身勝手な親が子を不幸にする――30年も前から予言していた『スポットライト』

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【マンガ・日本メイ作劇場第15回】

――西暦を確認したくなるほど時代錯誤なセリフ、常識というハードルを優雅に飛び越えた設定、凡人を置いけきぼりにするトリッキーなストーリー展開。少女マンガ史にさんぜんと輝く「迷」作を、ひもといていきます。

 少女マンガの中には、時代を何年も先取りした作品がある。女の社会進出がままならなかったころに息子ほど年の違う若者との恋愛を描いた『砂の城』(一条ゆかり、集英社)や、現在の原発事故を予見するかのような『パエトーン』(山岸凉子、角川書店)、ネット時代を先読みした『ワン・ゼロ』(佐藤史生、小学館)などだ。

 ここにも、30年後の日本を見事に読み切った作品がある。それが『スポットライト』だ。主人公は、山科望。貧乏な母子家庭にも関わらず、幼い頃から母親にスターになれなれ言われて、バレエだの歌だのを習わされながら育つ。

 70年代の少女マンガでは、驚くような貧乏な家庭がしばしば登場する。高度成長期の恩恵を受け損ねた家というのがまだまだ多く、またマンガ家自体が金銭的に恵まれた生活をしていなかったためだろう。貧乏描写の上手なこと。そしてその貧乏人が芸能界を目指すというのは、当時は現実にもままあることだった。

 と、ここまでなら何も未来を予言するような要素はどこにもない。むしろ古典的な設定である。本番はここからである。幼い望は、母親に無理やり習い事に通わされていたのだが、そのうちに母親に感化されて、「スターになる」などと言い出す。最初からやる気満々だと読者がついてこないから、最初は控えめにさせたわけだ。

 お歌の先生に「素質がない」と言われてめそめそ帰ってきた望に、母親は言う。「素質より努力の問題よ」。そしてデビューのチャンスをつかんだ望に、「デビューするまで家に帰ってくるな」と言って、とある映画監督の家に弟子入りさせる。「このつらさもさみしさも、みんなおまえの未来のためなんだから」と。なかなかまっとうで芯の強い母親である。

 そうこうするうちに母親はゴホゴホとイヤな咳をするようになる。そうか貧乏暇なしの生活が祟って胸を病んだか、そのうち母親は死ぬんだな、とか思っていたのに、彼女は入院先から不死鳥のように蘇るのだ。なんの病気かまったくわからないのに、血を吐いたりもうダメだと言われ続けてまだ死なない月影先生(『ガラスの仮面』)のようである。そして母親は、驚くほど元気いっぱいにモンスターへと生まれ変わり、めいっぱい物語を盛り上げてくれるのであった。

 そう、このマンガは、「30年後はこんな面倒な親が世の中にいっぱいいるんですよ」と教えてくれる予言の書だったのである。

 母親は無理やり退院すると、それまでの不調はどこへやら、モンスター行為を繰り返す。望の所属する貧乏プロダクションの金を盗んで自分の美容代にあてがい、テレビ局に乗り込んでいって「うちの娘はこの出演者の誰よりも人気があるからもっと目立つシーンで歌わせろ」などと言って回ったり(そういや似たようなこと言って娘の映画出演を台無しにしたステージママがいたよな)、大手プロダクションになりふり構わずたてつき、ゴシップ記事を雑誌に垂れ流しと、せっせとモンスターぶりを発揮してとことん娘を困らせるのだった。

 しかしモンスターとなって生まれ変わる前にも、その前兆はあった。彼女は若いころ、女優だった。そして男に熱を上げて仕事を放り出すようになり、落ちぶれていったらしい。それを、「あの女優に仕事と男を取られた」とかいつまでもネチネチと文句を言っているのだ。ていうか、男に夢中になって仕事ほったらかす程度のくせに、娘に同じ仕事を押しつけるなよなあ。