プレミアリーグに限らずとも、リーグ生き残りをかけた闘いがあるからこそ生まれるドラマがある。私が初めてイングランドにやって来た2004-05シーズンの話だが、残り1試合という時点で最下位にいたウェスト・ブロムが、最終節を終えて17位へとジャンプアップして奇跡的な残留を果たした。幸運にもスタジアムでその歴史的勝利を目の当たりにした私は、興奮のあまりホームサポーターたちと一緒に抱き合って喜び、ピッチへとなだれ込む彼らに紛れて試合終了直後のスタジアムの芝を踏みしめた経験がある。抱き合う選手たちを横目に興奮に沸くサポーターをピッチ上から見たその感動は、今でも忘れることができない。ところが、このような熱いドラマの拠り所である昇格・降格争いのスクラップ計画がイングランドで密かに進行しているというのだ。

イングランドは、プレミアリーグ(20クラブ)を頂点としたピラミッド式リーグ構成となっており、下位3チームが自動的にリーグ2部に相当するフットボールリーグ・チャンピオンシップに降格する。反対にチャンピオンシップ上位2クラブが自動的に昇格し、3−6位のチームがプレーオフに回って1クラブのみがプレミア行きのチケットを手にする仕組みとなっている。

ところが、このような制度を廃止しようと目論んでいるのが、外国人オーナーたちで、特に熱心になのがアメリカ人とアジア人オーナーだという。アメリカンスポーツに見られるようなフランチャイズシステムを取り入れて閉鎖的なリーグを形成しよう、という提案が持ち上がる背景には、降格のリスクが無くなればクラブ株式の値が上昇するのはもちろんのこと、投資や収入に関するマネジメントがしやすくなるため、スポーツビジネスで一儲けしようというオーナーたちの思惑がある。

しかしながら、早速この利益追求型提案に異議を唱えた人物がいる。マンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督だ。昇格・降格システム廃止は「自殺行為だ」とバッサリ切り捨てたファーギーは、「現在チャンピオンシップに属する8クラブは伝統と歴史を持っている。彼らに対してこの提案を何と説明するのだ。ノッティンガム・フォレスト、リーズ・ユナイテッドらは昔のファースト・ディビジョンで中核を担ったクラブであり、昇格・降格システム廃止は賢明ではない」と反対を表明。また、リーグ監督協会CEOリチャード・ビーヴァンも、外国人オーナーたちの動きは把握しているとして、「拒否権を発動できるイングランドサッカー協会(The FA)の果たすべき役割が重要になってくる」と訴えている。

プレミアリーグのルール改正には、いかなる場合も20クラブ中14クラブの賛成とThe FAの了承を得る必要があることから、昇格・降格システム廃止は免れる見込みだ。「いかなるクラブもピラミッドの頂点であるプレミアリーグを目指す権利を与えられて当然であり、自己の利益追求に専心するオーナーたちからプレミアリーグを守るべきだ」と主張するウィガンのチェアマン、デーヴ・ウィーランの言葉に、ただただ頷くばかりである。

【鷲津正美/ Masami Washizu】