さて、前回の続き。いちばんハマっていた野球ゲーム『ベストプレープロ野球』。通称、“ベスプレ”。打つ、投げる、走るといったアクション性は一切ないが、プレイヤー自身が選手の能力値をいじることができるという、これまでの野球ゲームのあり方を根底からくつがえすシステムが、最大のウリだった。そして、もうひとつの画期的な特徴は、登場する全12球団の選手名すべてを、プレイヤーの思いのままに変えてしまうことができるという点だった。

 その当時は、肖像権などの関係で、プロ野球選手の名前をそのまま使うことができず、すべて本名をもじった名前だった。たとえば、「桑田」なら「くわわ」、「北別府」なら「きたへふ」といった具合だ。それが面白いと思う人もいたのかもしれないが、ベスプレなら自分で実在のプロ野球選手の本名に書き換えてプレイすることも可能だった。

 だが、選手名をいじれるというメリットは、それだけに留まらない。選手名と能力値を同時にいじることによって、まったく新しい遊び方を生み出すこともできたのだ。たとえば、僕がやっていたのは、12球団それぞれを、時空を超えた“オールスターチーム”で構成し、歴代最強チームでペナントレースを争うというものだ。

 たとえば、巨人のクリーンアップは、「3番・王貞治、4番・長嶋茂雄、5番・松井秀喜」と組んでみたり、たとえば阪神の内野陣は「一塁手・バース、二塁手・岡田彰布、三塁手・掛布雅之」のバックスクリーン3連発トリオに、遊撃手だけは“牛若丸”吉田義男を組み合わせてみたり。リアルタイムで見たことのない選手の能力値を、過去の成績などから自分なりに考えて、そこに“復元する”という作業は、野球オタクとしてこれ以上ない、楽しい時間だった。

 さらに言えば、球団名や球団旗、ユニフォームなどもいじってしまうことで、実在のプロ野球12球団とはまったく別の架空リーグをつくりあげてしまうことも可能だった。NYヤンキースやSFジャイアンツという球団を誕生させ、A・ロッドやバリー・ボンズといった自分なりに能力値を設定した現役メジャーリーガーを参加させたっていい。

 もちろん、実在しないアニメキャラをそのリーグに登場させることも可能だ。野球漫画の名作『ドカベン』が好きだったら、「主人公・山田太郎は、打力は高めに設定するけど、走力はEでいいかな」とか、「悪球打ちの岩鬼は、長打はSだけど選球眼はEだな」など、考えただけでもワクワクする。

 このゲームに出会ったのは、たしか小学校高学年の頃。ということは、もう25年近く経っているわけだけれど、こうして書いているだけでもまたやりたくなってきた。たんなる「野球好き」ではなく「野球オタク」を自認する方には、必ずや楽しんでいただけるゲームだと思う。PC版も発売されていたと思うので、興味の沸いた方は、ぜひ“ベスプレワールド”にハマってみてほしい。

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