「どうにもならない人生を、愚痴を言わずに淡々と生きる。他に人間の生き方はないだろう」樋口有介さんインタビュー(2)

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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
 第33回の今回は、著書『ピース』(中央公論新社/刊)が文庫化され25万部を超えるベストセラーになっている樋口有介さんです。
 前回はこの作品の着想のきっかけとなった、実際に体験した御巣鷹山航空機墜落事故のお話をしていただきましたが、今回は樋口さんの作品に共通するものについてお聞きしました。

■「どうにもならない人生を、愚痴を言わずに淡々と生きる。他に人間の生き方はないだろう」
―実際に暮らしていたとおっしゃるだけあって、秩父方言に非常なリアリティを感じました。

樋口「読みにくいという人もいますけどね(笑)。私があそこへ住んだのは5年間だったのですが、土地の人はみんなああいうしゃべり方をします。ただ、あれから20年以上経っているので、今の人はどうかわかりませんが」

―この作品では、秩父で起きた連続バラバラ殺人が中心に据えられていますが、読んだ感想として事件そのものよりも、登場する人間たちそれぞれが抱える葛藤の生々しさが心に残りました。執筆時に特に心がけていたことはありますか?

樋口「特にありませんが、とにかく登場人物の一人一人を、ていねいに書こうと。都会では、郵便屋さんなんかただ郵便物をおいていくだけ。ですけど秩父では、お茶を飲みながら一時間も世間話をしていくような感じで。小説では端役でも、四十歳の人間には四十年分の人生があるわけですから」

―確かに、人間のおどろおどろしさが細かく描かれていますね。

樋口「人生のどうにもならなさ加減といいますか、誰にもどうすることもできない人生を書くというのは、この作品だけではなく、私の小説にすべて共通しています。昔も今もミステリー作家になろうと思ったことはないのですが、一応世間では『ミステリー作家』ということになっているので、それらしく書いていますけどね(笑)」

―ラストも印象的でした。殺人などの事件を扱った小説では、最終的に犯人がわかってすっきり、という形で終わるものが多いなか、この作品は違いますね。

樋口「ラストについては尻切れトンボだと言う人もいます。その通りといえばその通りなんですよ。私もああいうふうにする予定ではなかった。犯人とその動機が分かって、そのまま終わらせようとかね。ただ脱稿してから、もうひとひねり欲しいと。本来は『ピース』の意味が分かったところで、あの小説は完結。以降は読者サービスでしたが、ラストは賛否両論でしたね」

―登場人物の描き方やラストの結び方などから、ミステリーというジャンルには括れない作品だと思いました。

樋口「事件があって布石があって謎があって、刑事なり探偵なりが事件を追って、そして最後には犯人が判明するという、いわゆる“ミステリー”とは違います」

―樋口さんの作品に共通するテーマがありましたら教えてください。

樋口「ハードボイルドですよ。どうにもならない人生ではあるけれど、『愚痴を言わずに淡々と生きましょう』というね。他に人間の生き方はないだろう、と。もちろん作家ですからストーリーはいろいろなものを考えますが、そういう理念はどの作品にも共通していると思います」

―その理念は樋口さんご自身の人生にも通じるのでしょうか。

樋口「いや、私の日常はなんかいい加減ですよ 。飲み屋へ行って奇麗なお姉さんをからかったりね(笑)、そんなもんです」

第三回「気の済むまで小説を書いてダメだったら他の道を考えようと思った」に続く


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