約40年前、密室状態にあった小さな島から16歳の美少女があとかたもなく消えた...。権力や経済の圧力に屈しない雑誌『ミレニアム』の記者ミカエルは、残された写真や謎の暗号といった小さな手がかりをもとに、この事件の真相を追い始めます。

 徐々に見えてくるのは、大財閥一族のどろどろとした人間関係と意外な犯人の顔、クライマックスの凶悪犯との対決...と、ミステリーの醍醐味がふんだんに盛り込まれていて、全世界で6000万部(3部作累計)売上げを記録しました。でも、『ミレニアム』の面白さは、それだけではありません。

 この本では、警察や司法関係者といった権力者(=男)は、往々にして無能な者として描かれています。警察や司法に頼れないとき、記者であるミカエルは記事にして暴露することで悪を断罪しようとします。一方、頼るものは身ひとつのヒロイン、リスベットは、超一流のハッカーという才能を活かすことで犯罪者を追い詰め、暴力的に報復を果たします。華奢な体をタトゥやピアスで武装し、社会との一切の関わりを拒否する、怒りの塊のようなリスベット。社会のアウトローである彼女が犯罪者の一番嫌がる方法で落とし前をつけるさまが、なんといっても痛快なのです。

 また、同書では凄惨な連続殺人を主軸にし、女性に対する暴力犯罪を明らかにするという重いテーマを扱っているにも関わらず、読後感がどこか温かいというのも、この本の不思議なところです。その要因のひとつに、随所にスウェーデンの日常生活が織り込まれていることがあります。例えば、捜査に行き詰まったり、容疑者の本音を引き出したかったり、そんなとき、ミカエルは温かいコーヒーとサンドイッチをともに飲食し、物語を切り開いていきます。そんな何気ないシーンの挿入がまた心憎いのです。

 そして、作中で描かれるミカエルの華麗な性生活。飄々として少年のまま大人になったような43歳の男ミカエルは、あれよあれよという間に女性からベッドに誘われます。ついには、何者にも心を閉ざしてきたリスベットの心さえも溶かしてしまう。女性が男性の"力"に頼らなくなったとき、満身創痍のヒロインを暗に陽に支える男、というのがこれからのヒーローの形であり男女関係のあり方なのかも、なんて考えてみたり。そんな読み方も『ミレニアム』の楽しみ方のひとつです。



『世界中を魅了したスウェーデン発のミステリー 『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』』
 著者:
 出版社:早川書房
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