ビジュアル的なインパクトも強めな多田将氏はイベントでも大人気

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 茨城県東海村にある「J−PARC」という巨大な実験施設。そこでは、直径500mの円形をした「加速器」で、陽子を2秒間に30万周させて1秒間に1000兆個のニュートリノを取り出し、そのニュートリノを300km離れた岐阜県神岡町の「スーパーカミオカンデ」で検出する……。

 というよくわからない実験をやっているらしいのだが、実はこれ、ノーベル賞級の発見がほぼ確実視されているという。この世界最先端の施設で、何が行なわれているのかを紹介するのが、「J−PARC」の設計に携わった金髪の天才物理学者「SHOさま」こと、多田将氏の著書『すごい実験―高校生にもわかる素粒子物理の最前線』だ。

――どんな実験をされているのか、すごく簡単に教えてください。

 人間の体も含め、すべての物体は原子で構成されています。その原子よりもさらに小さいのが陽子で、陽子を構成するのが素粒子。ニュートリノは素粒子のひとつ。ニュートリノは飛行中に性質が変わるので、ニュートリノを飛ばしてその変化をとらえるのがこの実験です。

――「J−PARC」は「加速器」の施設なんですよね? なぜ陽子を加速させるんですか?

 この施設は素粒子を取り出すためのものなのですが、素粒子はすさまじく小さくて取り出すのに道具は使えない。そこで、陽子を硬い壁に思いっきりぶつけて壊し、砕けたなかから素粒子を拾うんです。できるだけ細かく陽子を砕きたいから、勢いをつけるために加速器を使います。加速器のしくみは、電磁石のようなものをイメージしてください。

―――なるほど。詳細は本を読んでみます。それで、実験は成功しそうなんでしょうか?

 この実験はニュートリノ振動実験というのですが、始まったのが2010年1月。そして、今年の3月までに、「ミューニュートリノ」から変化した6個の「電子ニュートリノ」の検出に成功しました。このデータ数だと、99.3%の確率で確からしい、と言えます。今後もっとデータが集まって、99.9999%まで高められたら、「新発見」となります。現在、震災の影響で施設は12月まで点検中ですが、スケジュールどおりに復旧すれば2014年頃にデータがそろうはず。ノーベル賞クラスの発見となるでしょう。

―――それはすごい! この新発見は将来どう利用されるんですか?

 申し訳ないのですが、まったく思いつきません。僕は、研究とは東急ハンズの棚に商品を並べていくことだと思っています。

 というのも、僕はよくハンズの棚を目的なしに端から眺めたりするんですが、商品を見ているうちに「これだ!」と思いついたり、商品を見ながらぼんやり考えていたことが、後で何かと結びついたりすることがあります。ハンズ自身も、「ヒント・マーケット」って言ってますよね。眺めるだけで発見につながることがあるんです。

 僕らの日常に欠かせない携帯電話の技術も、もともと携帯を作ろうと思って研究されてきたものはほとんどありません。直接電話とは関係ない多くの技術が“棚に並ぶ”ことで、後の技術者の目につき、出来上がったわけです。

 おそらく、僕が生きている間にニュートリノの利用方法は見つからないでしょう。しかし、100年後の人が見つけてくれるかもしれない。基礎科学の研究とはそういうものなんだと思います。

●多田将(ただ・しょう)
1970年生まれ、大阪府出身。京都大学理学研究科博士課程修了。現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所助教。


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