原発作業員に紛れ、決死の覚悟で乗り込んだ─。マスコミ人として初めて福島第一原発の内部に潜入を果たしたジャーナリストが見たものは、およそ信じがたい光景の連続だった。ずさんなセキュリティシステム、放射能汚染、無残な作業員の姿‥‥その真実を憤激証言する。



 防護服なしで一服する作業員

 結局、スパイか工作員のように作業員に変装し、チェックの目をかいくぐって潜入することになりました。最悪の場合は不法侵入で逮捕されることも頭をよぎりましたね。これほど緊張する取材は初めてした。もういつバレるか、気が気ではありませんでしたから。

 こう回想するのは、フリージャーナリストの山岡俊介氏。大手消費者金融「武富士」の不正を追及。そのドンを塀の中に追いやった他、アムウェイ商法の問題点を鋭く指摘した社会派の急先鋒である。

 その山岡氏が今年6月、大事故を起こし放射能をまき散らし続けている福島第一原発への潜入取材を敢行。「福島第一原発潜入記」(双葉社)を先頃、上梓した。

 山岡氏は原発作業関係者の協力を得て、潜入方法を模索。怪しまれずに紛れ込むための注意事項を聞いて、イチかバチかの覚悟で福島へと出発したのだった。

 福島第一原発の事故処理作業員が宿泊所として使っているのは、サッカーのトレーニングセンターとして使われていた「Jヴィレッジ」です。私、そして潜入取材に同行した助手の下村君は、いわき市内で協力者と打ち合わせをしたあと、レンタカーでJヴィレッジに向かいました。といっても、どこかの孫請け従業員として原発内に潜入するわけではなかった。あくまで関係者の振りをして、紛れ込む計画だったのです。

 Jヴィレッジは各ゼネコン系列ごとに着替え、休息、荷物置き場の部屋が分けられていました。でも皆、部屋の前で着替えをしている。それをいいことに、管理人に会釈して防護服一式を受け取ると、廊下で手早く着替えました。不思議なことに、原発労働者の基地たるJヴィレッジの管理人は、何のチェックもなく防護服を渡していたのです。

 あまりにもずさんな態勢に驚きながら、私は福島第一原発行きのバスに乗り込みました。バスは最初に、福島第二原発に立ち寄りました。その時に目にしたのは、テラスで休息する作業員の姿でした。何しろその作業員は、放射能で汚染されている屋外の場所であるにもかかわらず、防護服を身につけずにタバコを吸っている。驚きました。いや、もっと驚いたのはバスの運転手です。運転手は我々を乗せて放射能汚染区域を走っているのに、ずっとふだん着のままなのです。