野田新内閣が発足したさなか、「児童ポルノ規制法」改正問題が再び浮上した。毎回、グダグダな議論の末、ボツになるけれど、今度の民主党新体制では、どうやら事情が違うようだ。「単純所持」の恐怖が現実になろうとしている?


■逮捕のハードルを下げる「単純所持」禁止の恐怖

 昨年、全国を騒がせた東京都のマンガ規制条例(東京都青少年健全育成条例)を超える悪法が、今年中にも成立しようとしている。8月の国会で、民主党と自民・公明両党が、それぞれ提出した「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(通称“児童ポルノ法”)の改定案が、それだ。

「児童ポルノ法」は1999年に施行されて以来、児童ポルノを配布したり売買するだけでなく、所持することまでを禁止する「単純所持」の導入と、マンガやアニメなど絵で描かれたもの(創作物)の規制が検討されてきたが、この改定案でそれがついに現実化しようとしている。

 現行法では、児童ポルノを「18歳未満の児童を相手にした、もしくは児童による性交や性交類似行為(フェラや手淫など)で性欲を興奮させ、または刺激するもの。衣服の全部または一部を着けない児童の姿態で性欲を興奮させまたは刺激するもの」(要約)と規定している。だが、具体的にどこからがダメなのか、はっきりしない。この規定だと水着はもちろんのこと、素肌を見せるミニスカなども“児童ポルノ”という扱いを受けかねない。つまり、取り締まるかどうかの判断は警察の胸三寸になっているのだ。

 これに「単純所持」の禁止が加われば逮捕のハードルは途端に下がってしまう。現状で容易に入手できるジュニアアイドルのDVDや18歳未満の水着美少女の写真をたまたま持っていただけで児童ポルノの「単純所持」と扱われ警察に逮捕される。そんなことも起こり得るだろう。さらに、マンガやアニメを含めて規制対象としたならば、どこまで被害が及ぶのか見当もつかない。


■児童ポルノ規制は“サッサと成立させたい”?

 制定以来、何度も登場してきた改定論議が再び姿を現したのは今年6月。突如、自民・公明両党が改定案を国会に提出することを示したのだ。8月になり民主党も新たな改定案を作成し議論はスタートしたが、妥協点は見られず、次期国会での継続審議となった。与野党それぞれの案は隔たりが大きい。自民・公明は「単純所持」の禁止と、マンガ・アニメが児童への性的虐待に影響があるかどうか調査を行ない、3年後に創作物への規制も検討する方針だ。

 対して、民主党案は所持の禁止ではなくお金を払って繰り返し所持した場合に限り処罰対象とする「取得罪」の創設を掲げる。また、「この法律の適用に当たっては、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利及び自由を不当に侵害しないように留意し(中略)本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」「この法律のいかなる規定も、架空のものを描写した漫画、アニメーション、コンピュータゲーム等を規制するものと解釈してはならない」ことも明記している。

 民主党の参議院議員・松浦大悟氏は民主党案をこう評価する。

「芸術文化やマンガ・アニメに関する条文を入れたことで、2009年に国会で審議されたときよりも百歩も二百歩も前進していると思います。この法律に限らず100パーセント自分たちにとって理想的な法律をつくることは困難です。そのなかでは最善を尽くしていると思います。しかし、野田新内閣のなかで一番の課題は震災復興なので、児童ポルノ法の優先順位は明らかに低いものです」

 となると、ダラダラと議論だけが続き、次期国会会期末で廃案……という展開が再現されることになるのか? ところが、そうともいえない。上智大学文学部新聞学科の田島泰彦教授は、8月25日に開催された規制反対派による集会「児童ポルノ禁止法改正を考える院内集会」で登壇した際、こう語った。