2003年に連載がスタートした田中啓文の落語小説《笑酔亭梅寿謎解噺(しょうすいていばいじゅなぞときばなし)》シリーズが、10月26日発売の第5巻、『ハナシはつきぬ!』でついに完結した。

 主人公の星祭竜二は金髪にモヒカン頭の元フリーター。ひょんなことから、上方落語の至宝・笑酔亭梅寿に入門し、"笑酔亭梅駆(ばいく)"と名付けられて、無体な師匠(モデルは六代目笑福亭松鶴らしい)からドツキまわされることに......。

 2005年には、奇しくも"竜二"なる人物が登場する宮藤官九郎脚本の落語ドラマ「タイガー&ドラゴン」がTV放映され、上方方面では、「すわ、梅寿のいただきか!?」とも噂された(が、素人が無体な落語家のもとに弟子入りするという設定と、落語の演目と現実の出来事を重ね合わせるという手法以外はそんなに似てません)。

 いずれにせよ、ここ数年の落語ブームにあと押しされるかたちで《梅寿》シリーズも文庫版でじわじわ部数をのばし、『ハナシがちがう!』、『ハナシにならん!』、『ハナシがはずむ!』、『ハナシがうごく!』と刊行(いずれも集英社文庫)。著者にとっては最大のヒット・シリーズとなり、今回の『ハナシはつきぬ!』でめでたく大団円を迎えることとなった。

 最初のうちには、題名どおり一話完結の(意外にちゃんとした)"日常の謎"連作ミステリだったが、巻を追うごとにミステリ度が減少して、竜二の成長を描く青春コメディに変貌。お笑い業界のさまざまな要素をとりいれ、"落語会のいま"を現在進行形で描いている。

 若手落語家のコンテストに出たり、ワイドショーのレポーターに抜擢されたり、博多の演芸場に住み込んだり、即席の漫才コンビを組んでM−1グランプリ(のようなもの)をめざしたり。第5巻ではついに、苦しまぎれの一発ギャグがウケて、全国区のひな壇芸人に出世(?)する......。

 古典芸能という枠に収まりきらない、生き生きした落語の世界がここにある。落語ファンはもちろん、お笑い芸人に興味がある人はぜひどうぞ。

(大森望)







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