″9.28″ 〜アンディーノの呪い〜
2011年9月28日は、MLB史上に残る伝説の1日となった。今後、"9.28"として永遠に語り継がれていくであろう、完璧な物語。
4月からはじまったレギュラーシーズンの最終日。各地で162試合目が行われ、ノスタルジックな消化試合ノリのゲームもチラホラある中、プレイオフ進出の最後のカードを賭けた天王山4試合が全米の注目を集めた。まずはナショナル・リーグ、9月に入り破竹の勢いで勝利を重ね、最終戦を前にいよいよワイルドカード首位のAtlanta Bravesと同率で並んでしまったSt.Louis Cardinalsは、Houston Astrosとの最終戦にエースのChris Carpenterを投入。前日までの勢いそのままに、Carpenterは見事な完封勝利。St.Louisの勝利により、文字通り"Win or Die"となったAtlantaは、王者フィリー相手に何とか1点のリードを守り9回へ。今季MLBに旋風を巻き起こした22歳の最強クローザー、C. Kimbrelを投入し必死の逃げ切りを図るも、流石にルーキーには荷が重すぎたか。Chase Utleyに同点打を打たれセーブ失敗、延長戦へ。結局Atlantaは延長13回の末敗れ、これによりSt.Louisは、まさに"Make Miracle"とも言うべき史上最大カムバックでのワイルドカード獲得を成し遂げた。Atlantaは9/6時点でSt.Louisに8.5G差をつけておりワイルドカード当確とされていたが、St.Louisが最終戦にてついにひっくり返した。8.5Gからの逆転プレイオフ進出というのは「この時点では」過去最大の逆転劇だった。
「この時点では」というのは、もう一つ、さらなる大逆転劇の可能性が迫っていたからである。アメリカン・リーグでは、一時2位に9G差をつけてワイルドカード争いを独走していたBoston赤靴下が9月に入り急降下、一方でその下にいたTampa Bay Raysが着々と勝ち続け、こちらもシーズン最終戦を前に同率で並んでいた。そして迎えたこの日の最終戦の結末はご存知の通り。赤靴下はBaltimore Oriolesを9回2アウトまでリードしながらそこから3連打を喰らい大逆転負け、そしてRaysはNYヤンキー相手に0-7の劣勢から終盤怒涛の猛打で8-7の大逆転サヨナラ勝ちを収め、つい1時間ほど前にSt.Louisが達成したMLB史上最大の逆転プレイオフの記録を一瞬にして更新してしまった。Raysは9回2アウト2ストライクまで追い込まれながら代打Dan Johnsonが同点HR、そして赤靴下は逆にあと1ストライクで勝利という状況から逆転負けを喰らった。こんなことがシーズン最終戦で起こるなんて、ちょっと神様の悪戯としか思えない。あまりにドラマティック、あまりにショッキングな結末。いかにドラマティックだったかというと、こんな感じ。
"何という1日"
"史上最もクレイジーな1日が終わった。あっぱれRays"
"MLBは140年の歴史があるが、昨晩の出来事は1400年に1度見るかどうかくらいのものだった"
"(9回2アウトから同点HRを放った)Dan Johnsonの一番最近のヒットは4月27日だったというのに"
"息子が凄い発見をした。もし野球が9イニングでなく8イニングだったら、Red-SoxとBravesが勝ち、Raysのシーズンは終わったところだった"
"Red-Soxは昨日まで、8回時点でリードしていたゲームは77勝無敗だった"
という感じでまあ、昨夜の一連の出来事が如何にミラクルでありカオスであったかお分かりいただけたと思う。コミッショナーのBud Seligも"only baseball could have produced a night like that."と述べるなど、未だ興奮冷めやらぬ、とにかく凄い夜だったのだ。
