「コンバースのスニーカーが全面輸入禁止になる!」

 そんな噂がツイッター上を駆け巡ったのは先月末のこと。コンバースのスニーカーといえば、田舎の中学生からファッション業界関係者まで愛用する定番中の定番アイテム。そのコンバースが輸入禁止になるなんて、ちょっと信じられないけど……。関西でスニーカー輸入販売業を営む男性がこう説明する。

「国内正規品は今までどおりに手に入るのでご心配なく。ですから、噂は100パーセントデマ!と言いたいところですが、そうでもなくて……。というのも、日本国内でコンバースの商標権を持つ大手商社の伊藤忠商事(以下、伊藤忠)がここにきて商標権の侵害対策を強化し始めたんですね。で、われわれのような業者が、日本の代理店や子会社を通さず別のルートでコンバースの製品を輸入(並行輸入)できなくなったんです」

 つまり、噂の大本は「業者が並行輸入できなくなる」という事実で、一般ユーザーにとってはあんまり関係なさそう。

 そもそもコンバースの商標権に関してはややこしい事情がある。「コンバース社=米国の会社」だと思われがちだが、実は2001年に旧・米国コンバース社は倒産しており、現在は、米国では“新しい米国コンバース社”が、日本では伊藤忠がそれぞれ商標権を持っているのだ。ブランドの権利問題に詳しい中川豊弁護士はこう語る。

「コンバースのように同じ商標であっても、日本と外国で商標権者が違う場合、日本の商標権者の許諾を得ないかぎり、基本的には輸入できません。判例上、一定の条件を満たせば真正品の並行輸入が例外的に認められるケースもありますが、コンバースはそれに当たらないという判決がすでに裁判所によって下されています」

 中川弁護士が指摘するように、伊藤忠と愛知県の輸入販売業者との間で争われていた、いわゆる「コンバース訴訟」に関して、知財高裁は昨年の4月末、伊藤忠側の訴えを全面的に認める判決を下している。

「そういった経緯もあり、伊藤忠は税関に対して知的財産の輸入差し止めの申し立てを行ない、7月5日からほかの業者が米国コンバース社の製品を並行輸入できなくなったというわけです。まあ、法的根拠はあるとはいえ、われわれのような業者にとっては厳しい措置です」(前出・輸入販売業者)

 この輸入販売業者によると、つい最近まで問題なく輸入できていたコンバース製品が米国の税関で没収されるケースも出始めているとか。 また、今回の件に悲鳴を上げているのは業者だけではないようだ。都内在住の30代スニーカー愛好家もこう嘆く。

「僕が心配しているのは、通常、日本には入ってこない、いわゆるレア度の高いスニーカーが手に入らなくなること。例えば、別ブランドのデザイナーとのコラボ商品とか、その手のモノ。で、今までの経験上、伊藤忠はそうした商品をあまり扱わないので、並行輸入をする販売業者を通して買い漁っていたわけです。今後、そういったレアなコンバースはどうなるのか。伊藤忠が完全に扱わないなら、当然、手に入れられなくなるわけだし、逆に伊藤忠が扱って、その商品が店頭にガンガン並ぶようだと“付加価値”がなくなってしまう(苦笑)。つまり、どちらにしても、コアな市場で楽しんでいた僕のような人間にとっては一大事なのです」

 また、別のコンバースマニアも危機感を募らせている。コンバース愛用歴30年以上の男性はこう語る。

「今回の話って、現在の米国コンバース社の商品を勝手に輸入しちゃダメってことで、01年以前の旧・米国コンバース社のモノもダメとは言ってないわけですよね。コンバースって100年以上の歴史がある分、ものすごく古い商品も存在して、それに価値を見いだしている私のようなマニアも少なくない。でも、税関のスタッフがそんなマニア市場のことなんて知るわけないじゃないですか。コンバースだからって、なんでもかんでも止めることだって考えられるんです。例えば、米国の税関のスタッフが『これはコンバースだから日本に出しちゃダメ』って単純に判断して没収されたら、泣くに泣けません」

 マニアの世界は奥が深い……。というわけで、今回の輸入禁止騒ぎは一般ユーザーにはほとんど影響ナシ。ただし、輸入販売業者やマニアじゃなくても、例えば海外旅行時にコンバースのスニーカーを複数購入した場合など、販売目的と見なされ、税関で没収される可能性もあるというから、念のため注意が必要かもしれない。

(取材・文/コバタカヒト)


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