火力発電所が増えれば料金もアップか

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   東京電力福島第1原子力発電所の事故の影響で、東電が2012年春から電気料金の15%程度値上げを検討中、と報じられた。

   既に東電管内では、原油や液化天然ガス(LNG)など燃料価格の高騰で、電気料金が「右肩上がり」になっている。「15%アップ」はこれとは別の話のようで、事実であれば「原発事故のツケを利用者に回すのか」との批判が高まりそうだ。

1年足らずで620円アップ

   東電では、事故を起こした福島第1と隣接する福島第2原発の停止で、火力発電所を増やして補うため燃料費がかさみ、15%程度の値上げを余儀なくされる――。2011年9月6日付の朝日新聞の記事に対して、東電は敏感に反応した。即座に「こうした事実はございません」と全面的に否定したのだ。8月にも同様の報道が出たが、この時も同じように打ち消している。

   だが実際は、燃料費高騰に伴う値上げは既に実施されている。東電は、原油やLNG、石炭の燃料価格の変動に応じて自動的に電気料金を調整する制度を取り入れている。この価格が2011年に入って上昇を続けており、利用者に転嫁されている格好だ。

   算定方法は少々複雑だ。まず料金設定の前提となる「基準燃料価格」というものがある。東電の場合、4万2700円となっている。次に、3か月分の原油1キロリットル、LNGと石炭は1トン当たりの平均価格を、貿易統計価格に基づいて出し、それぞれ一定の数を乗じたうえで足し算して「平均燃料価格」を算出する。平均燃料価格と基準燃料価格を比べて、数値の大きい方から小さい方を差し引いて千倍した数が「燃料費調整単価」となり、これを一定の計算式に当てはめたのちに最終的な電気料金が計算される仕組みだ。平均燃料価格が基準燃料価格を上回ると、利用者の負担増になる。

   1〜3月の平均燃料価格は6月の電気料金、2〜4月の価格は7月の料金、といった具合に反映される。最新の料金は、8月30日に東電が発表した「10月分」の金額だ。裏付けとなる5〜7月の平均燃料価格は基準燃料価格を上回り、東電がモデルケースとして示す「一般家庭の影響額」は前月分より78円増となった。

   実はこの傾向は、原発事故前からずっと続いている。最後に料金減額となったのは2011年2月分で、2010年12月に発表されたものだ。この時の「一般家庭」モデルの料金は6234円だが、以後は一貫して上がり続け、今回の10月分は6854円。1年足らずで620円もアップしているのだ。

人件費「他業種より高い」との指摘

   原油やLNGの価格が上がり続けている以上、電気料金への上乗せはある程度仕方がないかもしれない。しかし、それに加えて原発の運転停止による金銭的な負担まで利用者が被るとなれば、反発は必至だ。

   東電にとっては福島第1、第2原発だけでなく、現在一部が運転中の柏崎刈羽原発(新潟県)も、定期検査に入った後に再稼働の許可が下りなければ別の形で不足する電力を生みださねばならない。横須賀火力発電所のように、一度は運転をストップしていた火力発電所が再開するなど、火力発電に頼らざるを得ない状況は続いている。燃料費高騰の影響はますます大きくなるばかりだ。来春値上げの報道を東電側は否定するが、ただでさえ巨額の賠償を抱える現状を考えれば「なきにしもあらず」かもしれない。

   だが値上げとなれば、東電に対して「さらなるリストラ」を求める厳しい声はいっそう高まると予想される。東電の経営や財務の調査を行う政府の「経営・財務調査委員会」の下河辺和彦委員長は2011年8月24日の会合後、東電の退職金や福利厚生、企業年金を含め人件費が「他業種より高い」と指摘し、抜本的な見直しを進める意向を示したという。

   徹底したリストラや資産売却といった改革を東電が実行しなければ、利用者から「値上げ」に関して理解を得るのは難しい。とはいえ、原発停止による火力発電依存が高まれば、どこかで燃料費の負担を吸収しなければならず、簡単に解が見つからないのが現状だ。

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