日本の自然の豊かさは世界からも認められている―枝廣淳子さんインタビュー(3)

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 3回にわたってお送りしている、『私たちにたいせつな生物多様性のはなし』著者、枝廣淳子さんへのインタビュー。
 枝廣さんはアル・ゴア元米国副大統領の『不都合な真実』の翻訳者としてご存知の方も多いかも知れませんが、NGOジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)( http://www.japanfs.org/ja/ )代表を務めるほか、環境問題に関する考え方や知見を環境メールニュース( http://www.es-inc.jp/lib/ )で広く提供するなど、日本を代表する環境活動家の一人として注目されています。そんな枝廣さんが上梓した『私たちにたいせつな生物多様性のはなし』は「生物多様性」とは何か、それをないがしろにしておくとどうなるのかなど、地球と私たちのつながりを知ることができる一冊となっています。目によく見えない「生物多様性」をどう考えればいいのか。
 最終回となる後編では、日本の自然環境の豊かさや生物多様性の大切さ、環境ジャーナリストとしての活動などについてお話を聞いています。


―後編:日本はもっと自然環境の豊かさを誇るべき―

―3・11をきっかけとした福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染の問題で明らかになったことは、安全だと言われていた原発は、実は安全ではなかったということですよね。枝廣さんはこの原発事故による生物多様性への影響についてどうお考えですか?

「これまで原発は安全、安いと言われてきましたが、今回の事故で、安全でもなく、そしてコストも高いということが分かりました。放射能が生物多様性にどういった影響があるのかは実は非常に大切な分野ですが、まだ研究結果がまとまっていないので今回は書けなかったのですが、研究者のお話を聞いていますと、いちばん参考になる事例はチェルノブイリですね。
今から15年前にチェルノブイリで事故が起きましたが、どれくらい汚染されているのか、そこで何が起きているのかが、生物学者などの調査によって分かってきています。私がお話を聞いたのは鳥の研究者なのですが、汚染された地域では鳥の繁殖率が落ちているそうです。また、事故が起きた直後は奇形の動物もいたという話も聞きますし、15年経っても繁殖率や免疫の機能が落ちているという報告はたくさん出ているようです」

―これから日本でもそうしたことが起きてくるかも知れないわけですね。

「そうですね。福島の場合も長期的にモニタリングをしないといけませんし、もう1つ、チェルノブイリの場合は内陸で起きた事故だったので海洋生物への影響はほとんどありませんでしたが、今回は汚染水を海に流していますよね。あれが海洋の生態系にどのような影響を与えるか…。実は日本だけの話ではないんですよ」

―「ただちに症状が出ない」ということが一番怖いことですよね。

「そうなんです。放射能自体は痛くもかゆくもないですから」

―持続可能性、サスティナブルな社会をつくり上げていこうという話の中で、それまで環境に良いと思われていたものがいきなり牙を剥くということは多いと思います。

「先ほど(前編)でも言ったように、もともと日本人は自然のゆらぎに合わせることで生活をしてきましたが、今は逆になっています。震災後、被災地の石巻に手伝いに行っているのですが、立派な堤防をつくって安全だと言われていた町も自然災害の前ではなすすべがなかった、と。ではどう解決するかというと、もっと高い堤防を、という話になることがあります。それはまさに自然を征服するという考え方ですよね。
原発ももともとそうです。世界で一番地震が多いこの国に、54基の原発があります。私を含めて環境活動をずっと行ってきた人の多くは、(原発に)ずっと反対してきましたが、技術で安全にできるはずだという科学信仰、技術信仰があるのは事実だと思います。でも、自然を征服する対象としてみるのではなく、自然に譲らなきゃいけないところは譲るべきだと考えます。日本は人口が減っていく国ですから、人間と自然とのすみ分け(ゾーニング)ももう一度考えるべきでしょうね」

―本書の中にも書かれていますが、日本ってホットスポット(生物多様性が豊かであるが、破壊の危機に直面している地域)に指定されているんですね。

「日本は島ごと指定されていますね」

―生物多様性が豊かであるという事実は、認められているんですね。

「ガラパゴス諸島も生物多様性が豊かな土地ですが、観光客があまりにも来るため、多様性が損なわれるということで、観光客数の規制をはじめていますよね。日本もホットスポットに指定されているのだから、大事なもの、稀なるものを守るという意識は必要だと思います。いずれ、ホットスポットを大切にしている国のほうが、GDPが高い国よりも世界から尊敬されるようになると思います」

―そういった生物多様性の豊かさの指標が加わればいいんでしょうね。

「はい。日本でも、幸せの指標を作るという動きがありますね。GDPだけではなく、別の大事なものを計ろうという姿勢は良いと思います」

―ここからは、枝廣さん自身についてのお話をうかがいたく思います。現在、日本を代表する環境ジャーナリストとして活躍されていらっしゃいますが、そもそも環境ジャーナリストになろうとしたきっかけはどのようなことだったのですか?

「名刺に(環境ジャーナリストと)書いてはいるのですが、自分自身はそう思ったことはないんですよ。私は、大きな問題があるのにみんなが知らないというギャップがあると動きたくなるんです。大事なことがあって、それを知れば役に立つ人がいるのに、そこがつながっていない。例えば『海外にこんなにいい本があるのに、日本の人は読んでいない』と思うとその本を翻訳しようってなるし、『こんなに大事なことがあるのに、日本の人は知らないのはもったいない』と思ったら自分で本を書いたりもします。私は、伝えること、つなげることを役割としてきているので、そういった活動を見ていた外の方が、環境ジャーナリストという肩書きをつけてくれたのだろうと思います」

―思い立ったら即行動!

「そうなんですよ。だから組織をいっぱいつくって、まわりのみんなに迷惑をかけているんですよね(笑)。会社とかNGOとか」

―でも、今の若い世代、10代や20代の人たちには環境問題に対して高い意識を持っている方が多くいます。そういった学生さんや若者たちに、どうしたら枝廣さんのようになれるのか、アドバイスをいただきたいのですが…。

「肩書きはどうであれ、自分が大事だと思うことのために仕事をしていって欲しいなと思いますね。そのために大事なことが3つあります。1つ目は自分のやっていることが、最終的に何を作り出すためにやっているのかを考えることです。つまり、ビジョンですね。最初からかっちりとしたビジョンを描くことはできないけれど、自分はこういう世界をつくりたいというイメージを持って、それを常に忘れないでいることが重要だと思います。
2つ目には、ちゃんとした知識を身に付けて欲しいですね。環境は今、関心を持っている人が多いので、「なんちゃって科学」も出てきています。そういったものに騙されず、自分でしっかりと勉強して欲しいです。
3番目はネットワークを作ることです。自分ひとりで解決できることはすごく小さいですが、チームで挑めば大きなことも解決することができるようになります。つながって一緒に大きく動かしていく。つながる人は政治家かも知れないし、NGOかも知れないけれど、いろいろな人とつながっていって欲しいですね」

―つながりが大事なんですよね。

「つながりを感じられるというのは、幸せな生き方ですよね」

―最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。

「これから地球の環境がどんどん悪化してきます。悪化しているというニュースを聞くことが多くなると思います。そうしたときに、その事実を他人事のように思ったり、誰かがなんとかしてくれると思ったりするのではなく、そのことが自分の生活につながっているということを意識してください。そして、自分とあらゆる生物はどうつながっているんだろうということに、想いを馳せて欲しいです。そのときに、この本が少しでも役に立つと嬉しいですね」

―ありがとうございます!

(了)


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