『千日の瑠璃』9日目——私は風土だ。(丸山健二小説連載)

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私は風土だ。

まほろ町の住民たちをまほろ町の人間たらしめるところの、まほろ町の風土だ。私は何よりも曖昧と中途半端をこよなく愛し、さっぱり要領を得ない話や、釈然としない説明の類いを好んで受け入れる。そして私は、一言一行を慎み、健康を気遣って節食し、暗々のうちに重大な決定を下し、不偏不党の立場を厳守するような連中を忌み嫌う。

私は権門にこび、後難を極度に恐れ、弱者の心を汲むような観点が大の苦手で、金銭はともかく時間を空費する名人だ。私は常に、よそ者の敏腕家の出現を待ち望んでおり、ろくでもない策力で相手を眩惑し、牛耳ろうとする者に一も二もなく従う態勢を調えている。私は周知の事実に寄り掛かりながら、はったり屋の怪しげな説にたちまち雷同し、自ら論断を下すことは滅多にない。

私はいつも話の重要な点をぼかして語り、生じた問題が大きければ大きいほど内聞にすまそうとし、顕になった秘密を性懲りもなくもう一度隠蔽しようとする。こんな私には、情念を払って事に当たることも、理不尽な仕打ちに厳然たる態度で臨むことも、不眠の努力をつづけることもできるわけがない。しかしそれでも、毎年百種を超える候鳥が私のもとへ通ってくるし、世一のような少年の居場所も私のいたるところにある。また、堅物でありながら穿鑿好きな小説家も、私のことを文学の宝庫と買い被ってくれている。勝手にどうぞ、だ。
(10・9・日)

丸山健二×ガジェット通信