経営者だって本に励まされる。


 「こんな仕事をしているのにお恥ずかしい話ですが、実は以前は本を読むのがとっても遅かったんですよ」(今野さん)

 前回に続いてお話を聞かせてくださるのは、電子書籍のプラットフォーム事業を行っている「ブックリスタ」の今野敏博代表。聞けば、どうも読書中に他のことが気になってしまったり、前を見返しながら読んだりと、一冊読むのにかなり時間がかかっていたという。

 「はっきりした理由はわからないんですが、電子書籍にした途端、読む速度が2倍くらいになったんです。僕だけかなぁと思っていたけど、周りからも割とそういう話を聞くんです。考えてみると、普通の本は両手で読みますが、電子書籍の端末は片手で持ってボタン操作しながら読める。つまり、もう一方の手でしっかり吊り革を持てるので、非常に安定して読めるんですよね。それが気が散らなくなった理由なのかなぁと最近思っています」

 なるほどこれは、電車で立ち読書派の方は試してみる価値あり! で、2倍のスピードを手に入れた今野さんが、最近感動した本は『プリンセストヨトミ』。

 「昔から豊臣家の最後が可哀想だなって思っていたんです。正確には秀頼もいますが、豊臣家は実質秀吉一代で終わったようなものですから。でも、そういうはかなさに、なぜだか惹かれてしまう。何百年もの歴史のなかで、日本人の根底に流れている感情を改めて感じた小説でしたね」

 ちなみに『プリンセストヨトミ』は、ソニーの電子書籍端末「Reader」で読んだそうで。

 「僕の場合は150冊くらいの本を端末に入れてあるので、『プリンセストヨトミ』もそれだけを読んでいたのではなく、ビジネス書や漫画など他の本と平行しながら読んでいました。ありとあらゆる本をその時の気分に合わせて読んでいくというのが、僕の今の読書スタイルですね」

 ところで今野さん、代表を務める会社は実は「ブックリスタ」が4社目。様々な分野で経営者としての手腕を発揮しているわけだが、特に仕事の面で影響を受けた本はあるのだろうか?

 「アメリカにGE(ゼネラル・エレクトリック)という巨大企業があるのですが、そこの経営者のジャック・ウェルチが書いた一連の本にはすごく影響を受けましたね。経営者の本というと必ず名前が挙がるような有名な方ですが、書いてあることはすごくシンプル。経営者にとって一番重要なことは、社員を勇気づけることだと。当たり前の話と言えばそうかもしれませんが、有名経営者が発するあまりにもシンプルな言葉という驚きとともに、非常に勉強になりました」


 ジャック・ウェルチに初めて触れたのは、経営に携わるようになった7〜8年前。それまでビジネス書の類いは一切読んでいなかったそうだが、このジャック・ウェルチの一連の本は、今野さんの経営者としての悩みや迷いを振り切る相談役ともいえる存在になったという。

 「代表みたいなことをやっていると、同じ立場の人がなかなか身近にはいないんですよね。だから経営者としての悩みなどを誰かに相談するというのも、できないことが多かった。それで本屋さんで前から気になっていたこの人の本を手に取ってみたんです。社員を勇気づけるというより、僕自身が勇気づけられていましたね」

 一方、今野さんが仕事を忘れて楽しめる本は、大好きな"食べ物"の本。

 「小説の中でも食べ物の描写が非常に美味しそうなもの。例えば池波正太郎先生の『鬼平犯科帳』は大好きですね。それからもちろん、レシピ本も好きです。レシピ本の楽しみは、この料理はどんな食材で構成されているのだろう?という興味が満たされること。男性は特にそうかも知れませんが、作らなくても構造を理解したいという性質があるのだと思います」

 数ある料理本のなかでも特に好きなのは、ケンタロウさんと東京カリ〜番長の本。

 「ケンタロウさんの料理は、調味料が何グラムというような細かいことよりも、ざっくりした感性のなかで作られている感じがいいんです。きちんとしたレストランで出されるものではなく、男性が日曜日に家族に食べさせるのに思いきって作った料理!のような豪快さが好きですね。それから、東京カリ〜番長の本も10冊近く持っています。カレー好きなもので。なかでも気に入っているのは、市販のルーを使って作るカレーの本『喝采!家カレー いつものルウだけで。うまさ新境地。』です。本格的なカレーを作る人は、市販のルウを決して使わないようなイメージがありますが、この本では敢えて市販のルウを使い、そこにひと加え、ふた加えすることでちょっと違うものを作ろうという試みがなされています。身近で入りやすい、とても面白い発想が、非常に気に入りました」

 そんなわけで休みの日には、番長のカレー本を片手に大好きな豚のかたまり肉を使ったポークカレーを作り、安らぎを得ているそう。

 また、最近はある名作にまつわる発見もあった。仕事を通じて出会ったブックコーディネーターの幅允孝さんの勧めで読んだ志賀直哉の名著『城の崎にて』である。

 「もちろんタイトルは知っていましたが、今まで読んだことがなかったんです。城崎温泉には行ったことがあっても、本とは結びついていなかったくらいで。ある時、幅さんに勧められて読んでみると、すごく長い小説だと思っていたのが実は短編だということがわかった。山手線にはねられて怪我をした主人公は、東京の人なのにどうしてあんなに遠い城崎温泉で療養するのかと、解せない部分はありましたが(笑)。でも、療養した先の温泉地での恋愛模様が描かれているのかと思っていたのが、それとは全く違う、宇宙すら感じるような話で。非常に感動したんです。先入観をことごとく裏切られた本でしたね。やっぱり先入観はよくないなと、改めて思いました」

 確かに、タイトルだけは知っていても、先入観が邪魔して未読の名著は数多い。今野さんの話で先入観が剥がれた方、まずは『城の崎にて』目掛けて本屋へダッシュです!


【関連リンク】
アノヒトの読書遍歴 今野敏博さん(前編)

(プロフィール)
今野敏博(こんのとしひろ)
株式会社ブックリスタ代表取締役社長。1981年4月、(株)CBS・ソニー 入社、 (株)レーベルゲート代表取締役 執行役員社長、(株)レーベルモバイル(現・(株)レコチョク)取締役 代表執行役社長などを経ながら、「着うた®」「着うたフル®」の開発に携わる。2010年11月より(株)ブックリスタ 代表取締役社長に就任。

※「Reader」は、ソニー株式会社の商標です。
※「着うた®」「着うたフル®」は株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントの登録商標です。







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