『いま、会いにゆきます』著者の最新作は切ない純愛短編集

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 その女の子は美人だった。ほっそりとした身体と長い手足。豊かな髪に縁取られた小さな顔。きれいな弧を描く眉と強い眼差し。
 その女の子は、女の幽霊を見たと言った。
 つい、彼女の興味を惹くために、「ぼく」も若い男の幽霊を植物園の温室で見かけた、と嘘をついていた。
 2人は、お互いが見つけた2人の幽霊を結びつけるために、頻繁に落ち合うようになった。夜は2人だけの時間になっていた。

 『いま、会いにゆきます』で一躍注目を浴びた市川拓司さんの最新刊『ぼくらは夜にしか会わなかった』が、祥伝社から刊行された。
 この記事の冒頭に書いたのは表題作「ぼくらは夜にしか会わなかった」のあらすじだ。本書は小説誌「Feel Love」に掲載していた5作品に、完全書き下ろしとなる「いまひとたび、あの微笑みに」を含めた全6作を収録した短編小説集となっている。

 天文台、植物園、神学校、飛行場、クリニック……どこか懐かしい場所を舞台に、真っすぐな純愛が紡がれてゆく。「いまひとたび、あの微笑みに」については、市川さんが自身のブログ「doorinto」( http://doorinto.txt-nifty.com/doorinto/ )で次のように思い入れをつづっている。

「眞理枝は施設を「世界の涯に置かれた最後の避難所」と呼んでいます。あまりにも感じやすい心を抱えて、このがさつで我欲に満ちた世界でうまく生きていくことができない子供たち。
書いているあいだは、ぼくもここで暮らしていました。そしていまも読み返すことによって、この場所に立ち帰ります。ぼくにとってかけがえのない場所となりました。きっと何度も何度も読み返すんだろうな、ってそう感じています」


 作者自身も「何度も読み返す」と言っている本作。切なくなりたいとき、恋がしたいと思うときは、市川さんの純愛小説の世界に浸ってみるのもいいかも知れない。
(新刊JP編集部/金井元貴)



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