現役世界一のSF作家といえば、オーストラリアのグレッグ・イーガン。
『SF本の雑誌』のオールタイムベスト100で堂々1位に輝いた『万物理論』を筆頭に、『宇宙消失』『順列都市』『ディアスポラ』と、長篇が邦訳されるたびに大きな話題を集めてきた。
 しかし、もしかするとそれら長編群以上に高く評価されているのがイーガンの中短篇。2006年に『SFマガジン』で実施された翻訳SF短篇オールタイムベスト投票では、イーガンの「しあわせの理由」が(テッド・チャン「あなたの人生の物語」を押さえて)第1位に輝いている。

 これまでに邦訳刊行されたイーガン短篇集は、『祈りの海』『しあわせの理由』『TAP』『ひとりっ子』の4冊。それに加えて、このほど3年ぶり5冊目となる『プランク・ダイヴ』が刊行された(5冊とも、山岸真編訳)
 収録作は、「クリスタルの夜」「エキストラ」「暗黒整数」「グローリー」「ワンの絨毯」「プランク・ダイヴ」「伝播」の全7編(収録順)。このうち4編が2007〜2008年の発表と、今回は新作中心のラインナップになっている。

「クリスタルの夜」は、超高速の結晶コンピュータで人工生命を育てる話。
「エキストラ」は、大金持ちがクローンの若い肉体に自分の脳を移植する話。
「暗黒整数」は、数学SFの大傑作「ルミナス」の続編。
 いずれもめちゃくちゃ面白いが、本書が真価を発揮するのは、「グローリー」以降の宇宙ハードSF四連発。イーガン(の中でもとくに『ディアスポラ』が)好きな人には堪えられない傑作が並んでいる。
「グローリー」では、遥か彼方の異星を訪れた探査チームが、すでに滅びた種族の数学遺産を(文字通り)発掘する話。
「ワンの絨毯」は、のちに(若干の修整を経て)まるごと『ディアスポラ』に組み込まれた話。知的生命探査に旅立った船がとんでもない異星生物と遭遇する。
「プランク・ダイヴ」では、真理を知るために、自分たちの人格のコピーをブラックホールへと飛び込ませる。
 巻末の「伝播」は本邦初訳、21世紀末の月から20光年彼方の惑星に向けて発射された無人探査機の意外な"その後"が描かれる。宇宙に憧れを抱く人にとってはしみじみと胸に沁みる名作。
 あらためて7作品を通して読むと、"世界一のSF作家"の称号がダテじゃないことがよくわかる。世界最高のハードSFを心ゆくまで堪能してほしい。

(大森望)







■ 関連記事
『小松左京追悼トークイベント続々開催』(2011年9月16日13:27)
『第145回直木賞、全候補作最速チェック&予想』(2011年7月4日08:00)
『第145回芥川賞、全候補作最速チェック&予想』(2011年7月4日07:51)


■配信元
WEB本の雑誌