このドラマの立役者は誰かというと、史上最も劇的なサヨナラHR含む2HRのRays主砲、Evan Longoria、そして天才的な勝負勘と知性、リーダーシップでチームを率いたMaddon監督の2人が何といってもヒーローということになるのだろうが、表舞台のヒーローにスポットライトを当てるのはこのブログの性に合わない。今回のドラマの裏ヒーローは間違いなく、Baltimore Oriolesの一番打者、Robert Andinoである。
Raysの大躍進劇はもちろんRaysが頑張った結果だが、それ以上にRed-Soxの堕落っぷりが酷かった。9月は8勝20敗と壊滅的に負けまくった。特にシーズン最後の10試合のうち昨日の最終戦含む7試合が地区最下位のBaltimore Orioles戦だったが、そこで2勝5敗と足元をすくわれた。Oriolesは既にダントツ最下位当確、ただでさえ弱いチームが目標を失ったらそれはもう・・・と思われたところ、何故か皆ヤル気マンマン。チーム一丸となって最後まで強いものイジメを楽しみ、明るくシーズンを終えた。そんなお茶目なOriolesの中でも特に気を吐いたのが先述のAndino。今シーズン僅か36打点の彼だが、そのうちの9打点は最後のRed-Soxとの7試合で稼いだもの。26日の試合では逆転ランニングHR、昨日はサヨナラヒットでRed-Soxを地獄に突き落とし、多くのボストン市民を精神科送りにした。昨日のサヨナラ勝利の後、Oriolesはまるで優勝したかのようなお祭り騒ぎ。失うものなき者の強さというか、そういうものを見た気がする。
「Andinoの呪い」とは黒い冗談だが、しかしボストンファンは来年以降、彼の顔を見る度にトラウマが蘇ってくるのだろう。Andinoの意外すぎる爆発なしにはRaysの奇跡も起こりえなかったのであり、レイズのMaddon監督も試合後真っ先に、Twitter上でまずOriolesへの感謝の言葉を述べたくらいである。
歴史に残る激闘の熱がまだ冷めやらぬ中、まず最初に敵軍のプロフェッショナリズムを称えるという。何とも男前過ぎる知将である。
というわけで、今季のアメリカン・リーグMVPはRobert Andinoが最有力だ。
halvish
4月からはじまったレギュラーシーズンの最終日。各地で162試合目が行われ、ノスタルジックな消化試合ノリのゲームもチラホラある中、プレイオフ進出の最後のカードを賭けた天王山4試合が全米の注目を集めた。まずはナショナル・リーグ、9月に入り破竹の勢いで勝利を重ね、最終戦を前にいよいよワイルドカード首位のAtlanta Bravesと同率で並んでしまったSt.Louis Cardinalsは、Houston Astrosとの最終戦にエースのChris Carpenterを投入。前日までの勢いそのままに、Carpenterは見事な完封勝利。St.Louisの勝利により、文字通り"Win or Die"となったAtlantaは、王者フィリー相手に何とか1点のリードを守り9回へ。今季MLBに旋風を巻き起こした22歳の最強クローザー、C. Kimbrelを投入し必死の逃げ切りを図るも、流石にルーキーには荷が重すぎたか。Chase Utleyに同点打を打たれセーブ失敗、延長戦へ。結局Atlantaは延長13回の末敗れ、これによりSt.Louisは、まさに"Make Miracle"とも言うべき史上最大カムバックでのワイルドカード獲得を成し遂げた。Atlantaは9/6時点でSt.Louisに8.5G差をつけておりワイルドカード当確とされていたが、St.Louisが最終戦にてついにひっくり返した。8.5Gからの逆転プレイオフ進出というのは「この時点では」過去最大の逆転劇だった。
