by Gane

2015年に開業予定の北海道新幹線は青函トンネルを通りますが、青函トンネルは旅客、貨物のいずれにとっても輸送の要であることから、新幹線に貨物列車を搭載する「貨物新幹線」の運行が計画されています。かつて全国に鉄道網が張り巡らされていた時代、輸送の中心は鉄道でしたが、その後の道路整備によってトラックが取って代わりました。その後、1991年からは再びトラックから鉄道へ戻すモーダルシフトが推進されています。コロコロと事情が変わっていますが、なぜまた鉄道輸送に注目が集まっているのでしょうか。

◆鉄道輸送になることで消費者が得られるメリット
メリットその1:スケジュールが確実
メリットその2:中距離以上ではコストが下がる

鉄道のメリットの一つは定時運行が可能でスケジュールが読めるという点。決められたレールの上を走るため、交通が集中して渋滞する恐れはなく、人身事故や天災が起きない限りダイヤ通りに走ることができます。貨物新幹線の場合は時速200kmオーバーでの運行が計画されているので、高速定時運行によって安定的に速く荷物を届けられます。Amazonには「お急ぎ便」という、注文した荷物をいち早く届けてくれるサービスがありますが、貨物新幹線が現実になれば、「貨物新幹線への積み込みが間に合うこの時間までに注文があれば、本日中にお届け」という超スピード配達も可能になるわけです。一方のトラックは2003年9月からスピードリミッターの装着が義務づけられているため、最高速度は時速90kmに制限されています。しかも、渋滞に引っかかったり、信号に引っかかったりするため、その速度でずっと走り続けることは不可能です。

また、中長距離(おおよそ800km以上)の輸送時のコストが下がるという面もあります。輸送コストが上がるとその分だけ送料に跳ね返ってきますが、このコストを少しでも圧縮することで、現在は関東への配送料と差がつけられている遠隔地への送料を下げることができます。

◆「貨物新幹線」計画とは
北海道新幹線は新青森と新函館を結ぶ予定新幹線で、本州〜北海道の間は現在在来線が走っている青函トンネルを共同利用して運行されることになっています。しかし、下の地図を見てもわかる通り、本州と北海道を結ぶ陸路は青函トンネルのみ。自然と人も貨物もここに集中することになるため、それをさばく必要があります。

この地図で「津軽海峡線」と書かれている部分が青函トンネル。

大きな地図で見る

ところが、貨物列車は多くのコンテナ車を連結して走るため、その多くが最高時速100km未満(平均すると当然ながらもっと下がる)で走行しています。最高で時速200kmを越える新幹線とは大きな速度差があり、同時に運行すると遅い貨物列車が新幹線のダイヤの足を引っ張ることになります。

これを解決するためにJR北海道とJR貨物が考えているのが「トレイン・オン・トレイン」という方法で、貨物列車をそのまま新幹線規格の車両に積み込み、貨物新幹線として時速200kmで走らせるというもの。下記リンク先に積み込みのイメージ映像があります。

青函トンネルの貨物新幹線「トレイン・オン・トレイン」−北海道新聞[動画News 特集]

まず、普通の貨物列車がやって来て、先頭で引っ張ってきた機関車が切り離されます。


作業用の機関車がその貨物列車を引っ張り始めました。


白いゲートのようなところへと入って行きます。


内部はこんな感じ。これ自体が「トレイン・オン・トレイン」の貨車で、このとき通常の貨車は新幹線サイズの貨車の中へと積み込まれているところなわけです。


貨車をこの大きな貨車の中に入れたら、作業用機関車が切り離されます。


次に、機関車の乗っている部分であるボーディングターミナルが移動、今度は貨物列車の頭とおしりに新幹線区間走行用の機関車が連結されます。


連結が完了すると「貨物新幹線」の完成。この積み込み作業にかかる時間は約10分、在来線から新幹線へコンテナを積み替える手間も時間も発生しません。


あとはこの貨物新幹線で青函トンネルを横断するだけ。


トンネルを渡った貨物新幹線が駅にやってきました。


今度は先ほどの行程の逆の順番で作業が行われます。まずは頭とおしりの部分に連結されていた新幹線機関車を分離。


そこへ通常の機関車がやって来て……


在来線の貨物列車として走っていく、という流れです。この新幹線から在来線への変更作業もだいたい10分で完了します。


◆トラック中心の弊害
現在、陸上輸送の中心はトラックです。日本の道路網は日本全国津々浦々まで張り巡らされており、トラックに荷物を載せれば目的地までお任せ、というのであれば、それがメインになるのは当然のことです。

しかし、昨今はこのトラック輸送にかかる負担が非常に大きくなっています。長距離トラックの運転手は決して「荷物をターミナルからターミナルまで届けること」だけではありません。荷物をトラックで運ぶことはもちろんですが、発送元で荷物を積み込む作業、目的地で荷物を降ろす作業、これもまた仕事の一つです。そこにさらに「時間までに必ず届けろ」「高速道路を使うと料金が高いから一般道路を走って行け」などの指示が会社や品物によって加わってきます。

よく高速道路のサービスエリア近くなどにトラックが止まっていますが、ETCの割引適用を受けるためにああやって時間を調整したり、あるいは車中で仮眠を取ったりしながらの仕事を続けていくのは非常にハードで、営業用トラックの事故件数は年を重ねるごとに増加する傾向にあります。運転手に詳しく話を聞いてみると、1ヶ月の超過勤務が80時間以上という人は30.6%で、そのうちの半数は100時間以上の超過勤務を行っているという報告もあります。


