指揮者が語る「リーダー哲学」と「第九」

写真拡大

 オーケストラは社会の縮図とも言っても過言ではないくらい似ています。
 リーダーたる指揮者は、ビジネスの場面における「経営者」や「管理者」に通じるものがある。では、その指揮者はどのようなことを考えているのでしょうか。

 『リーダーシップは「第九」に学べ』(日本経済新聞出版社/刊)は、コスタリカ国立交響楽団桂冠指揮者及びセントラル愛知交響楽団名誉指揮者の小松長生さんが、リーダー哲学と「第九」について語った一冊。難解とされる『第九』の背景と楽曲分析、そして異論の多いシラーによる歌詞の著者による日本語訳も注目を集めています。
 小松さんは指揮者としてどのような想いを持っているのでしょうか。そして、小松さんのリーダー哲学とは? その一部をご紹介します。

■難病の子どもたちから教えてもらったこと
 ボルティモア交響楽団のアソシエート・コンダクターを務めていたとき、小松さんは病棟の中ホールでの恒例クリスマス・コンサートの指揮を任されます。
 演奏するのは「ジングルベル」や「ホワイトクリスマス」など華やかな曲ばかり。ホールに集まった子どもたちからは「イェー!」という明るい歓声を贈ってくれました。しかし、小松さんはこの子たちが現代医学では治療困難な重病を患っており、来年、再来年にはこの世に一人もいないだろうと教えられていました。
 指揮台で目頭が熱くなる小松さん。このとき、それまで自分のことしか頭になかった鼻持ちならない自分自身に気付きます。指揮者という仕事が、ほかの人々にとっていかに大切な機会でありうるかを突きつけられ、軽い気持ちで向かえるものではない、と痛感したそうです。

■音楽が癒す心の傷
 小松さんは音楽が持っている人の心を癒す力にも注目しています。
 自身の知人のオルガニストがアートリーチ基金の理事長を務めていたことがきっかけとなり、子どもたちを戦争で受けたトラウマから立ち直らせるために音楽を含む芸術が、大変な成功を挙げていることを知ります。
 そして、小松さんは音楽療法の一環として演奏を行う際に、選曲には十二分に留意して、しかも曲の構造分析、曲の意図するところを理解して臨む必要がある、と言います。また、その演奏は超一流の演奏家によって提供されるべき、とも述べています。

■よいリーダーは時間があまる
 すべての決断はリーダーがくだす。そう思っているリーダーの方もいるかも知れません。
 しかし、小松さんはリーダーが何もかもを抱え込んでしまい、ストレスに満ちた日々をおれば、心身はすり切れてきますし、チームメンバーに対して後悔するようなきつい言葉を投げかけてしまうことになる、と言います。リーダーの仕事の1つは、自分やメンバーに、落ち着いた静かな時間をもてるように工夫をこらすことなのです。
 ほかの誰よりも長期的展望とプランを考え、作品(プロジェクト)の完成とその意味するところをじっくり考える。指揮者は静かな熟考のなかで作品と通じ合います。良いリーダーは時間があまるのです。

 本書には「そもそも指揮者は必要なのか?」「オーケストラは、指揮者にとっての「楽器」」といった“指揮者の役割”や、「現場の視点から多くのことを学ぶ」「目利きでなければ務まらない」「任せるところは任せる」といったリーダー哲学、さらには「第九」の曲目解説もつづられています。
 オーケストラ好きだけでなく、現在リーダーを任されているビジネスパーソンも指揮者のリーダー哲学から学べることがあるはずです。
(新刊JP編集部)



【関連記事】 元記事はこちら
今、求められているリーダーの条件
従業員のモチベーションをあげるためには?
チリ落盤事故に見る“組織のマネジメント”の方法
「将来の自分が想像できない」若手ビジネスマンへの処方箋