「この時点では」というのは、もう一つ、さらなる大逆転劇の可能性が迫っていたからである。アメリカン・リーグでは、一時2位に9G差をつけてワイルドカード争いを独走していたBoston赤靴下が9月に入り急降下、一方でその下にいたTampa Bay Raysが着々と勝ち続け、こちらもシーズン最終戦を前に同率で並んでいた。そして迎えたこの日の最終戦の結末はご存知の通り。赤靴下はBaltimore Oriolesを9回2アウトまでリードしながらそこから3連打を喰らい大逆転負け、そしてRaysはNYヤンキー相手に0-7の劣勢から終盤怒涛の猛打で8-7の大逆転サヨナラ勝ちを収め、つい1時間ほど前にSt.Louisが達成したMLB史上最大の逆転プレイオフの記録を一瞬にして更新してしまった。Raysは9回2アウト2ストライクまで追い込まれながら代打Dan Johnsonが同点HR、そして赤靴下は逆にあと1ストライクで勝利という状況から逆転負けを喰らった。こんなことがシーズン最終戦で起こるなんて、ちょっと神様の悪戯としか思えない。あまりにドラマティック、あまりにショッキングな結末。いかにドラマティックだったかというと、こんな感じ。
"何という1日"
"史上最もクレイジーな1日が終わった。あっぱれRays"
"MLBは140年の歴史があるが、昨晩の出来事は1400年に1度見るかどうかくらいのものだった"
"(9回2アウトから同点HRを放った)Dan Johnsonの一番最近のヒットは4月27日だったというのに"
"息子が凄い発見をした。もし野球が9イニングでなく8イニングだったら、Red-SoxとBravesが勝ち、Raysのシーズンは終わったところだった"
"Red-Soxは昨日まで、8回時点でリードしていたゲームは77勝無敗だった"
という感じでまあ、昨夜の一連の出来事が如何にミラクルでありカオスであったかお分かりいただけたと思う。コミッショナーのBud Seligも"only baseball could have produced a night like that."と述べるなど、未だ興奮冷めやらぬ、とにかく凄い夜だったのだ。
このドラマの立役者は誰かというと、史上最も劇的なサヨナラHR含む2HRのRays主砲、Evan Longoria、そして天才的な勝負勘と知性、リーダーシップでチームを率いたMaddon監督の2人が何といってもヒーローということになるのだろうが、表舞台のヒーローにスポットライトを当てるのはこのブログの性に合わない。今回のドラマの裏ヒーローは間違いなく、Baltimore Oriolesの一番打者、Robert Andinoである。
Raysの大躍進劇はもちろんRaysが頑張った結果だが、それ以上にRed-Soxの堕落っぷりが酷かった。9月は8勝20敗と壊滅的に負けまくった。特にシーズン最後の10試合のうち昨日の最終戦含む7試合が地区最下位のBaltimore Orioles戦だったが、そこで2勝5敗と足元をすくわれた。Oriolesは既にダントツ最下位当確、ただでさえ弱いチームが目標を失ったらそれはもう・・・と思われたところ、何故か皆ヤル気マンマン。チーム一丸となって最後まで強いものイジメを楽しみ、明るくシーズンを終えた。そんなお茶目なOriolesの中でも特に気を吐いたのが先述のAndino。今シーズン僅か36打点の彼だが、そのうちの9打点は最後のRed-Soxとの7試合で稼いだもの。26日の試合では逆転ランニングHR、昨日はサヨナラヒットでRed-Soxを地獄に突き落とし、多くのボストン市民を精神科送りにした。昨日のサヨナラ勝利の後、Oriolesはまるで優勝したかのようなお祭り騒ぎ。失うものなき者の強さというか、そういうものを見た気がする。
「Andinoの呪い」とは黒い冗談だが、しかしボストンファンは来年以降、彼の顔を見る度にトラウマが蘇ってくるのだろう。Andinoの意外すぎる爆発なしにはRaysの奇跡も起こりえなかったのであり、レイズのMaddon監督も試合後真っ先に、Twitter上でまずOriolesへの感謝の言葉を述べたくらいである。
歴史に残る激闘の熱がまだ冷めやらぬ中、まず最初に敵軍のプロフェッショナリズムを称えるという。何とも男前過ぎる知将である。
というわけで、今季のアメリカン・リーグMVPはRobert Andinoが最有力だ。
halvish
ダルビッシュ世代のMLBフリーク。日刊SPA!やJ Sportsに記事を寄稿したりしています。