輸送には環境問題もつきまといます。JR貨物によるエネルギー消費量とCO2排出量の試算では、トラック輸送によるCO2排出量は鉄道輸送の7倍にもなっています。そして、鉄道の主要幹線は多くが電化されていて、使用している電気は旅客と同じものですが、トラックは1台ごとにガソリンを消費しています。2006年4月1日からは、荷主に省エネルギー対策を求める「改正省エネ法」が施行されているため、少しでも省エネな方を選ぼうと考えると、鉄道輸送の方が有利になっていくわけです。

◆料金比較
次はトラックと鉄道の輸送料金について比較を行ってみます。

トラックの場合、何トンのトラックを使うのか、輸送距離はどれだけかという点から料金が算出されます。沖縄を除く日本全国で輸送業務を行っている大和急配の具体的な数字を見てみると、「荷物を1トン車で50km先まで運ぶ」という場合、料金は1万4700円。「4トン車で東京から大阪(堺)まで荷物を運ぶ」という場合は5万8000円、同じく東京から大阪で10トン車にすると7万8000円となります。この料金は荷物の積み卸しが各1ヶ所だけで、東京か神奈川から出発した場合のもので、もしも積み卸しの場所が増えたり出発地が変わる場合は料金が変わってきます。


鉄道の場合は、「荷物の送り元から出発貨物ターミナル駅までのトラック輸送料金」「貨物ターミナル間の列車運賃」「到着した貨物ターミナル駅から送り先までのトラック輸送料金」「貨物ターミナル駅でのコンテナ荷役料金」の4つから料金が算出されます。物流相談.comのサンプル例によると、5トンコンテナを埼玉県所沢市から兵庫県西宮市まで運ぶ場合、所沢から新座の貨物ターミナルまでのトラック輸送料金が1万1400円、新座貨物ターミナルから梅田貨物ターミナルまでの列車運賃が3万5000円、梅田から西宮までのトラック輸送料金が1万3100円、コンテナ荷役料金が1000円で、その合計は6万500円となります。


これが東京〜福岡間になると、4トントラックでの輸送料金は11万5000円なのに対し、鉄道(5トンコンテナ)は8万3500円となります。

慶応大学の石原浩さんが書いた「(PDFファイル)経済環境面から見た貨物新幹線の可能性」という論文でも、荷物を運ぶときに距離が短ければトラックの方が圧倒的に安いが、距離が伸びるに従って鉄道との料金の差がなくなっていき、ある程度の距離を超えると鉄道輸送の方が安くなるということが指摘されています。この「ある程度の距離」というのは、荷物の積み卸しをする貨物駅から集荷・配送先までの距離にもよりますが、だいたい駅から目的地まで20km圏内なのであれば、輸送距離が400kmを越えると鉄道の方が安くなり、駅から目的地までが100km圏内であれば輸送距離が800kmを越えると鉄道の方が安くなる、という感じです。

◆人的コスト、安全面

by Frans Persoon

トラック運転手が過酷な仕事を強いられている状況はNHKスペシャル「トラック列島・3万キロ」などでも取り上げられ、問題となっています。一方、鉄道の運転士が過酷な仕事として取り上げられることはありません。

長距離輸送を行う場合、トラックだと1人の運転手が全行程を担当しますが、鉄道は高速バスと同様、運転士によって走る区間が決まっており、途中の駅で交代しながら運転を行っています。そのため、仕事の内容だけを見ると通勤電車の運転士と大きな差があるわけではありません。

自称JR貨物の運転士が2ちゃんねるに現れて質問に回答したスレッドが以下にまとめられています。

貨物列車の運転士だけど質問ある? : 社会生活VIP

◆お互いのメリットを生かした運用を
鉄道での貨物輸送が急激に廃れたころとは時代が変わってきて車両の改善が進んできており、2003年から導入されたJR貨物M250系電車は最高時速130km(設計上は時速140km)での運行が可能で、東京大阪間を最速6時間強で結んでいます。これは、最高速度を時速90kmに制限されているトラックでは厳しい数字です。


この東京大阪間は日本の大動脈なので国家プロジェクトとして東海道物流新幹線という構想も進められています。完成すれば1日約20万トンの物資をトラックから鉄道輸送に切り替えることができ、二酸化炭素排出量の年間300万トン(2008年度排出量の0.2%相当)の削減が可能だそうです。

しかし、たとえ貨物新幹線が実現し、東海道物流新幹線が完成したとしても、貨物ターミナルと荷物発着地との間を結ぶトラックでの輸送は不可欠。コストだけではなく環境面の配慮も行わなければならないこれからの時代のことを考えると、鉄道とトラックのどちらかに重点を置くというのではなく、両者のメリットをうまく取り入れて活用していくことで、荷主は省エネ法に従いつつコストを抑えられ、消費者もその恩恵にあずかれるはず。

ちなみに北海道新幹線について新幹線・交通企画局新幹線対策室に聞いてみたところ、北海道新幹線の開業は2015年度末の予定なのですが、貨物新幹線についてはどのように運行するか、トンネル内の速度はどうするのかという点についてJRが現在検討中のため、開業と同時に運行されるのかどうかはわからないそうです。また、貨物新幹線としての区間は「青函トンネル部分」なので、もし実現した場合はトンネルの前後にボーディングターミナルのある駅か何かが設置されて、そこで機関車の付け替えを行うことになる模様です。

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