを雄弁に語る、ということなのでしょうか。
江戸小紋についてはファサード全面に用いられる例もあり、今後また取り上げることもあると思います。
なお、この写真だけは撮影場所は秘密とさせていただきます。ぜひ街を歩いてみてください。

次回は、看板建築の装飾について迫ります。もしかすると、上下二回に分けてお送りするかも……。

(撮影場所)中央区築地、千代田区神田多町、台東区台東・根岸・竜泉・東上野、豊島区南長崎、北区赤羽西あたり



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